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潜入なの?

こんなところでゆっくりしている時間がないことは頭では分かっているのですが、

少しの間はそうしてないと、とても何も行動が起こせそうにありません。

また、暗い部屋の中の状況を確認するためにも、目を慣らさないといけません。

ドアの前で、ヘナヘナと座り込んでしまったまま、少しの間目をつむります。


目を開けてみると、部屋の中の状況がなんとなく分かりました。

もらった資料には何も書かれていませんでしたが、やっぱり倉庫のような部屋です。

両脇に天井まで届くラックにはすべての段に段ボール箱が積まれているようです。

部屋の中には、使われなくなったパソコンや何に使っていたのかわからないような大型の機材が所狭しと置かれています。


少し動く余裕が出てきたので、壁に据え付けられているラックのそばまでよって、目の高さのところを触ってみました。

案の定、かなりの埃が指先につきます。

あまり、人の出入りがないのでしょう…。

とりあえず、端から端まで段ボール箱で一杯の3段目の段ボール箱を少しずつ前に出します。

人ひとり分、段ボール箱を前に出しました。

ちょっと離れてみていても、不自然さは感じられませんでした。

そして、段ボール箱を落とさないように、しながら、上の段の板と段ボール箱の間のスペースを利用して、段ボール箱の後ろに潜り込みます。

ちょうど、人ひとり横になれるくらいのスペースが確保されました。


よし、ここにいようっと。


緊急停電で、同時に非常電源まで使えなくなった5分間。

この会社にとっては(というよりもどこの会社にとってもですが)、本当に非常事態です。

明らかに人為的だろうということは察する事でしょう。

そのため、今頃、会社の中すべてを見回っているはずです。

なんてことを考えていたら、ドアの外から微かに人の足音が聞こえてました。

すぐに、この部屋のドアが開かれ、部屋の中の電気が急につけられます。


見回りに来たのは一人のようで、少しの間室内を見ていたのか、

無言のまま、部屋の電気がつけられたままです。

私が、少しだけ前に出した3段目の段ボール箱の異変は気づかれなかったようです。

そのまま、電気を消して、ドアの鍵を閉めていなくなりました。


これで、このお仕事の第一段階は終了です。

横になったまま、大きな息を吐きました。


これからしなければいけないこととを頭の中で整理しながら、

これからの困難への覚悟を改めて自分の中に刻み込みます。


しなければいけないことは、ただ一つだけ。

この会社が行っている人身売買および人身斡旋の証拠を見つけること。

人数も詳細もわからないですが、この会社にもリサーチャーの方が相当期間入っているはずです。

それでも、その証拠が掴めていないのです。

それは、日常の業務の間、怪しまれずに捜査を行うことに限界があるからなのですが…。

それを短期間で、発見回収しなければいけないのが今回の任務のすべてになります。


まず、電子ファイルなのか紙媒体なのか・・・どちらかをはっきりさせなければなりません。

セキュリティ的にもろい紙媒体ではなく、電子ファイルだろうことは想像できます。

今までのお仕事も、殆どが電子ファイルの回収でした。

でも、私は正直に言ってパソコンは苦手です。

パスワードのかかったパソコンを開くことすらできません。

まして、どこにあるのかもわからないサーバにアクセスすることなどとてもできません。

その時に、唯一、私の力になってくれるのが、本部から頂いた小さな機器です。

とりあえず、仕組みは全く分からないですが、これを接続するとパスワードの解析などはやってくれます。

だから、私のお馬鹿な頭脳は置いておいて、肉体労働に徹すればよいのです。


見回りも来て、とりあえずひと段落したとたんに、眠気が襲ってきました。

1階から22階までの猛ダッシュは私が思っている以上に、体の体力を奪ったようです。


駄目、ここを踏んばらないと。

お仕事中は、たとえいかなる状況でも眠ることだけは許されないのです。


私のお仕事で、重要なことは二つだけです。

一つは、当然、言われた命令をこなすことです。

そして、もう一つが寝ないことなのです。

これからの地獄のような時間に備えて、強く下唇をかみました。


いま、すぐ動くことはできません。

