幼馴染
翌日、僕がいつもの時間に登校すると、僕の席にはクラスメイトの女の子が座っていた。
どうやら、隣の席の月島さんと話をしているようだ。女の子たちの会話を邪魔してしまうのは気が引ける。席に行ってもいいか悩んでいたけど、すでにこちらに気付いてしまった様子のふたり。クラスメイトの女の子が席をあけようとしてくれているのを見て、僕は素直に席に向かった。
「ごめんね三上君、席借りてた」
「気にせず使ってあげてください。椅子も僕に座られるより嬉しいと思うから」
「三上君の椅子ヤバイね!」
「三上君のお尻もきっと好きだよ」と何のフォローかわからない発言をして、その子は自分の席に戻っていった。
「おはよう三上君」
「おはよう月島さん、ごめん、もう話はよかったの?」
「気にすることないよ、ただの雑談だし」
「女の子の秘密の会話ってやつだね!」
「ううん、ただ三上君のこと話してただけだよ」
「……」
「……」
思わず月島さんを見ると、キザっぽく笑っていた。何すかその顔! 普段とのギャップがヤバイんですけど!
「お、ぁ……モテキ?」
「だといいね!」
「ほんとお願いします! 教えて、なんで僕の話なんかしてたんすか⁉ なんかやっちゃいました?」
「あはは、そんなに焦らなくて大丈夫だよ」
ダメだ。月島さんにはまったく勝てる気がしない。こんなに可愛らしい見た目で大人しそうな子が、あんなに悪そうに笑うなんて、ちょっとカッコイイって思っちゃったじゃないか、相変わらず掌の上感が半端ない。
「話の流れでそうなっただけ、けっこう仲いいよねって言われて」
「ほほぅ、周りからもそう見えるなんて、実は僕たち……相性いいのでは?」
「え、当たり前じゃん。相性いいでしょ私たち」
「……」
「……」
「茶々入れてすいません。話を続けてください」
「三上君って自分からふってくるのに、乗ってあげると恥ずかしがるよね」
もう見透かされまくっててアカン。可憐な女の子が悪魔のようですよ。
「小学校から一緒だからねって教えてあげただけだよ」
「そうだね、そう考えると、知り合ってからもう10年も経つんだね」
「10年ってすごいよね、なんか時間の重みを感じるもん」
「だね~。ていうか10年来の付き合いっていったらさ、まるで……」
「……まるで?」
「いや、やっぱやめときます。カウンターくらいそうなんで」
「ふふ」
小さく笑う月島さんは、見た通りに可愛かった。しかし、改めて考えてみるとすごい事だった。知り合ってから10年、同じ学校に通い続けているなんて、そうそう無さそうな気がする。まぁ10年一緒にいてもロマンス的な事は起きませんでしたけどね……
「あと、家も近いしね」
「……え? そうなの?」
「三上君ってさ……」
そこまで言ってスッと顔を近づけてくる月島さん。いきなりの事態にビックリして固まっていると、僕の耳元に手を当てて、小さく囁く月島さん。耳に彼女の吐息がかかって、ゾクゾクした。
「……でしょ? 住んでるところ」
「そう! え、なんで知ってるの?」
月島さんが囁いたのは、ある町名で、そこはバッチリ僕が住んでいるところだった。
「私も同じ場所だからね、小学校の時、町内で集まりがよくあったでしょ? あの時何度も見かけたよ」
「えぇえ⁉ マジ? 全然気づかなかった。じゃあ何? もしかして家近いの?」
「家の場所までは知らないけど、それなりに近いんじゃないかな」
なんてことだ。10年来の付き合いで、初めて知る衝撃の事実だ。同級生の女の子とお家が近いだなんて、それなんて漫画やアニメなの?
「なんかお家が近くて、小学校からずっと一緒の学校に通ってるって、それってまるで幼馴染みたいじゃない? 僕にも可愛い女の子の幼馴染がいたなんて! 夢みたいだね!」
「はしゃぎすぎだよ~。それに昔はそんなに話もしなかったし」
「……うす、そうだよね。けっこう話すようになったの高校に入ってからだもんね」
そうなのだ。今でこそ、こうして気軽に話をする仲になったけど、昔はそうでもなかった。別に何度か話をしたことはあるけど、元々外で遊ぶことが好きだった僕は、どちらかというと、茜のように活発な子の方が話が合う気がしていた。あまりはっきりとは覚えていないけど大人しそうな印象の月島さんとは、そこまで話をしようとしたことはなかった。
だからずっと同じ学校に通っていても家が近いこともしらなかったんだと、今更ながらにちょっと後悔する。なんてもったいないんだ僕‼
「あぁ、昔に戻りたい。戻って月島さんと幼馴染したい」
「あはは、幼馴染したいって、まぁ私も……」
キ~コ~ンカンコ~ンと授業が始まるチャイムが鳴る。それと同時に「おはよー!」と待っていたかのように数学の先生が勢いよく教室に入って来た。
直前に月島さんが何と言っていたのか、僕にはチャイムとかぶって聞こえなかった。少し気になっていたけど、この前の仕返しとばかりに、僕をたくさん指名してくる数学の先生。必死に授業を受けた僕は、終わった頃には、何を気にしていたのか忘れてしまっていた。




