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お仕事開始

時計をみると、11時をすぎた頃である。

早く用意しないと間に合わないな。

少しばかり心残りはありますが、持っていた携帯電話を、

部屋の隅っこにある小さな机にのせて、ウオークインクローゼットまでいきました。

ウオークインクローゼットとはいっても、ここもとにかく広いのです。

人が4人は普通に暮らせそうなくらいあります。

とりあえず、入って右側には、私の愛すべきロリータ系の衣装が並んでいます。

左側は、お仕事用衣装でいっぱいです。

とにかく、全く同じ黒い繋ぎの革のスーツが50着以上並べられている様はある意味壮観です。

そのうちの一着を手に取り、さらに奥にある衣装だなから色々と小物を取り、

また、部屋の中央に戻ってきました。


お仕事の時には、このスーツを必ず着ます。

これは、仕事用に作ってもらった、私専用のお洋服です。

いって見たら、私にとっての戦闘服です。

私の体のサイズにピッタリと合わせて作ってあります。

それに、いくつかの仕掛けが施されています。


キッチンにいって、コップに水をくみ、それをスポイトで吸い取ります。

スーツの裏側の背中部分にある小さなつまみを開け、その中にスポイトの水を入れます。

それを二回ほど繰り返して、再度、つまみをしっかりとしめます。

そうなんです、このスーツの上半分の背中部分には、ほんの少しだけ、水がためられるようになっています。

すごいでしょう、といっても、ほんの少しだけなんですけどね。


いよいよ、戦闘服に着替えます。

いつも、この時は怖いです。

出来れば、逃げ出したくなります。


まず、朝からずっと着ていたみかちゃんいわく、非常に暑苦しいロリータ系のお洋服を脱ぎます。

汗をいっぱい吸い込んでくれた、黒い厚手のタイツを無造作に脱ぎ捨て、そのまま、ワンピースとブラウス、

それにこれまた、汗まみれの下着も全て脱ぎ、その辺に放り投げました。


全裸で立って、覚悟を決めます。

自分の全裸の体をみると悲しくなります。

鍛えに鍛え抜かれた体は、無駄なお肉など、全くなく、全て筋肉です。

腹筋も6つに割れてます。

とても、外見からは想像できないと思います。

そんな鍛えぬかれた身体ですが、そんな身体中、本当に全身傷だらけです。

すべてお仕事の時に出来た傷です。

そして、両太ももから膝にかけては、ナイフで切り刻まれた跡や、銃で撃たれた傷の上に、

さらに皮膚がかぶれ、赤く膿んでかのうしています。


私のお仕事はそういう仕事なんです。

だからこそ、戦闘服を着る前は、相当な覚悟が必要になります。

まず、大人用のオムツをつけます、そして、スーツを着ます。

ツインテールに結っている髪をいったんほどき、頭の高い位置で結い直します。

鏡の前の私は、童顔の顔を恐ろしく強張らせて、黒い革の繋ぎを見にまとって立っています。

多分みかちゃんもゆりさんも、全く想像出来ない私だと思います。

スーツの右胸にあるファスナーを開けると、そこに、小さな名刺大の機器を入れます。

実は、私は馬鹿だから、この機器がどんなものなのか知りません。

でも、世の中には出回っておりませんが、ものすごく優れもののようです。

私は本部との通信と、時計代わりにしか使用していませんが…。


そのあと、冷蔵庫を開けて、2リットルの天然水のペットボトルの蓋を開け、

そのまま、口をつけて一気に飲み始めます。

半分ほど飲んで、一息いれて、もう一度飲みます。

夜ご飯もろくに食べていないので、お腹はペコペコなんですが、

水をそんなに飲みたいわけではないのです。

でも、そんなことは言ってられません…、とにかく水を飲むことから私のお仕事は始まります。

残りの水を一気に飲み干すと、さらにもう一本冷蔵庫から天然水のペットボトルを取り出し、飲み始めます。


こんなに水飲んだら、それなりに生理現象もおきるんだけどな・・・。

でも、生き抜くためには絶対必要なことなんですよね。

とにかく、水をできるだけ多く飲みます。


何とか、4リットルの水を体内に取り入れました。

胃は水で一杯です。正直、かなり苦しいです…。

でも、これで準備完了です。


玄関の横にあるシューズインクローゼットの扉を開けます。

ここも、相当に広いです、4畳以上はあります。

そこにも、大学に行くときみかちゃんたちと遊ぶときにはいていく、

いろんな色や形のロングブーツがたくさん並べられています。

といっても、ロングブーツしか履かないんですけどね・・・。

その反対側には、衣装クローゼットと同様、同じ型のショートブーツが50足以上はならべられています。

このショートブーツがお仕事の時用の靴になります。

玄関に座って、ショートブーツを履いて、再び私専用のエレベータに乗り、地階に降ります。

このマンションの地階が駐車場になっています。

私は、エレベータのすぐそばに停めてある、大型のバイクに近づき、ヘルメットをかぶり、そのままエンジンをかけて跨ります。

とても高校生にしか見えない外見ですが(もしかしたら、高校生にすら見えないかもしれませんが)、

750CCのバイクにだってもちろん乗れます。

多分、走っているところを見ても、誰も女の子が運転しているとは想像もできないでしょうけどね…。


