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微妙な乖離(日常の微かなズレ)

「そんなことあったんだ、ゆきちゃん、かわいそうだったね」

ゆりさんが、いつものように私の頭をなでなでしてくれている。

そんなゆりさんを相変わらず、不思議そうな物体を見るような眼差しをしてみかちゃんはモカのスペシャルブレンドを味わっているようだ。

「こんなかわいいゆきちゃんを泣かすなんて、許せない。絶対、ハラスメント委員会に訴えてやるわよ」

まだ、私のことでゆりさんが憤ってくれている。

「ありがとうございます。でも、いいんです。私も悪いから」

「でもさ、ゆきも約束のドタキャンとか多すぎだよ、大学にも来ないとき多いし」

「ごめん、色々あって・・・」

「色々って、大体は寝坊か忘れてただけなんじゃん、なんか、すぐに忘れそうな顔してるし、ゆきって」

「もう、ひどいよみかちゃんは、すぐにそういうこと言うんだから」

「そうよ、ゆきちゃんはさ、ゆきちゃんって生き物なんだから、それでいいんだって、子猫みたいに、忘れたころに隣りにいるっていうかんじでね」

うーーーーん、相変わらず擁護されているのか、けなされているのか分らない、ゆりちゃんの発言です。

「まぁね、うちらもお互い、色々あるからね」

そういいながら、みかちゃんはまた、美味しそうにモカのスペシャルブレンドを一口、口に含んだ。


大学近くの、私たちお気に入りのカフェでの一こまである。

大学近くだというのに、入り組んだ路地の中にあるためか、私たち以外の固定客をほとんど見たことがない。

入り組んだ路地うんたらかんたらはあまり関係ないかもしれない。そもそも、カフェのくせに看板が出ていないところに問題がある。

たまたま、道に迷った私とみかちゃんが、前を通りかかったとき、ドアに営業中とあったので、覗いたらカフェだった。

あまりにも客がいないため、それ以来、みかちゃんはほぼ大学帰りによるようになり、私たちもつられてくるようになった。

それでも、マスターの全く存在感のなさや、接客のやる気のなさのため、未だに店の名前すら知らないのだけれど・・・。

みかちゃんいわく、コーヒーはかなり美味しいそうである。


「そういえばさ、就職支援室にさ、そろそろ進路とか、報告しないといけないでしょう。みかやゆきちゃんは提出するの」

「進路か、そうだね、もううちらも、三年なんだもん」

「どっしようっかな、私なんも決めてないや、とりあえず父親や母親の言いなりだけはいやだな」

「そうそれは、うちも同じ。やりたいこととかあんまり具体的にはないけど、親の言いなりだけはいや」

そっか、みかちゃんもゆりさんも、それなりにいいところのお嬢様だったんだっけ。

こんなに仲良くつるんでいる割に、二人のことはあまり知らなかったりする。

それは逆もまた真なりだからなんだけど・・・・。

進路か、みんな考える時期なんだね、私には全くピンとこない話だな。

「ゆきちゃんはどう考えているの、進路とか・・・・」

やっぱり来たか、って三人しかいなかったら、そりゃ振られるよね。

「うーん、私、全く考えてなかった。」

「だよね、うん、なんか安心した。ゆきがしっかり考えてたら、無茶苦茶、私焦るもん」

「もーう、どういう意味よ、まるで、私が何にも考えてないみたいな言い方して」

「ごめん、でも、考えてるの?」

そりゃ、色々と考えてることはあるけど・・・

「うーーーん、あんまり考えてないかも」

「でしょ、でしょ」

なんか妙にうれしそうなみかちゃんに対して、おもいっきりふくれっ面をしてみた。

「わー、ゆきが怒った怒った」

「うんうん、怒った顔のゆきちゃんかわいいぞ」

二人して、まるで中学生を相手にしているようにいなされている自分が、ちょっとみじめだったりする。

でも、あまりに童顔すぎて、未だに公共施設でさえ中学生で通ってしまう自分がいるのも事実なので、悲しい。

「なんかさ、今の世の中、夢とか持てないよね・・・」

なんとなく感傷に浸ったようにゆりさんがつぶやいた。

「え、夢だったらわたしあるよ」

うそっ、って感じでみかちゃんとゆりさんが私のほうをのぞきこむ。

「だってさっき、無いって・・・」

「だから、それは進路を考えてないってことで、夢はあるよ」

「夢と進路って違うものなの?」

「ゆりさん、それは違うよ、だって進路はさ目の前にある問題でしょ、夢はさ先にある問題でしょ」

「ごめん、ゆきさ、全く話が見えないんだけど、結局、同じ事じゃん」

「だから、違うんだってば、みかちゃん、進路は今かなえるべき問題で、夢はきっと叶えられたらいいなって問題なんだよ」

分かる?という感じでゆりさんに助けを求めるみかちゃん。

「うーん、何となくは、ゆきちゃんの言いたいことわからなくはないけど。ようは、進路は現実を判断して、叶えられそうな事象を設定をするのに対して、夢は実現の可否を問わず、将来の願望のみで設定するっていうこと」

