4: We need to talk.
「話がある」
カイルは立ったまま緊張しているシンシアにそう言い放つと、メリルに外套を預けた。
「彼女を執務室へ」
「かしこまりました」
言い終えるやいなや、立ち去ってしまう。
(びっくりした…)
「シンシア、ごめんなさいね。週末にはまだ早いけれど、もうお見えになられたようなの」
まだ週の半ばである。
「急なときは必ず先触れを下さるのだけれど…余程急いでいらしたのね」
ーー話がある
淡々と告げた声が蘇る。まさかこのために急いで帰ってきたということはないだろうが、そんな忙しい合間をぬってまで何の話があるというのだろう。当主ともなると一介の女中のことですら逐一把握するものなのだろうか。
今更ながらに身構える。僅かの間だったが向けられた怜悧な視線は、すべてを見透かすようだった。
べつになんの後ろ暗いこともないので堂々としていればいいのだが、ことシンシアに限ってはそう簡単にやり過ごせる話ではなかった。
貴族と話をするのですら初めてなのに、それが国王に次ぐ公爵で、しかもあの鋭い眼差しの持ち主ともなると、まるで尋問にでもかけられるかのような心地になってくる。
次第に青褪めていくシンシアに、メリルは慌てて声をかけた。
「まあ!シンシア、大丈夫よ?決して悪くはなさらないはずだわ。そうね、まずは荷物を置かなければ。あなたのお部屋に案内するわ。ついてきて」
鞄を手に従い、長い廊下を進んでいく。
やがて突き当りの奥の部屋のドアを開け、メリルは振り向いた。
「ここがあなたのお部屋よ。一番奥だけれど日当たりはいいから安心してね」
「ありがとうございます」
「あとで明日からの説明をするわ。まずは荷物を置いてカイル様の元へ向かいましょう」
「はい」
急いで鞄を部屋に入れ、メリルのあとに続く。
(よかった、ありがたいわ…)
まさか個室をもらえるとは思っていなかった。
部屋をゆっくり眺める間はなかったが、サッと見渡す限りでは簡素なベッドと机、衣装箪笥があり、贅沢をしないシンシアには十分すぎるほどだ。何より窓の外の景色が雨にけぶり美しかった。シンシアは胸を撫で下ろすとともに、ここでお勤めをしたいと改めて胸に誓う。
(しっかりとしなくては)
貴族の礼は何度も練習してきた。さっきは咄嗟のことに失念してしまったが、今度こそはと意気込む。
「失礼いたします」
メリルが執務室の扉をノックする。
シンシアは背筋を伸ばした。