対象のビルの周りを1周、バイクで走らせながら周囲の状況を確認します。

時間は、たぶん11時30分を過ぎたころだと思います。

ビルから少し離れたところにバイクも停められるパーキングを見つけて、停めてビルまで歩きます。

出来るだけ、人目につかないように歩きながら、ビルの中央入り口の前を素通りします。

そのまま、ビルの裏手の非常階段の見える場所に移動しました。

非常階段らしき場所の入り口には、簡易的な柵が施されていますが、見張りは誰もいないみたいです。

でも、たぶん、あの柵を開けたり乗り越えたりしたら、非常ベルなりなんなりが鳴り響くんだろうな。


右胸のファスナーを開け、名刺大の機器を取り出し、時間を確認します。

11:56:24・・・25,26とディジタル表示が変わっていきます。

電波時計らしいので、時間は正確なはずです。

あと、約4分、この場で待機です。

時計代わりの機器を左手の上に置きながら、軽く目を閉じます。

自分の心臓の鼓動を聞きながら、それが早くなっていくのが分かります。


よく、「怖くないって言ったらうそになる」なんて表現がありますが、

そんなレベルではありません、正直怖いです…。できたら今すぐ、この場から立ち去りたいです。

これから、どれくらい続くかわからない苦痛の時間を考えると、私の頭の中には絶望にも似た気持ちになります。

別に、お仕事は今日が初めてというわけではありません。それどころか、もう、何度もやっています。

だからこそ、何度も経験しているからこそ、お仕事のたびに、この時間の恐怖や絶望は強くなってきます。

軽く深呼吸をして、心臓の鼓動をできる限り整えます。

目をゆっくり開けると、あたりの風景が視界の中に入ってきます。

小さな機械のディジタル表示を確認すると、11:59:18,19,20・・・と変わっていきます。

下唇を軽くかむと、そのまま、ビルの非常階段の入り口の前に立ちます。

時計のでぃじてる表示は、11:59:48,49・・・と時刻を表示しています。

心の中で、51,52,53と呟きながら、手に持っていた小さな機器を胸ポケットにしまう。


55,56,57,58,59,00……go!


心の中で確認するのと同時に、目の前にある柵の上に手をかけそのまま、乗り越えます。

いくつかついていたビル内の非常用の電気が消え、中から何人かの人の声が聞こえるのを確認しながら、非常用階段を駆け上がります。

リミットは5分間です。

5分間の間に、22階まで駆け上がり、非常扉の鍵をあけ目的の部屋までたどり着く必要があります。

そのために、本部が私に用意してくれた時間が5分間なのです。

鉄製の階段をできる限り音を立てずに、私の出し切れる全力で、登ります。

踊り場から踊り場へとつくたびに、現在の回数を頭の中で確認します。


11,12,13階・・・

いま、何分たったんだろう…太ももが張ってきたよ。

息がだんだん上がっていくのが分かります。

でも、速度を落とすわけにはいきません、一段づつ飛ばしながらとにかく速度を変えずに上を目指します。


20,21,22・・・。

やっと目的の階にたどり着きました。

額からは、大粒の汗がしたたり落ちます。

息も相当荒いです。

足が痛いのを通り越して、感覚がなくなっています。

右胸のファスナーをおろし、小さな機器を取り出して、時計の確認をします。

12:03:18,19・・・と時を刻んでいます。

3分間で22階分を駆け上がったことになります。

なんてことに感慨に浸っている時間もなく、そのまま目の前にそびえたっている非常扉を開けないといけません。

鍵穴は調査報告書に書かれてあった通りのシリンダー錠でした。

この世界で生きている人は、少なくとも鍵くらいは開けられなければなりません。

小さな機器の右側のボタンを押すと、細長い棒のようなものが出てきます。

それをシリンダー錠のカギ穴の中に差し込み、中の状態を確認します。

少し引っかかりました。

そのまま、引っかかった感覚を大事にしながら右のほうに棒を倒すと明らかにカチッという音が聞こえました。

これで開錠です。


ちらっと手にある時計に目をやります。

あと、48秒。

ドアを開けて中に入り、再び鍵を閉めます。

ざっと中を見渡して、感覚を鋭敏にします。

今のところ、この階には人はいないようです。

かなり下のほうから、人の声は聞こえているようです。

頭の中に叩き込んでいる平面図を参照しながら、まっすぐ、目的の部屋の前までやってきます。

ドアを回してみますが、やっぱりあきません。


どうしよう・・・、焦りは禁物ですが、やっぱり焦ります。

手にある時計は、既に12:04:43を示しています。

躊躇せず、細い棒を再びシリンダー錠の中に入れ、ゆっくり回してみます。

かちっとした音とともに、開かれます。

そのまま中に入り、ドアと鍵を閉めなおします。


12:05:00・・・。

間に合った。

そのまま、ドアの前に座り込んでしまいました。

もう、一歩も動けないよ。

ヘナヘナと座り込んでしまっている私は、きっとかっこ悪いんだろうな。

テレビや映画のスパイさんたちは、どんな状況でもかっこよく決めているのに…。


でも、一歩も動けないんだもん、しょうがないでしょ。

誰にとはなく、心の中で抗議します。

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