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微笑

「ノアの祖父のアイザック・クレイトンだ。魔物発生事案の目撃者として、少し話を聞かせてもらいたい」


 約13年ぶりの再会になる幼馴染みが、突然私の前に現れた。


 あ~、ビックリした! とうとうこの日が来ましたか。

 私は驚きなど欠片も見せないで、席を立つ。


「グラディス・ラングレーと申します。お会いできて光栄です」


 完璧な令嬢対応で、宰相様への挨拶を返す。ノアとキアランが苦笑いしてるけど、隙を突いて睨みを利かせた。お前ら、余計なことは言うんじゃねーぞ。私はこれからずっとこの態度を押し通すからな。


 余計なやり取りを好まないアイザックは、最低限の挨拶で、早速空いていた私の隣に腰を下ろした。


「キアラン王子。私に構わず、自由に話し合いを続けてください。気になったことはその都度質問させていただきます」

「分かった」


 キアランに注文を付け、黙って観察の態勢に入った。昔は話し合いとかでは、『俺が俺が』な性格だったのに、すっかり落ち着いたもんだ。


 国内での魔物確認数が増えてるみたいだから、それとの関連も考えれば、確かに国を揺るがしかねない大問題と捉えたんだろうな。本来ならこんな現場の仕事、宰相の出てくるもんじゃないはずなんだけど。

 私と付き合ってた影響で、大分アクティブな宰相に仕上がっちゃった感じがする。まあ、孫と王子も直接関わってるしね。


 私も内心で完全に臨戦態勢に入る。さあ、ラスボスよ来るがいい! 全てにおいて、洗練お嬢様モードで応戦してやろう!


「で、どこまで話してたっけ?」

「魔物の完成度が上がった話までだな」

「あ、そうそう。来年はもっとスゴくなるんじゃないって話だったね」


 ノアとキアランが、話を元に戻した。それについては、気になることがある。


「魔法陣自体は、去年と同じだったのですよね? では、犠牲者の方は?」


 少女についての資料を抜き出して、続ける。


「確か、去年が11歳の女の子。今年は、12歳の女の子ですわね。10歳程度の女の子というほかに、何か共通点はありませんの? 彼女たちは全くの無関係? 犯人と接触した共通の場はないのかしら? 彼女たちが選ばれた理由が気になりますわ」


 二人は私の態度の豹変はきちんとスルーしてくれて、発言内容を吟味する。


「一人目はクレイトン家の庭師の娘。二人目は騎士の娘で、貴族家に侍女見習いに上がっていた。住む場所も生活圏も違うし、おそらく接点はないはずだが。」

「生活状況に共通点がないなら、外見や性格は? 選ぶ基準には、犯人の好みが反映されるものですわ」


 一周目の知識を引っ張り出してみる。なんか、好みのブロンドばかり狙うシリアルキラーとか、テレビで見た気がする。


「リーナは、黒髪に緑の目だったよ。活発な子だった。二人目は、どうだろう?」

「黒髪だった。目の色もすぐ調べさせよう」


 アイザックが補足を入れた。


「もし目の色も緑だったら、ソニアに注意しないといけませんね」


 私の懸念に、キアランが頷いた。


「そうだな。外見的な特徴にこだわりがあるなら、広く注意が呼びかけやすい」


 さすがに王子様は、身近しか心配しない私と違うね。


「あとは、現場ですわね。練兵場も、大通りの方と同じで瘴気の穴が開いてしまったのでしょう。今後、どうされるのかしら? どちらも血の流れやすい場所ですけれど、夏至でなければ、大丈夫なのかしら」

「現実問題として、兵士が大勢いる状況自体は悪くない。魔法陣の箇所だけ結界を張るなりして、練兵場としては使い続けてもいいんじゃないか?」


 キアランがアイザックに意見を求める。


「そうですな。そこは、魔導士や預言者との相談になるでしょう」

「カッサンドラ山の麓から湧き水も取り寄せているから、その結果も待たないとだな」


 あ~、そういえば、あとでキアランをメサイア林の湧水に案内する約束してたな。完全に丸1日コースだし、スケジュールがなかなか合わないから、当分先になるか。


 それからも、3人で思い思いの意見を交換し合い、時々アイザックが質問を挟むやり取りがしばらく続いた。

 王子相手だろうが子供相手だろうが、相変わらず淡々としてる。


 意見が出尽くした頃には、1時間以上がたっていた。


 お茶の用意をさせてから席を立つ直前、アイザックは隣に座る私を見下ろした。


「これからも、ノアと仲良くしてやってほしい。グラディス嬢」

「はい」


 礼儀正しく応じると、アイザックが微かに微笑んだ。

 おお、顔面がほぼ固定状態のアイザックの笑顔なんて、子供の時以来かも! さすがに孫のガールフレンドに愛想を振り撒くくらいの要領は覚えたんだな。


 ちょっと感動しながら見送って視線を戻すと、そこにぽかんとした二人を見つけた。


「おじい様の笑った顔なんて、初めて見た!」

「俺もだ」


 アイザックの笑顔は、やっぱり身内レベルでも前代未聞だったらしい。結構な衝撃体験を、少年二人にもたらしていた。


「まさか気に入られて、孫の嫁に、とかないよね」


 はっとして詰問する。ノアは一緒にいてすごく気楽だけど、そういう相手の感じではないぞ。


「ええ~、あのおじい様に限ってまさかあ……」

「だが、笑ってたぞ。気に入られたのは確かじゃないか?」


 キアランの指摘で、のんきに否定しかけたノアは一度う~んと考え込み、意見を翻す。


「そういえば君、さっきは完璧に素を隠し通したもんねえ。どこに出しても恥ずかしくない令嬢っぷりだったね」


 その指摘に、思わずあっと思う。

 

「そうだよ、私ってこの顔で、礼儀も性格も頭もいいとこ見せたりしちゃったら、大人に目茶苦茶気に入られちゃうんじゃない!?」

「うん、その性格がバレるまでだけどね」


 安定の突っ込みを入れるノア。

 そもそも最近は、記憶覚醒前のように無闇に対立とか衝突もしていない。さすがに子供相手にムキにはなれないからね。

 独り歩きしたままの悪評はあるけど、不良がちょっと善行をするといい奴に見えるような現象が、私に起こっているんじゃないだろうか。


 それから珍しく、ノアは真面目な顔をキアランに向ける。


「そうなったら、僕もらっちゃっていい? キアラン」

「俺に訊くな」


 キアランが無表情になって答える。そりゃそうだ。


「そうだよ、私に訊くことでしょ」

「いや、ごめんなさい」

「ちょっと! なんで私がフラれたみたいになってんの!? もしホントにそうなったらクレイトン家の財産食い潰してやるからね!!」


 なんだかこの不毛なやり取りは、お茶の用意がされるまで続いた。

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