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偵察

 今日は、ソニアと女子会。最近街に出るときには護衛が付くけど、ぶっちゃけ下手な護衛より、ソニアの方が強い。


 ますます強く、美しくなってきたソニアと、食に、ショッピングにと、息抜きのお楽しみ。

 貴族御用達の高級店街だから、令嬢らしいオシャレをして、ちゃんとそれぞれに侍女も連れて来ている。


 前からずっと気になっていた店への偵察が、密かな目的だった。


「ああ、ここだね。前にノアからお土産をもらって、珍しかったから、一度来てみたかったの」

「凄く話題になっているものね。私も興味があったから、楽しみだわ。なんでも、商品全部、店主のオリジナルなんですって」


 私が誘った店を指して、ソニアが嬉しそうに言ってくれる。二人で扉をくぐった店は、飲食スペースもあるお菓子屋さん。


 その名も、『パティスリー・アヤカ』。

 そして入り口には、小判の代わりに金貨を抱えるデフォルメされた招き猫。――これ、確定だよね、完全に。


「『アヤカ』って、不思議な響きね。どういう意味かしら?」


 向かい合った席について、ソニアが首を傾げる。

 うん。多分、前世の名前なんだろうね。もしくは前世の恋人とか、前世の娘とか。言わないけど。


 メニューを見れば、ロールケーキとかミルフィーユとかプリンとか、懐かしい洋菓子が名前もそのままに並んでる。

 ああ、節制してるのに、制覇したくなるじゃないか。あっ、スフレチーズケーキがある! この世界だと、どっしりタイプのチーズケーキしかなかったから、ハマっちゃったらどうしよう!?


 嬉しい悲鳴を上げつつ、迷わずスフレチーズケーキを注文。ソニアは、変わった形に惹かれて、モンブランを選んだ。


 数分後、店員のお姉さんが注文のケーキと紅茶を運んでくる。


 テーブルに置かれたのは、一周目の記憶通りのもの。感慨深く口に運べば……ああ、このフワフワシュワシュワのしっとり感。懐かしい~!! ヤバイ、おいしい!!


 ソニアのモンブランの出来栄えを見ても、完全にプロの仕事。あの細いうねうねの見てくれとかもそのまんま。

 隣の席の人のショートケーキの飾りも、記憶通り完全に再現されてる。あれ、生クリームの絞り袋の口金、特注したわけだよね。前世は料理関係の人だったのかも。


 完全に前世の知識と技術でチートしてるね。隠すつもりもない。っていうより、逆に堂々とアピールして、同じ境遇の人――この世界に転生した仲間を捜してるのかもしれない。

 前世が日本人なら、分からないわけがない。外国人だったとしても、同じ世界の出身ということは伝わるだろうし。


「あ~、おいしかったね」

「ええ、また来たいわ」

「うん、そうだね」


 鉄の意志でおかわりを諦め、目いっぱい堪能してから、店を後にした。ここは贔屓決定。


 ちょっと興味があったから来てみたけど、別に見ず知らずの相手と旧交を深めるつもりも、同病相哀れむつもりもない。

 この世界を逞しく生きるために、努力している同郷人がいる。

 それが知れただけでいい。

 後ろを振り向いてもしょうがないからね。見るなら前だ。頑張ってほしいと思うし、私も私で頑張ろう。


 考えてみれば、私も服飾に関しては前世の知識チートやってることになるのかな。生活のためじゃなくて、完全に趣味なんだけど。

 一周目で着たくてしょうがなかった、でも諦めちゃってた可愛い服を、環境が許してくれる今、全力で楽しんでるだけだもん。


 でもこれ、やってることは『パティスリー・アヤカ』と同じだよね。分かる人には分かるはず。たった数年で、特にここ1年で、見覚えのあるような現代服、世間に氾濫させちゃったもんなあ。


 そのうち、同郷の人が『インパクト』に訪ねてきたりするのかな。まあ、身元は公表してないから、接触は不可能なんだけど。

 トロイ辺りに訪ねてこられても、別の意味で困るしね。あの子の中ではもう、日本での記憶は遠い思い出になったのかな。


「どうしたの、グラディス?」


 少し考え込んでしまった私を、ソニアがのぞき込んでくる。


「ああ、ちょっと、デザインのアイディアが浮かんだから」


 言い訳をして気持ちを切り替え、ソニアに目を向けた。


 出会ってからもう2年以上になる。出会った頃は気の弱いところもあったのに、13歳の今では別人のようにしっかりしてきてる。従兄弟の兄様たちをたじたじにさせることも多くて、傍で見てて面白い。

 ちなみに兄様たちは、来年に迫った学園入学の準備で忙しくて、おかげでソニアと過ごす時間は増えた。


 スリムで長身だから、私より大人びて見える。ロクサンナもそうだけど、なんでこの世界の格闘女子は、ゴツくならないのか。解せぬ。魔力が関係してるとしか思えない。

 きっと魔力のない私がガチで鍛えたら、一周目の再現になるんだろうな。今のところいい感じでボディメイクできてるから、この調子で気を付けないとね。


 世間話をしながら、次の目的のベビー用品専門店へと向かう。これから生まれる下の子のために、今からちょろちょろとベビーグッズを買い集めてるところ。ソニアも小さい従兄弟の誕生日プレゼントを選ぶというから丁度よかった。


 私たちが二人で並んで歩くと、すごく注目を浴びる。けど、全部無視。ひたすら突き進む。


 ソニアには内面の清楚さと、騎士の凛々しさが同居した、アンバランスな魅力が溢れている。

 私も13歳を過ぎた辺りから、周辺に良からぬ下心を持つ輩が爆発的に増えてきた。でも中には、私の顔を見ただけで蒼ざめて逃げていくのもいるから、ノアが裏でちゃんと仕事をしてくれてるらしい。一体何をやったのか? 後で訊いてみよう。


 今も、近寄ってくる人はいない。なぜなら声をかけようとする気配を察知した瞬間、ソニアが対象にだけピンポイントで殺気を飛ばすから。狩場で鍛えた武闘派令嬢の威嚇で、一瞬にして気勢を削がれ、目を逸らしてすれ違っていく。

 最近私と出歩くときは、いつもそう。楽しくおしゃべりをしながらも、私に悪い虫が近付かないように、人知れず守ってくれてるらしい。

 本当に優しくも逞しくなってくれたものだよね。


「ふふふ、ありがとう。ナイトに守られるお姫様気分だね」


 ソニアの腕に絡みついて、冗談めかしたら、ソニアが頬を染めた。


「やだ、気が付いてたの?」


 恥ずかしがって照れる顔が可愛い。


「もちろん。いい友達を持ったと思ってたとこ」

「だって、すれ違う男の人のグラディスを見る目が、なんだか嫌なんだもの。一緒にいる限り、私が絶対守るから」


 はにかみながら、私が守ると宣言する乙女。素晴らしい目の保養です。ごちそうさまです。

 本当に強くなってるね。

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