異世界 ガイドのお仕事
「寒いなあ、もう疲れた。帰っても一人か。」
会社帰りの夜の街で、そんなことを考えながら歩いていると、ダウンジャケットのポケットに手を突っ込み震えながら客引きをしている女の子が声をかけてきた。
「1時間3千円、飲み放題、どうですか」
僕は、軽く首を振り、歩幅を広げて歩くスピードを上げようとした。
僕の進行方向に割って入るように動きながら、女の子がなおも話しかけてくる。
「お願い、寒すぎる、助けると思って1時間だけよっていって」
すがるような彼女の目に、僕は断りきれなかった。
「1時間だけ」
思わず言ってしまった。
彼女の後について歩くこと5分、古びた雑居ビルのエレベーターで3階に上がり、さらに1番奥の怪しげなドアの前に。
そこには、手書きの文字で、「BAR異世界」とある。
怪しすぎる。帰りたい。そう思っていると、彼女がポケットから鍵を出して、ドアを開けている。
他に店員さんはいないのか?
そんなことを思っていると、彼女が、ドアを押してくらい店内に入り、電気をつけた。そして振り向きざまに
「異世界にようこそ」
と、笑顔で言った。
決まり文句なのだろう、そう思いながら、僕はその怪しげな店内にゆっくりと足を踏み入れた。
それが、全てのはじまりだった。