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公爵と村娘  作者: azure
10/19

10: I want to do something for you.

シンシアの朝は6時から始まる。


手早くお仕着せに着替えると、小さなメモとペンを忘れないようにポケットに忍ばせる。それは学んだことや気づいたことを書き留めるためのものだった。


ーー何かお役にたてることもあるやもしれません。そして…


先日のカイルとの一幕。あのあとシンシアは胸に誓ったのだ。

まずは役に立つ、ということを。

そうすればきっとその先に自分にしかできないことが見えてくるのではないかと思っている。


ーー期待しているぞ


カイルからも直々にあのように言われたのだ。頑張らない理由などあろうはずもない。

シンシアは窓際の机に置いた数冊の帳面を見た。


(家から何冊か持ってきてよかった)


あの日から日報をつけて役に立てることがないかをつぶさに考える日々だ。先週は館内の見取図を書いて動線を意識した仕事の進め方を編み出した。効率が上がればそれだけ人の手を煩わせずに済む。

まだ勝手がわからないところは残るものの、ある程度仕事の流れは把握したので、次は人間関係がポイントになってくるだろう。せっかくベテラン揃いのラッセルズで働けるのだから色んな人と接して学びたいし、そんな人達の役に立てたなら、それは自分の成長も意味すると思う。


(手探りだけれど)


自分にできることなどしれているだろうが、些細なことでも役に立てるように頑張りたい。それでもし相手が喜んでくれたら嬉しいことだ。

だからこそ、メモは欠かせなかった。何か頼み事をされるかもしれないし、色んな気づきもあるかもしれない。


(でも、最初は失敗したわね)


初日の挨拶回りの際、つい人前でメモをしてしまい周りからは怪訝な目でみられてしまった。

最終的には張り切った新人が来たということで皆の意見は一致したが、この一件でシンシアの顔と名前はすぐに覚えられることとなった。

そんなこんなでラッセルズでの日々はあっという間に過ぎていったのだ。


(カイル様はこの週末、帰ってこられるのかしら)


カイルがラッセルズに滞在するのは決まって週末だが、毎週というわけでもなかった。


(わかっていたけれど本当に忙しい方なのだわ…)


あれ以降、会話する機会はなかった。

滞在中は大抵執務室に篭りきりでクラークが頻繁に呼び出されていた。三度の食事も執務室に運ばせていたほどで、すべてサッと済ませられる軽食ばかり。午後にメリルと茶の支度をするとき以外は顔を合わせることもなかった。

メリルいわく今は特別忙しい時期で、それが終わると遠乗りや狩りにでられたりして寛がれることもあるそうだ。


(ゆっくりされるお姿なんて想像もつかないわ…大丈夫なのかしら、あんなに激務で)


執務をこなす姿を傍から見ると生来の気品がそうさせるのか、優雅さすらみえて余裕なのではないかと錯覚しそうになるが、内容は相当ハードなはずだ。凡人には計り知れないが、身体がいくつあっても足りなさそうだということぐらいはさすがにわかる。

シンシアにできることといえばーーーそんなカイルに何か栄養のあるものをとってもらったらどうだろうか、ということだった。


(そうだわ、ブロディさんにきいてみよう)


シンシアは厨房に向かった。


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