私だけのものだった
高梨茜視点です。
雨の中、二人で一つの傘に入り、寄り添うように帰っていく二人の姿を見てから、私の中で渦巻いていた暗い感情は、大きな濁流となって私を飲み込んだ。
最近、圭の周りにいる女。
月島翠。
私と同じ中学からきた子。圭とは小学校から一緒らしい。それでも圭と一緒にいるところなんて、私は中学の時から今までほとんど見たことがなかった。
それが、最近……いや、圭が部活をできなくなった頃からか、よく二人が一緒にいる場面をみるようになった。
それからだろうか、圭の付き合いが悪くなったのは――
部活の見学にも来なくなったし、私が誘っても断るようになった。前だったら、常に私の傍には圭がいて、いつも一緒に行動していたのに、今は私の傍に圭はいない。圭の傍には、月島がいる。
正直、不愉快だった。
まるで、昔から仲良しです。とでも言いたげな距離感でいる月島。私がやんわりと圭から離れるように仕向けても、私の話なんて聞こうともしない。
月島のせいで、圭が私にかまってくれることも減った。
それでも、私は我慢してたのに、あいつは――
圭に傘を差しだして、二人で帰っていく姿を見た時、私は確信した。
月島は圭のことを狙っている。私から奪おうとしている。
だってあの日は、料理部の集会はとっくに終わっていたはずだった。家庭科室からゾロゾロと帰っていく料理部員たちはだいぶ前に見ていた。それから圭が昇降口に来るまで月島は、圭を待っていたとしか思えない。
許せなかった。 私から圭を奪おうとしているあの女が……。
圭は私のものだ。
中学一年で引っ越してきた私は、まだ内気で、背も低く、見た目にも今みたいに気を使ってはいなかった。新しい環境に馴染めず、周りからも陰キャ扱いされだした私は、引っ越しなんてしたくなかったと、毎日家で泣いていた。そんな私の初めての友達になってくれたのが圭。部活にも誘ってくれて友達ができた。圭のおかげで私は学校にもなじむことができた。
圭は優しい、だから月島も勘違いしてしまったんだと思う。勘違いは誰にでもあることだけど、これ以上は許せない。私は月島にこれ以上勘違いはしないように、くぎを刺そうと思った。
次の日、あろうことか、月島は、圭から服を借りていたようだった。
中学の時、私と圭はよく運動着の貸し借りをしていた。それは私たちにとっては当たり前のことで、けれど、私だけの特権だった。
それをあの女は土足で踏みにじってきた。
圭も最近は月島のことばかり見ていて、私の話をまともに聞いてくれない。部活に誘っても断るし、いよいよ私はこれ以上、圭の周りに月島をいさせたらいけないと思った。
その矢先の出来事だった。
体育の授業、見学する圭にすり寄っていく月島。それだけでも許せなかったのに、あろうことかあの女、私を話のタネにして悪者にしたのだ。しかもだ、どういうわけか圭も月島に同意して盛り上がっている。
なんで?
なんで?
ふざけないで――
圭に近寄らないで
圭に話しかけないで
圭に笑いかけないで
圭と楽しそうにしないで
圭の視界に入らないで
圭は私のものなんだから
圭もその女と楽しそうに話しをしないで!私を見て! そう思っても圭に私の想いは届かない。
どうすれば圭は私の元に戻ってきてくれる?
どうすれば圭は私だけを見ていてくれるだろうか?
そうして私は思いついた。優しい圭なら、絶対に私を見捨てない。絶対に私だけを見てくれるようになるから――




