先輩に仕事を紹介されたんですけど
ふと思いついた。まだ、全然話が進んでいない。
官僚にならないかと声を掛けられた時は、
「先輩。冗談は名前だけにしてくださいよっ!!」
と笑い飛ばした。
一応、大学こそ通っているが、成績は底辺だし、外国語? 英語も覚束ないですけど何か。という感じだ。
単位を落とさないのはひとえにうちが大家族で大学を通うのも躊躇うほどの生活が圧迫しているからで家族の負担を掛けない。絶対と心に誓ったからだ。
本当は高校卒業して職を探そうと思ったけど、このご時世不況でまともな仕事は見つからないでしょうと妹と弟に叱られて、それくらいなら大学卒業をしていいところで働いて下の子たちのためにお金を出してくれた方がいいと言われたのでそれを実行するために就活を頑張っている最中だ。
なので、いい仕事先を探している矢先にお世話になっていた先輩に食事に誘われてそんな話を持ち掛けられたのだ。
「俺の名前が冗談って……それはお前らが言っているだけだろう」
「だって、冗談にしか思えませんよ。マスオなんて」
同じ学部の友人は先輩をたまに”磯野さんでしたっけ?”ととぼけるほどだ。
「おれは枡岡であって、マスオじゃねえ!! ったく、この前、ヤエの奴とうとう”サザエ先輩”と呼んできたからアイアンクローを掛けたけどな」
「あいつ。俺の事も”ちぐさちゃん”ですからね。そういう先輩も八重垣をヤエ呼びじゃないですか」
苦笑いを浮かべながら先輩の冗談が長いなお酒を飲んでいないのにと呆れながら奢ってもらったカツどんを食べる。
「あっちが先だからな。で、どうなんだ?」
お前いい仕事就きたいと言っていただろう。
「まあ、そうですね。官僚は冗談として紹介してくれるんですか?」
それなら助かりますけど。
「冗談にするなよ~。お前が適任だから声かけたんだし。じゃあ、話し通してもいいな」
まるで逃がさないとばかりに強く言われて、
「先輩。何か怪しい詐欺にでも掛かりましたか?」
まるでねずみ講みたいな感じになっていますよ。
これは警戒した方がいいのか。それとも先輩から詳しい話を聞いて消費者センターに一緒に行くべきか。
そんな事を考えてしまうが、一歩遅れてしまい、結局その日はそれで終わりになってしまった。
で、すっかりそんな事も忘れて。後日。
「にいちゃ~ん。お手紙だよ~」
ばたばたばた
末っ子の咲良とそのすぐ上の亮太が大きな封筒を持ってくる。
がさっ
中を開くとそこには霞が関の住所の書かれていた書類一式が封筒には入っている。
「兄ちゃん。霞が関って政治家の?」
「康太兄。霞が関ってな~に?」
次男の康太に尋ねるのは三男の和人。
「桃ねえ。霞が関って何?」
「兄さん。霞が関って、どうしてそんなところからの書類が来るの?」
次女の紅葉に長女の桃香まで封筒を覗き込んでくる。
「…………兄さん。本採用しますって書いてあるけど!!」
いつの間に受けに行ったのっ!!
慌てて問い掛けられるがそんなのこっちも初耳だ。
「知らないっ!! 枡岡先輩に誘われたけど……」
「枡岡さん? 兄さんの先輩の?」
「あ、ああ」
じっと桃香は書類を見て。
「外務省勤務と書いてあるけど……」
桃香が読んでいくにつれて先輩の言葉を思い出してくる。
(先輩。ここまで手の込んだいたずらをするとは思いませんでしたよ)
つい、カレンダーを見てしまう。
4月1日ではなかった。
主人公の名前。八千草隼人。(あだ名ちぐさちゃん)
弟妹。
長女桃香。
次男和人。
三男康太。
次女紅葉。
四男亮太。
三女咲良。となっています。




