初仕事:亡命の皇子
きちんとしたお仕事の始まり
外務省UWで勤務して、一か月が経過した。
「この資料に目を通しておいて」
「はいっ!!」
水郷に告げられて過去にあった様々な事件の資料を読んでいる時だった。
ピーピーピーピー
けたたましく警告音が鳴り響く。
「――正規ルートのお客さんだな」
先輩が呟く。
「枡岡。久慈川。あと、ちょうどいいから八千草。付いてこい」
水郷が命じる。
すぐに先輩と久慈川さん――初日に電話をしていた人がすぐに立ち上がり、準備を始める。
「園田さんは応接室の用意」
初日にエルフと話をしていた女性が動き出す。
水郷は階段の方に行き、普段は行かない三階に上がっていく。
「先輩。三階って……」
「正規ルートで来る異世界人は三階の特殊な部屋にしか現れないようにシステム化されているんだ」
「それ以外は非正規な方だからあのお三方の対応になるんだよ」
枡岡と久慈川が説明してくれる。
その特殊な部屋は、一見普通の部屋に見えるが、部屋の模様が実は西洋魔術と東洋魔術が組み込まれた術式が描かれているとの事だ。
おしゃれな模様にしか思えないけど。
部屋のドアを開くとバチバチバチと部屋の中央から音がして、特撮でよく見るような空間が裂けるように黒い雷が出現して、
「――もう大丈夫です。皇子」
と、水色の髪の女性が一人の子供に向かって微笑んでいる。
綺麗な女性だな。横顔しか見えないけど。あと、身体のあちこちから金属とかコードとかが見えているけど。
って、あれ?
「日本語?」
「この部屋に現れるお客人は自動的にどんな言語でも日本語になるように設定されているんだ」
そうしないと話も出来ないしな。
「ようこそ。***世界。地球。日本へ」
水郷が挨拶をすると女性が顔をあげる。世界の前は聞き取れなかったけど、この世界がどんな名前なのか知らないからだろう。多分。
「うわぁぁ」
顔をあげると女性の右半分は機械だった。左側は髪の色と同じ水色だけど反対側は皮が捲れたように金属の表面が見えていて、目の部分は赤いライトのように光っている。
「突然の訪問申し訳ありません。わたくしはエディルガ世界シェリルバード国。クリシュナと申します」
ぼろぼろの身体でその世界の正式な挨拶だろう不思議な動きをして。
「亡命の手続きをお願いします」
と単刀直入に用件を述べる。
「亡命。ですか。それはあなた方お二人ですか?」
「いえ。――このお方。セイルシア様お一人です」
「クリシュナ!!」
子供がクリシュナさんを呼ぶ。
「僕は亡命など」
「皇子!!」
びくっ
叱られて反応をする皇子と呼ばれた子供。どうやら皇子さまのようだ。
「幻影族は貴方様を亡き者にしようと襲ってきたのです。このままでは本当にお命が」
「で、でも!!」
泣きながら首を横に振っている皇子さまに。
「どういう事ですかね……」
ひそっ
近くに居る先輩に尋ねる。
「いや、知らないから」
ひそっ
先輩も知らないようだ。
目の前では機械の女性と子供が必死に言い合いをしている。
「確か、エディルガ世界のシェリルバード国と言うのは女系皇家で男子が生まれるのは珍しい事らしい。で、特に男女の双子が生まれるのは瑞兆と言われているんだ」
久慈川がボソッと小声で説明をする。
瑞兆……。
「僕はシェリルバードの皇子だ。すべき事を為さずに安穏としてはいけないだろう」
「いえっ!!」
びくっ
「力を付けて時期をお待ちください。必ず。お迎えに参ります」
クリシュナが説得している。反論は出来ないだろう。黙っている。
「じゃあ、詳しい話は応接室で」
「分かりました。行きましょう」
皇子とクリシュナは手を繋いで応接室に向かい、水郷が対応する事になった。
「ここに資料が……」
久慈川が資料室から関連資料を持ってきて机に置く。
「えっと……」
シェリルバード国では国の危機が訪れると代々双子が皇家に生まれる。
双子が生まれるとともに国を襲っていた災厄が弱体化するほどの聖なる力が国中に広がる。
災厄が他国からの戦争だったら皇子が成人すると自ら戦場に出てその侵略しようとする国を倒すほどの力を持ち。
それが自然災害、病であっても皇子の持つ聖なる力がその元凶を消し去ってしまう。
ただし、それは皇子が成人になってからであり、子供のうちは力を覚醒しない非力な存在である。
それゆえに皇子が幼いうちに殺してしまおうとする存在がいる。実際皇子が殺された事によって国が弱体化した事もある。
過去三回皇子が暗殺されて侵略した国によって属国にされた事がある。
「なんかすごい歴史なんですけど……」
「属国だったのが独立するきっかけも皇家に男女の双子が生まれる時だったか。よくばれずに育てれたな」
資料に書かれている事が事実だとしたら不死鳥のように甦ると思うべきだろうか。余程皇家を守る人が優秀だったんだなと思えてくる。
資料を見ているとクリシュナという字が出てくる。
「クリシュナさん?」
「んっ? どれどれ?」
そこには皇家を守る機械騎士と説明があり、彼女の力で皇子を守っているとある。
しばらく資料を読んでいたら応接室のドアが開かれる。
「では、セイルシアさまをよろしくお願いします」
「クリシュナ!!」
今度は日本式に頭を下げて、クリシュナは応接室から出ていく。
水郷と共に三階に向かうとクリシュナは例の部屋から本来の世界に戻っていった。
「クリシュナ……」
皇子を残して。
エディルガ世界はアラビア系の世界だと思ってください。(言語はともかく)
昔に考えていた作品のネタでした。