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公爵と村娘  作者: azure
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1: Cynthia Alcott

ーーシンシア……そなたの本当の家は……


「う…ん…」


ゆっくりと目を開けると朝の光が差し込み、瞬く。


(また、あの夢……)


小さい頃によく見た夢。

誰かわからないがいつも同じ男性が語りかけてくる。


成長するに従っていつしか見なくなり、すっかり忘れていたが、また見ることになるとは。


もしかすると夢ではなく小さい頃の記憶なのかもしれないが、心当たりはない。


ーー私の「本当の家」…?


シンシア=オルコット。

しがない織物屋、オルコット家の娘。


それ以上でもそれ以下でもない。


それでも、ダークシャー領ソニア村で評判のおしどり夫婦に生まれた幼子は、それはそれは可愛がられ、村一番の聡明な娘に育った。


学校に行けない子供達に読み書きを教える傍ら教師の職を探していたが、こんな小さな村の学校に空きはなかった。

いっそのこと村を出てもよかったのだが、慕ってくれる子供達と、この頃少し老けた両親を置いていくのも胸が傷んで、家業を手伝いながら日々をやり過ごしていた。


両親は好きにしていいと言ってくれているが、本当はこのまま自分が家を継ぐのを願っているだろう。一人娘なのだから、いずれは継いで入婿を迎えるのがこの村では普通のことなのだ。


シンシアもそれが当たり前のこととして育ってきた。だが、大きくなるにつれてどこか違和感を覚え、近頃は村の外に出てみたいという想いを抑えるのが難しくなっていた。代わり映えのない日々に少々気落ちしていたのは事実だ。


そんな娘を見かねた両親が、花嫁修行もかねてと伝手を辿ってくれたおかげで、先日領主であるダークシャー家への女中奉公が決まったところである。


今日は領主の屋敷へ向かうその日だった。


(さすがに緊張しないわけにはいかないわ…)


記憶は何がきっかけで揺さぶられるのかわからないものだ。久しぶり覚えた緊張感が、昔の夢を思い出させたのだろうか。


ーーシンシア……そなたの"本当の家"は……


あの声が脳裏に響く。昔も今も、その先に続く言葉を聞く前に目覚めてしまうので結末はわからないままだが、声はやたらと鮮明で、夢にしてはいささか現実味を帯びていた。


(私がまるで他所の家の子だとでもいうの……)


それならば、たちが悪い。

深層心理が見せた夢なら、自分はこの家に余程不満があるのか。


思わず両親の顔が浮かんで、胸が痛む。


不満などない。たとえあれが夢ではなく現実の記憶で、実は自分が他家の子供だったとしても、このオルコット家になんの不足があろう。


小さな家だが、とても幸せな家庭だ。

育ててくれた両親には感謝している。


織物屋を継ぐかどうかについては正直なところまだ答えをだせないが、少なくとも今回取り付けてもらえた女中奉公に行って、成長してまた帰ってきたらいいのだ。


(さあ、起きて支度をしなくては)


シンシアはベッドから降りると、窓を開けて新鮮な空気を吸い込んだ。



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