日常との訣別
私のお仕事の連絡は全て紙で行います。
このデジタルな時代に紙だからこそ、一番安全なのです。
私はその紙を持って立ち上がり、殆ど使われていないキッチンまで行くと、
そこに置いてあるライターで二枚の紙に火をつけます。
ぼーっと、綺麗な赤黄色い炎が目の前で煌めくと同時に、みるみる灰になっていきます。
その炎を見ながら、決意を新たにします。
よし、ゆきの、頑張るぞ!
そうなんです、私は大学生であると同時に、内閣府直属の特別調査諜報部に所属している正真正銘の捜査官なのです。
ただし、この部署の存在自体、国家的秘密事項で、知っている人は5人に満たないと聞きます。
総理大臣や官房長官といった、ちょこちょこちょこちょこ変わる、国会議員さん達にもその存在は知らされていないようです。
当然、私もこの事を誰にも喋るわけにはいけませんので、そのための隠れ蓑として、大学生という肩書きを与えられています。
なので、私も誰一人同僚を知りません。どの位の規模でどの位の人が私とおんなじように頑張っているのか、全くわかりません。
私が知っているのは、私が中学生の頃に突如、私の前に現れた一人の男性、今の直属の上司だけです。
でも、そのお話はまたの機会にしたいと思います。
ま、長々と説明していますが、簡単にいうとスパイみたいなものです。
でも、勘違いしないで下さいね、映画やドラマ見たいなそんなかっこいいスパイじゃないんです。
所詮、政府の一組織です。ようは、役人なんです。効率よく仕事をこなすために分業制を採用しています。
リサーチャー、連絡係、回収人、終結人です。
対象となる組織に潜入して、証拠などを同定するのが、リサーチャー。
リサーチャーが、証拠を見つけたり、悪事を同定したり出来たらそれを本部に知らせるのがコラボレーター。
そして、それをもとに社会的制裁を行うのがターミネーターです。
このリサーチャーは、組織に潜入して組織の内情を調査するのが目的のため、
危ない事はなかなか出来ません。
また、悪事の全体像は明らかに出来てもその証拠を同定できないというような時に出てくるのがレトリバーです。
何となく、リサーチャーが調べてくれた情報をもとに、直接、証拠を手に入れようという人々です。
そして、このリサーチャー,コラボレーター,レトリバー,ターミネーターを束ねる人々がオルガナイザーです。
リサーチャーが手を出せないようなところにいって、証拠だけとってくる、そんなお仕事です。
わたしは、ずっとこのレトリバーをしています。
私は、お仕事を特攻隊と思っています。お仕事内容はただの泥棒さんです。
はっきり言って、とっても危険です。
いつも、お仕事が終わると辛くて辛くて、次、もう一回出来るのかな、って思ってしまいます。
でも、たとえ危険でも、多分、私のお仕事が困っている人たちの最後の砦なのだと思うと、
頑張らないとっておもいます。
今回のお仕事も、対象にはいる事だけは出来そうです。
それも、ワンチャンスですが…………。
しかし、出るところまでは考えられていません。
やっぱり特攻隊です。
でも、それが、私に与えられたお仕事なのです。
広すぎる部屋の中央に無造作に投げ出されているバックから、微かな振動音が聞こえて、
物思いに耽っていた、私は、現実に引き戻されました。
慌ててお部屋の方にいことして、またも派手にこけてしまいました。
がっちゃーーーん
誰の目も気にしなくていい状況ですが、つい、いつもの癖で辺りを見回してしまいます。
いけないいけない、切り替えないと、と思うのですが、なかなか思うようには切り替えられないのです。
もともと、私は、ドジで間抜けですからね…………。
バックの中から携帯を取り出すと同時に、再度、携帯電話がなりました。
確認するとみかちゃんとゆりさんからのメールです。
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ゆり、ゆき
今日はごめんね。
色々とあいつの事とかで相談したい事あるんだけどさ、
あした時間取れる。
アルタに新しくできたショップ見にいきがてら、
相談に乗って欲しいんだけど。
ついでにさ、夏の計画も立てちゃおうよ。
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おう、了解。
いいよ、明日は、午前だけだから授業。
ゆきちゃんも、一緒に行こうね。
海、どこにしようか。
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海、行きたいな。
でも、無理だよ。
多分、明日も行けないし。
どうしようかな、メールに返信するべきなのだろうか、
ちょっと考えて、無意識に首を振ってしまった。
返信出来るような事、何もないよ。