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決意

 倒れてから、普通に起き上がれるまで結局5日かかった。昨日は大事を取って、寝て過ごし、やっと今日日常生活になんとか戻れたとこ。

 朝軽く一通りのルーティンをやってみたら、大分なまっててショック。しかも鏡で見た顔と全身もなんかやつれてる!?

 ああ、ちくしょう~、すぐに取り返してやる! いくら細くても不健康は駄目だ、不健康は!


 そして何より腹が立つのは、もう明日には王都に帰る日程になってること!

 無理して取った休暇だから、これ以上延ばせない。2週間の日程の半分が移動か寝込んでるかだなんて!

 さすがに帰りは、来た時みたいな強行軍はきついから、普通に5日かけて帰る予定。無理はよくない。


 そういうわけで、最終日の今日は、赤ちゃんの部屋に居ついていた。体力の落ちたイーニッドは、別の部屋でお昼寝中。

 私はベビーシッター付の子供部屋で、マックスと一緒に双子ちゃんと戯れている。


 ベビーたちは、しばらく前から眠っていた。


「あ~、かわいいな~」


 いくらでも見ていられる超絶的な愛らしさだ。私が産まれた時、叔父様は11歳だったけど、やっぱりこんな気持ちだったのかなあ。


 ほっぺたをつつき、太ももをつまみ、カエルさんの足をびょ~んと伸ばしては、足の裏をくすぐり、小さな手に指を握らせ、またほっぺに戻る。なにこの永久機関。全然飽きないんだけど。寝てても可愛いんだけど。しかも二人いるとか。交互に行くぜ!


 さっきから飽きもせずに同じ行動を繰り返す私を、マックスが呆れた目で見ている。


「いや、確かに可愛いけど、おまえがそんなにハマるとは思わなかった。もっとそういうのクールだと思ってたけど。あと、少し休ませろ」


 うん、私もそう思ってたんだけどね。ああ、でも、実際目の前にいると止まらないんだよ。

 

「だって、今日しかないんだよ~。次に会う時はもう歩いてるかもしれないでしょ。今の可愛さを堪能しておかないと」

「それは会わな過ぎだ。もっとちょくちょく来いよ。っていうか、そんなに会いたきゃ、こっちに本拠地移せばいいじゃねえか」

「それとこれとは話が別でしょ」


 ホントにやりたいことが多過ぎて困るわ~。


「帰ったら、まず第二工場の計画立てるんだ。今の状態だと、生産が全然追いつかなくって、このままじゃベビー服が作れないから」

「おい、ベビー服のために工場作るのかよ」

「うん、作る」

「決定事項かよ」

「やりたいことは全部やるからね、私は。で、この子たちが大きくなったら、お姉ちゃんすごいねって言われるの。ロレインには、『インパクト』の商品大人買いさせてあげたいなあ。棚の『ここからここまで』ってやつ、一度はやってみたいでしょ? 女の子は夢が広がるわ~」

「クリスはどうすんだよ」

「この子はどう見ても騎士コースでしょ。あんたがガッツリ鍛えてあげてよ。私は遊んで癒す係ね」

「どう見ても騎士なのか……」


 暴走が止まらない私にさっきから引き気味だったマックスが、少し嬉しそうにクリスを撫でる。あっ、言っちゃった!? まあ、マックスならいいか。

 でも、私、相当浮かれてるわ。


「あ、起きた」


 ロレインが泣きだしたら、隣のクリスもつられて泣きだした。


「ちょっかいの出し過ぎだよ」


 マックスがクリスを、私がロレインを抱っこする。

 あ~、泣いてても可愛いわ~。


 二人とも銀の髪にアンバーの瞳、また私は仲間外れか。ラングレーの血、強すぎるんだけど。私だけ完璧に母親似とか、逆にイングラムの血の強さが分かるわ。


 抱っこしながら、必殺の背中とんとんをしてみる。揺れながらしばらく続けてたら、だんだんご機嫌になってきた。おお、効果絶大!!


 っていうか、私はこれをキアランにされたのか。どんだけ赤ちゃんなんだ。ちょっと恥ずかしいじゃないか。

 思い出して、ちょっと照れる。


「グラディス、どうした?」


 マックスは私の表情の変化にすごく目敏い。


「キアランに、ちょっと赤ちゃん扱いされたこと思い出しちゃって」

「キアランに?」

「ほら、王城で訓練に参加したことあったでしょ?」


 その説明だけで、どのシーンかすぐにピンと来たらしい。


「あの毛虫の時のか」


 苦い顔で呟く。あの時の私は随分取り乱してたからな。実際には毛虫じゃなくて、転生に関わることでなんだけど。


「グラディスの唯一の弱点突きやがって。あいつやっぱり油断できねえ」


 あら、また対抗心燃やしてる。キアランは誰にでもあんなもんなんじゃないの? 気遣いの人だし。

 マックスは仏頂面で、念を押してくる。


「次の社交シーズンは逃げねえでちゃんと俺に付き合えよ」

「分かってるよ。ホントにあんたは取り越し苦労のし過ぎ」


 温泉で助けられたお返しに、そういうことになってた。パーティーでいつもみたいにフラフラ消えないで、ずっと一緒にいると。

 私の周りを悪い虫がうろつくのが、よっぽど心配らしい。私が誰かにどうこうされるわけなんかないのに。いっそどうにかできるもんならやってほしいくらいだっての。


 今のとこ私が心から楽しんで打ち込めるのは、仕事が一番だもんな。あんなに素敵な恋愛を楽しみにしてたのに、やりかたがさっぱり分からん!


 それにこの先の厄介事考えても、あんまり浮かれてる場合でもないだろうしね。


 王都に帰るのは、なにも仕事のためだけじゃない。王都が、これから起こる事態の、全ての中心地になるはずだから。

 何ができるかなんて分からないけど、私はそこにいる必要がある。

 ずっと、いやだし、面倒だし、逃げたいと思ってた。好きなことだけやっていたいと。


 腕の中でまたうとうとと眠りについたロレインと、マックスの腕でバタつくクリスを交互に見つめる。


 この子たちを見てると、やる気が溢れてくる。この子たちのためなら……この子たちが安心して暮らしていける状況を守るためなら、迷わず進んでいける。やらされるのではなく、自分の意志で。特別な力を持っていて、良かったとすら思う。

 ザカライアの時からずっと、そんな風に感じたことなんて一度もなかった。初めての、自分自身の決意。


「お姉ちゃん、頑張るからね」


 強い気持ちで、囁いた。今の私は厄介事に、背中ではなく真正面を向けている。 

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