大預言者
――そもそもの疑問。
大預言者って何?
預言者とは何か違うの?
いろいろ会話しているうちに分かったのは、預言者の共通点として、魔力が全く計測されないってことが挙げられる。その理由は分かっていない。
一説によると、本来備わっている膨大な魔力の全てが、預言能力ただ一点のみに完全にアウトプットされているせいとも言われているとか。
とにかくレアな存在らしい。
う~ん、預言者かあ。あ、いや、大預言者かあ。
なんか、ビミョ~? 魔法は使えないんだよねえ。
後方でこそこそやってそうな感じ? 私、突撃タイプだと思うんだけど。
それで何すりゃいいの? 前世だと、占い師に頼る政治家とかいたらしいけど、そんな感じ?
内心でそんなことを考えていたら、マジにそうらしい。
本来、スカウトされた子たちは、庶民よりも上のレベルの、官僚や騎士、魔導士も見据えた高い教育が施されることになる。連れて行かれた3人の仲間はこれに当たる。
ところが預言者となると、王侯貴族と同じ教育をされ、将来国家運営の一翼を担う立場になるらしい。
ちょっとどうなの、それ? 自分で言うのもなんだけど、私も立派な脳筋よ?
空手ばっかで、勉強なんてろくにしてこなかったから、内政チートとかできないよ?
大学だってスポーツ推薦だからね。教員免許はとったけど、もちろん保体だよ?
国家運営に保体の項目ってあったっけ?
とか思ってたら、預言者ってのは、頭脳や思考よりもインスピレーションがものをいう役職だから、あんまり関係ないらしい。それもなんか腹が立つんだけど。
まあ、今よりいい暮らしができるなら、何でもいいんだけどね。
いや、むしろチャンスか!? ここでなら、生活に追われず、おしゃれや恋を謳歌できるんじゃね!?
大預言者と魔法騎士の恋とか、超~高ぶる~うっ!!
……なんて、皮算用をしていた瞬間もありましたよ……。
妄想が崩れ去るのなんて、一瞬だね……。
預言者はもれなく、生涯独身が義務付けられるらしい。インスピレーションを研ぎ澄ますためには、伴侶は邪魔なんだとか。
トホホとしか、言えねえ……。
一周目に続いて、二周目、早くも喪女決定かいっ!?
まだ、7歳なのにぃ!!!
こうして失意のうちに、私の大預言者人生は幕を開けた。
まずは王城の一角に居室を与えられ、家庭教師から基礎学問の教育を受ける。
さすがに無知はイカンらしい。
まあ、他にやることもないし、この世界のことも知れるから、それはいいんだけどね。
身なりも小ぎれいにされて、この世界に生まれてから初めて鏡の中の自分を見た。
おお~、なかなかのレベルだよ!? 前世と比べれば、天と地だよ!
黒髪は前世と同じだけど、瞳は緑。なかなかワイルドな印象。将来は迫力美女路線も狙えそう。
栄養状態が悪かったから華奢ではあるけど、ゴツいよりは全然よし。
どうせ預言者は基本ローブで、ドレスは着れないしね。一生彼氏できる予定もないしね。
……ああ、虚しい。
そして安全で健全な環境が整ったから、体もそれなりに鍛えだした。
勉強ばっかじゃ息が詰まるからね。
とりあえず軽めに、前世と同じルーチン。少しずつでも、毎日続けることが大事。
ここの生活では特に人と戦うこともないし、試合があるわけでもないから、完全に趣味と健康維持の範囲でね。身に染み付いた空手の形とか、けっこう好きだったんだよね。
ああ、そうそう、宰相の坊ちゃんとも、無事対面を果たしたよ。
坊ちゃんと王子様が同い年の幼馴染で、王城で遊んでるところに、紹介するからと連れて行かれたの。
カトーさんから宰相に話が行って、どうせ将来は一緒に仕事をするんだから、今から二人と会わせておこうってことになったらしい。
そもそも次世代の預言者が、子供の内から発掘されるのは、かなりレアケースなんだって。
普通は複数の預言者候補が切磋琢磨して、大人になってから筆頭が選ばれるものだから。
大預言者ともなると、余程のことでもない限り、その地位はもう確定しちゃってるんだね。
紹介者のカトーさんと二人で、庭園へと案内されると、遠くに、小さな人影がチャンバラみたいなことをやっているのが見えた。
遠目にも映える赤い髪の男の子と、白の強い水色の髪の男の子。
水色、キタ――――!!
私のテンションがギュンと跳ね上がる。ファンタジー世界のお約束―――!
この世界に生まれて、多少変わった髪と瞳の色は何度か見たけど、水色は初めてだわ。
赤い髪の方だって、赤毛というには収まらないような、鮮やかな深紅。近付く私達に気付いて、こっちに目を向ける。あっ、瞳の色まで真っ赤だ! ウサギちゃんだ!
ああ、感慨深いねー。苦節7年。やっと剣と魔法の世界の中枢に入り込めた気がするよ。
しかも二人とも、将来有望な美少年だよ! 私がショタだったら、犯罪の香りをバラ撒いてたかもね! お姉さんこう見えて、内面は30年近く生きてるんだよ! 多分精神年齢は同等だけどね! もしかしたら劣るかもよ!?
そして心の中で盛り上がったまま、声をかけようとした時に、ひと騒動起こった。