さーすが、現実主義者の才媛はちがうな・・・と感心してしまう。

「そうそう、私が言いたかったのは、そういうこと」

「なんか、ゆりの説明でわかったような、それでもまだわからないような・・・んで、ゆきの夢はなんなのよ」

「それはね、私を守ってくれる王子様と出会って、ピンクの家具でそろえた新築の家の中で平凡だけど、温かく暮らすこと」

こころなしか、うっとりした感じで言ってしまったと、我ながら反省してしまう。

はぁとあからさまな溜息をつくみかちゃんを尻目に、ゆりさんはニコニコしながらまた、私の頭をなでなでしはじめた。

「うんうん、ゆきちゃんらしいな、かわいらしい夢で、いいな」

「っていうかさ、それ、ただのおとぎ話のお話じゃん、白馬の王子様でしょ」

「みかさ、だからゆきのは夢っていってるんだって、いいじゃん女の子っぽくて」

「で、おとぎ話はいいからさ、現実の問題はどうなのよ、ゆきは」

「現実の問題か、とりあえず日常を壊したくないな」

「はぁ、また訳のわからないことを・・・ま、この件に関しては私もゆきのことは言えないけどね、あんまり考えてないから」

「ま、私も適当に考えて就職支援室には出しておくことにするよ、ゆきちゃんも何か出しておかないと駄目だよ。」

「これ出しておかないと、ゼミの先生の所に就職支援室から督促行くらしいから、また、いじめられるぞ」

「もーーーー、あの先生、嫌だよ」

でも、何か出さないと、駄目なのか。何か考えないといけないんだよね・・・どうしようかな。

「ま、進路の話とか、妙に現実に引き戻される話はとりあえずおいといて、あと2週間で8月、夏休みだよ。」

さっきまでの若干、重苦しかったみかちゃんの顔が、ぱっと太陽が差し込んだかのように明るくなった。

「そうだね、今は女子大生をエンジョイしないとね、みかさ、今年はどうしようか」

「もち、海にでも行こうよ、泊まりで。去年はゆきが教習所で免許合宿とか入れて結局、三人では行けなかったから、今年こそはいこうよ。」

「そうだね、豪勢に4泊5日くらいゆっくりしてもいいかもね、ゆきちゃんと過ごす5日間なんて、、想像しただけで、楽しそう」

「だから、ゆりはそういう怪しい妄想しない。」

そっか、もう夏休みなんだな。長期の休みのたびに、憂鬱になるよ。

「冬休みだって、ゆきドタキャンで来なくて、結局、ゆりとの女二人旅だよ・・・・・」

「そういえばそうだった、あんときはちょっとだけ、ゆきちゃんに腹立ったな、せっかくのゆきちゃんとの泊まりがけ旅行だったのに」

「だから、っていうかさ、まるで私との旅行じゃ、不満みたいじゃん」

私だって、みんなと行けるもんだったら行きたいよ、旅行。楽しみたいよ、思いっきり。

「ま、なんか考えておくよ、ゆりもゆきもとりあえず、どこでもいいんでしょ」

大きくうなづくゆりさんの横で、私は曖昧にうなづくしか出来なかった。


あっといいながら、みかが時計に目を見遣った。

「うわ、時間たつのはやいね、もう、6時半だよ。そろそろ行かないと」

なんとなく、そわそわしながらみかは、もうすっかり冷めてしまっているモカのスペシャルブレンドを飲み干した。

「もしかして、また、あの人?」

今まであまり見たこともないような、ちょっとだけ複雑な表情でみかちゃんはうなづいた。

何となく二人の会話に合わせた、きょろきょろと二人の顔を見比べてしまった、

そんな私の半のに気づいたみかちゃんは、そわそわと帰り支度しながら、私に若干の説明をしてくれた。

「そういえば、先々週くらい、ゆきが1週間ちょっと大学で見かけなかった時のことなんだ、ゆきみたいな子どもには、まだ早いお話だよ」

「もう、私だって、みかちゃんと同じくらい十分、大人なんですよ」

「二次元の世界だったらそういう設定でもいいけど、三次元のリアルな世界だと、そもそもその設定に無理があるんだよね」

とかいいながら、手早く帰り支度をすると、椅子から立ち上がって、

「あとはお願いね、おかね、立て替えといて」

といって、あっというまに出て行ってしまった。

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