確かに、0時きっかりの停電は予想外のことだったと思います。

また、原因も突き止められていないことだと思います。

しかし、一通りすべてを見回って確認して特に異常が認められなければ、これからは通常に戻るはずです。

まず、夜の警備体制を把握する必要があります。

当然、日常の業務の中で調べているリサーチャーにそこまで求めることはできません。


じっと暗闇に潜んで、ただただ、時が流れていくのをやり過ごします。

ふと、外に微かな足音を確認しました。

あわてて、小さな機械のディジタル表示を確認したところ3:05となっていました。

あれから、2時間以上がたったんだな…ということがわかります。

そうこうしているうちに、再び部屋の鍵がガチャガチャと音を鳴らし、ドアが開く音がしました。

しかし、それも一瞬で再びドアが閉められ、鍵を閉める音が私の耳にも届きました。


一つ一つの部屋を確認して回っているんだ、ご丁寧なこと……。

でも、結構、やっかいなことです。部屋を空けられるということは、私が隠れればいいという問題ではありません。

現状維持の状態にしておかなければいけないということも意味しています。

たぶん、今の見回りは3:00からのものなんだと思います。

そうこうしているうちに、再び部屋の前に足音が来て、そのまま遠ざかっていきました。


ふぅぅぅぅぅ。

意味もなく、ため息が口から出てしまいます。


また、何も変化の起こらない時間が過ぎていきます。

私は、ただ、人が一人横になれるだけのスペースに横たわりながら、軽く目を閉じています。

部屋の中央の壁にある窓がかなり明るくなりかけたころ、微かに遠くで足音が聞こえてきました。

足音がしたかと思うと、ガチャガチャと音がした後に、再び部屋が開けられ、一連の流れの後で足音が遠ざかっていきました。

慌てて時刻を確認すると5:05:49を表示していました。


見回りは、2時間に1回、1時,3時,5時の3回と考えてよさそうです。

今日、このビルの中に入ってから、分かったことはこれだけですが、まず、一番肝心なことなので、上出来です。

もう多分、見回りは朝までないはずです。

反対に、6時以降になると社員の方々が出勤されるはずです。

私は、この部屋がどのように使われているのかわかりませんが、

リサーチャーの方がこの部屋を待機場所に指定している以上、一応、安全ではあるはずです。

しかし、倉庫や物置というのは、何か必要になった時に来る場所でもあるので、6時以降に動くのは危険です。


私は、何とかその場で上半身を起こしてから、段ボールの上を通って、部屋の中に立ちました。

ダッシュをした後の疲労と、体をほとんど動かせていない状況から、体の節々が固まっています。

このままだと、もし万が一があった時に動きが鈍くなってしまいます。

常に、体をほぐしておく必要があります。

音をたてないようにしながら、上半身を前後左右に動かしながら、柔軟体操をしています。


少し動いたせいか、強烈な尿意を感じました。

それはそうです。お仕事に行く前に、無理やり水を4リットルも飲んだのです。

しかし、当然、トイレに行くわけにもいきません。

そのままの状態で、するしかありません。


はじめてこの仕事をしたときには、それがすごく嫌でした。

しかし、これも含めてリトリバーという仕事なのです。

そのまま、たったまま尿意を満たしました。

これから、お仕事が終わるまで、たぶん、何回もあるはずです。

今では、おむつにするということに何ら抵抗もなくなっています。


少し部屋の中を歩きながら、部屋を観察してみました。

私には訳のわからないものばかりが置いてあります。

この会社でいらなくなったもの、とりあえず保管しておこう的なものを雑多に詰め込んだだけの部屋みたいです。

油断は当然禁物ですし、するつもりもありませんが、この部屋なら日中、人が来る可能性はほとんどないだろうということは予想できます。

部屋の外が若干、賑やかになってきました。

時計は、既に7時に近づいています。


みなさん、朝、早いんですね…、私だったら、お仕事ないときはまだ夢の中なのにな。

大学で1限の授業に間に合ったためしもないのにな。

そんなことを考えながら、再び、段ボール箱の後ろへと場所を移しました。

これから、厳しい時間が始まります。


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