一緒に食べたお昼
昼休み、いつものように学食へ行こうと立ち上がった時、隣の席から「あ⁉」とそれなりに大き目の声が聞こえた。
「どしたの?」
「今日お弁当持ってこなかったの忘れてた」
「へ~めずらし」
月島さんは僕とは違って教室組のお弁当派閥。いつも可愛らしいお弁当箱を持って来ていた。ちなみに僕は学食組のパン派閥である。
「三上君っていつも学食だよね?」
「そうだよ」
「……今日、一緒に行ってもいい?」
「それはもちろん、いいですとも」
お父さん、お母さん、思わぬ形で女の子と昼食が食べれそうです。心の中で生んでくれた両親に感謝をささげてから、月島さんを連れて学食に向かった。
うちの学校の学食は、惣菜パンやおにぎりなどを売っている売店と、食券を購入して作ってもらうカウンターがある。どちらかというと人気なのは売店の方。手軽だし何より安い、金欠の高校生には売店のパンくらいしかお昼に買えるものはないのだ。
食券を毎日購入できるのは一部のお金持ちだけ、羨ましい限りです。僕もお金が入ればたまに食券を買うけど、ほとんど売店のパンが昼食だった。
「うわぁ、人多いんだね」
「そっちは売店、安くて人気、売店より少し高いけど食券もあるよ、こっちはけっこうすいてる」
いつもお弁当で学食初心者の月島さんに軽く説明をする。物珍しそうに学食を見て回る月島さんは、いつもより子供っぽいなぁと思った。
「三上君はいつもどっちで買うの?」
「いつもは売店だね。けど、いつもお弁当の月島さんには食券買う方がおすすめ」
「そっかー、じゃあ食券買ってみる。三上君は?」
「僕も今日はそっちにするよ。一緒に買おう」
食券器を前にして「なんかラーメン屋さんみたいだね! 私ラーメン屋さんの食券買ったことないんだ!」と目を輝かせている月島さん。尊い、ラーメン屋に連れて行ってあげたいと思った。
食券と引き換えに昼食をもらう、月島さんはサラダセットで、僕は一番安いかけうどん。トレーを持ちながら席を探していると、よく一緒に食べている一年の時のクラスメイトが声をかけてきた。
「三上悪い、今日席とれなかった」
「いいんですよ。今日はね、僕女の子と一緒に来てますからね」
「マジ⁉ ほんとだ、いいな~」
「あはは、どうも~」
物珍しそうにジロジロ見られても、笑顔で対応する月島さんは天使っすな〜。
そのまま通り過ぎて、端の方で空いていた席を見つけて、月島さんと並んで腰を下ろす。座れないことはないと思っていたけど、都合よく席が空いていてよかった。
「いや~女の子と一緒にお昼とか、出世したな」
「はいはい、早く食べよっか」
「うす」
相手にもされていないけど仕方ない、僕は手を合わせてから、シンプルなかけうどんをすすった。美味い!
「栄養なさそう、いつもそんな感じなの?」
「いつもはパンだけど、栄養的には変わらないかな、そっちは女子力高そう」
「そんなことないよ、今日はお弁当じゃない時点で女子力低い」
「そんなもんなの?」
僕が聞くと、月島さんは力強く頷いた。どうやら女子力について並々ならぬ想いがあるらしい。
「そうだよ、お料理できる女の子イコール女子力高い、でしょ」
「なんか、モテない男の格言みたいだね」
「……悪かったですねぇ、どうせ私はモテませんよ~」
「すんません。月島さんは可愛いって、よく男子は話してますから」
失言をしてしまった僕は、とりあえずチヤホヤしてみたけど、つんと口を尖らせたままの月島さん。ダメそうだった。それでも話の流れだけは変えたくて、なんとか話題を探そうと頭をフル回転させた。
「そう、いえば、お弁当! もしかして自分で作ってるの?」
「まぁね」
「え、スゲー! それは女子力高いわ」
「って言っても、夜の残りとか、簡単なのとかも多いけどね」
「いやいや、それでも手間でしょ、普通に凄い」
「……そうかな?」
なんとなく雰囲気が柔らかくなった月島さんを見て一安心、チヤホヤ作戦成功である。その後は取り留めもない話をしながら、ふたりで昼食を食べた。今日はたまたま月島さんがお弁当を持ってこなかったから、一緒に学食で食べているけど、毎日こうだったらなぁと思わずにはいられない男心だった。
かけうどんとサラダセットでは昼食にはそれほど時間もかからず、ふたりとも食べ終わった時点で、まだ昼休みは半分くらい残っていた。学食にいても仕方ないので、そのまま教室に戻ることにした僕たち――
「あ、圭! ……と月島、さん?」
――にかけられた声に、僕は学食で会うなんて珍しいなと思って振り返った。