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長男は大変です

ほのぼの家族。

 拒否権を与えられずに正式に雇用される事になった。


「お帰り~!!」

 家に帰ると咲良がとたとたと出迎えてくれる。


「ただいま咲良」

 咲良を抱っこすると咲良が嬉しそうに歓声を上げる。


「みんなは?」

「あのね。和人にいは部活で。桃ねえはバイト。あとはみんないるよ~」

 時計を確認すると夕飯の準備をしているのだなと判断できる。


「父さんと母さんは?」

ここでのみんなというのは兄弟の事を言う。父さんと母さんが居る方が珍しいからだ。


「二人とも仕事が忙しいから先に食べてって」

 いつも通りだな。


 咲良を抱っこしたまま台所に行くと紅葉と康太がてんぷらを作っている。亮太はテーブルに箸を並べるお手伝いをしている。


「ただいま~」

 もう一度告げると。

 

「「「おかえり兄ちゃん」」」

 三人が顔を向けて返事をしてくれる。


「父さん達はまだ仕事だって?」

「そう。駆け込みのお客さんが来たからね」

「今のご時世。仕事があるだけでもいい事だって言っていたけどな」

 父さん達は小さな印刷工場を夫婦でしている。夏前と年末が一番忙しくてあとはまちまちとの事だ。


 跡を継いだ方がいいのかと思ってその道に進もうとしたのだが、紅葉に叱られた。

「機械音痴の兄さんが継いだ方が不安だから!!」

 と。両親の跡を継ぐのは私。と、紅葉がさっさと立候補している。


「この芸術や文化を兄さんたちが理解できるとは思えないから私が継いだ方がいいわ。それに原石の生原稿という勿体無いものを作らせる事は出来ない!!」

 ……………うん。よく分からない。


 ちなみに和人は絶対関わりたくないと蒼褪めていた。小さい時にこっそり会社に入り込んで冒険をした時に見てはいけない物を見てトラウマになったとか。

 そんな和人はサッカーを昔からやっていて、今通っているスポーツ推薦で入った学校でサッカーの強豪校だ。

 将来はプロになると宣言している。


 長女の桃香は高校の時からやっているチケット売りのバイトで短大を卒業したらそのチケット売りをしているイベント会社に就職するという話になっているのだ。


 つまり、下三人以外将来の希望もあり、その未来のために努力をしているので、宙ぶらりん状態であった俺の就職はかなり注目される内容だったのだ。


「……………」

 冷静に考えたら拒否権は無いし、今更断る事も出来ない。


 テーブルにてんぷらが並ぶ。

「ただいま~」

 玄関から桃香の声。


「腹減った~」

 同じく和人の声も。


「”ただいま”でしょう!!」 

 早速桃香に怒られている。


「兄さん。スーツ脱いできたら」

「そうだな」

 このまま食べたら桃香に叱られる。


 一度着替えに部屋に戻ってから再び台所に戻る。


「「「「「「「いただきます」」」」」」」

 七人兄弟が揃うと壮観だ。


「桃ねえバイトどうだった?」

「いつも通り先輩がうざかった。強制的に食事に連れて行かれそうになったけど、他の先輩が助けてくれて事なきを得た」

「大丈夫なのかよ。そんな先輩がいて」

「大丈夫。大丈夫。うざいだけだから」

 パワハラとかセクハラじゃなくて、ただ考え方の違いというだけであっちが一方的に突っかかってくるだけだし。


「考え方って……」

「会社に尽くすのが当たり前で級力が安くても働かせてもらえるという事に喜ぶべきだと。滅私奉公は当たり前だと。どこのブラックに教育されたのかと思えるわね」

「「「うわぁぁぁぁぁ」」」

 聞いているだけで不安だ。


「お前の会社って、そんなブラックなのか……」

「福祉厚生もしっかりしているホワイトの会社だよ。そうじゃなかったらさっさと辞めているし」

 その先輩以外はいい職場なのよとため息交じりに話をする。


「それよりも兄さんは?」

「あッ!! 俺も気になった!!」

「どんなとこ?」

 目をキラキラと輝かせて聞かれるが。


「う~んと」

 どう説明すればいいのか。


(まさか、異世界人相手の外交官だとは言えないし)

 信じないだろうし。


「まあ……守秘義務があるけど……外交関係だな」

 うん。嘘は言っていない。


「外交ね~」

 桃香が苦虫を踏みつけたような顔になっている。


「兄さんに外交なんてできるの?」

「外国語出来たっけ?」

「そういや、和人は他の勉強はからきしだったけど、外国語は強いわよね。英語にイタリア語。ドイツ語もだっけ?」

「後、フランス語とオランダ語。スペイン語。ヨーロッパで使われる言語は勉強中。将来そっちのチームに入りたいし」

 サッカーの本場と言えばそっちだろうし。

 天ぷらを取り合いしつつ話をしながらの食事風景。


「まあ、無理しないでね」

 桃香がイカのてんぷらをお皿に乗せながら告げる。


「家族を養うために頑張るのはいいけど、無理をして身体を壊して負担になるなんて本末転倒。そう言うの嫌い」

 シビアな事を告げるな。ホント。


「そんな無理をしないさ」

「どうだか」

「兄さんは前科持ち出しね」

 紅葉も口を挟む。


「前科?」

 康太が不思議そうに口を挟む。


「兄ちゃんが小学生の時。委員長に選ばれたのだからしっかりやらないといけないと仕事を抱え込んでその後知恵熱。みんなのためにと頑張った結果。クラスメイトは兄ちゃんが何をしているか知らなかったから委員長の仕事内容が全く分からないでその後回らなくなったという話」

 和人が説明。


「ちょうど。学習発表会というイベントだったのよね。発表内容の準備を一人で抱えた結果学習発表でする事が一切分からなくて混乱状態だったみたいだよ」

 紅葉も容赦なく補足説明。


「一人で抱え込んでも誰の役にも立たないというのがよく分かる経験だったわ」

 それを反面教師にして桃香は立派に誰かに頼るという事を学んだ。


「一人でやる方がどう動けばいいのかイメージできるけど、一人では何も出来ないというのはよく分かったわよね」

「何かをする時は必ず相談しろという家訓も出来たほどね」

「……………」

 散々な言われように反論も出来ずに身を小さくする事しか出来ない。


「康太も咲良も一人で何でもやろうとするなよ」

「「は~い!!」」

 そんないい返事を聞いて一生言われるんだろうなと落ち込んでしまう。


「まあ、でもよかった」

「桃香?」

 安心したように微笑まれる。


「守秘義務があるとはいえ、兄さんが騙されているわけではなくて」

 最初疑ったんだよね。


「怪しげな犯罪まがいな仕事とか。危険が伴う仕事とか。詐欺に引っ掛かってなくて」

「……………」

 桃香に言われたが、それに近いかもとは言い出せなかった。 


誰かを泣かせる行為はして欲しくないものです。

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