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授賞式

 とうとうお待ちかね、ジュリアス叔父様の晴れの日がやってきた!


 家族揃っておめかしして、会場内へ!


 私の今日のテーマは妖精。淡いピンクを基調として、花のモチーフとオーガンジーを多用したフワフワスカートのふくらはぎ丈ドレス。ソニアが大人っぽい感じのデザインだから、かなり甘めのイメージのものに変更してみた。この丈は、まだまだ目立つんだよね。市井の方ではあっという間に広まったんだけど、上流階級ではもうひと頑張り必要だな。広告塔として、精力的に切り込んでいかないと。


 毎年恒例のハーヴィー賞は、王都の中心から少し外れた国立森林公園に特設会場が設営される。散策やちょっとしたレクリエーションに最適、王都民の憩いの場。でも今日はガッチリと警備で固められ、招待客と関係者以外は一切入場がシャットアウト。

 社交シーズンのため、王国中の名士が招待に応じている。ぶっちゃけ外周で目を光らす警備兵より、会場の招待客の方がぶっちぎりで強かったりするのが、この国のご愛嬌ってとこだね。


 毎年サボりがちなトリスタンも、今回だけは引き摺ってでも連れて来た。まあ、今年に関しては再婚のこともあって、普段スルーしてるとこまで顔を出してて大忙しなんだけど。イーニッドお義母様が側でずっとフォローしててくれるから、大した失敗がほとんどないのが幸いなところ。


 よく手入れをされた街路樹に挟まれた石畳を、中央の広場に向かって進んでいく。

 広場に高さ1メートルくらいの壇が設置され、その元にはすでに大勢の招待客が溢れていた。


 雰囲気としては、一周目、ニュースで見た園遊会みたいな感じだな。森林や池まである自然豊かな公園の中、偉い人たちが雑然と群れているというか。私もいずれ呼ばれたら、着物で出席するつもりだったのになあ! ちくしょう!


 私は予定通り、マックスのエスコートでトリスタンとイーニッドの後をついていく。おお、さすがに超有名人。モーゼのように人の波が割れて、あっという間に最前列へ。壇上のスタッフがすぐ目の前だ。


 そしてここにたどり着くまでに会った大人、半分くらい知った顔だった。まあ、全部スルーだけど。

 この最前列に至っては、上位貴族が占めてるから、ほぼ全員知ってる。

 トリスタンたちがギディオンと伯父さんのクエンティンに挨拶に行った。


「これって、俺たちなにしてりゃいいの?」

「もうすぐ授賞式が始まるから、それまではとりあえず付いて回るしかないよ」


 マックスとひそひそ話し合う。大人たちにとっては大物ばかりが集まる大事な社交の場だけど、子供はおまけだから、手持無沙汰なんだよね。


「式が終わったら、あとは立食パーティになるから、割と気楽に動けるよ。まあ、マックスは跡継ぎとして引っ張りまわされるの覚悟しててね」

「お前はどうするんだよ」

「適当にやってる」

「ズリー!」

「私には、今現在の貴族の流行を調査するという使命があるの!」

「後付けだよな、それ」

「しっ、始まるよ!」


 瞬時に、静寂が訪れる。来賓のご登場だ。


 壇上に上がった国王のエリアス、王子のキアランが中央最奥に着席。それからそれなりの重鎮たちもその脇に並んで控える。かつては私もあの位置に立ってたわけだけども。ザカライアに代わって今そこに立つのは、現在の筆頭預言者ってことだね。

 ちなみに偉い人がどっとこっちに来ちゃってるから、アイザックは王城でお留守番なのも毎年のこと。


 おお、私の後釜はエイダか。まあ、順当だね。たしか私が死んだ頃には、バルフォア生だったか。子供の頃から群を抜いた才能の持ち主で、私が特に目をかけて育てた預言者候補だった。まだ20代で筆頭になるなんて、やるじゃないか。


 場が整ったところで式が始まった。


 壇の横に控える受賞者たちが一人ずつ呼ばれ、その功績とともに紹介され、賞を授与されていく。

 王国に対して貢献した研究者を讃えるための賞。毎年各分野に一人。

 脳筋ばかり優遇したら国が成り立たないから、頭脳労働者に対してもさすがにちゃんと正当な評価と対価は与えられる。


 そして今年の農業分野の受賞者がジュリアス叔父様。

 壇上にその姿が見えた瞬間から、御婦人方の歓声が広がる。


 そーだろうそーだろう! おっさんじーさんばかりの中、一人だけ若いイケメン! しかもジャンルが地味な農業というギャップ! 目立たないわけがない。私の自慢の叔父様だ!


 叔父様はいつものように、穏やかに微笑しつつ栄誉を受ける。

 眉目秀麗頭脳明晰、この落ち着いた優雅な立ち居振る舞いに加え、公爵の弟! この場で何人のご令嬢を虜にしたことか! 私の審査は超厳しいぞ! とりあえずオバさまたちからのガードは固めるのが緊急課題だな!

 

 内心で超ハイテンションの大騒ぎがとどまらない。でも残念なことに、順番を待ってる間は長いのに、叔父様の持ち時間だけすごく短く感じる。もう終わっちゃった。早くない? ああ、もう一回見たいなあ。


 気が抜けて、何気なく見上げた壇上で、筆頭預言者のエイダと目が合った。その瞬間、顎が外れそうな顔で見返された。おい、一応若い娘が壇上で何て顔してんだ。


 っていうか、あれ、バレたな。


 トリスタンの時に気付いたけど、人間離れした直観力の持ち主には、見抜かれちゃうらしい。エイダほどの才能なら、瞬時に理解してもおかしくない。


 私は密かに人差し指を唇の前に立てた。それから間を置かず、下に向けた親指で、首を掻き切る仕草で睨み付ける。

 エイダは青い顔で慌てて目を逸らした。


 よし、あとで話を付けに行こう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読んでて、ものすごく楽しい。 先を読みたい気持ちが、これほど強くなる作品は久しぶりです(*´∇`*)
[良い点] ふんわり乙女ドレスの美少女が、唇の前に人差し指一本からの~  KILL! ジェスチャー。 最高です!
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