懐かしの王城
私は今、なんと懐かしの王城にいる!
なんか一周目の時のイメージと違って、ここって王様へのハードルが低いよな~。それなりの貴族なら、割と気軽に会える感じ。やっぱ体育会系だから、チームワークとかコミュニケーション重視なんだな。気まぐれエースに振り回される人情監督みたい。
で、今日は一家揃って、結婚の報告。
エリアスとアレクシスは、立派に王様王妃様やってて、元先生としても嬉しい限り。エリアスが尻に敷かれてるようで、気の強いアレクシスを大らかに受け止めてて、本当にいい夫婦。まあ、相性がいいのは学生の頃から分かってたけどね。年は重ねても、全然変わってなくてほっとした。
アイザックが仕事のため同席していなかったのは、寂しいような安堵したような。ちょっと複雑。
挨拶は問題なく終わって、なんか話の流れで、マックスが王城での訓練に参加させてもらえることになった。
この後キアランと、アレクシスの甥姪のエインズワース家年少組で、戦闘訓練があるんだって。従兄弟同士でしょっちゅうそういう機会を作って、切磋琢磨してるらしい。
マックスが興味を示したら、アレクシスが気軽に誘ってくれた。そりゃ、ラングレー家次期公爵ともなれば、不足はないよね。っていうか、こいつすでにかなり強いから、同世代には相当の発奮材料になるね、確実に。
この後のスケジュールが詰まってるトリスタンとイーニッドは先に帰って、私は付き添いの見学。
マックスが借り物の訓練着と剣で準備を整えて、一緒に訓練場に付いていった。
昔コーネリアスとアイザックの練習をよく茶化しに行った場所。細かいところはいろいろと変わってる。
でも、そこに昔と同じ真っ赤な髪の少年を見つけた。
「キアラン!」
「ああ、グラディス。久し振りだな」
キアランも気軽に手を振って応えた。
本当に、ずいぶん久し振り。あの魔物事件とか魔法陣生贄殺人事件のことで、ノアも含めて手紙で情報のやり取りはたまにしてたけど、会うのはあれ以来だ。
すでに話は通ってるらしい。周りにいる少年少女たちも、予定外のゲストにやる気満々。
その中には、前に会ったソニアと従兄弟の少年たちもいた。
「あら、あなた達もお久しぶり。あれから色々と順調かしら?」
私に意味ありげに微笑まれて、少年たちはうっと言葉に詰まる。なんか、苦手意識持たれてないか? 失敬な奴らだ。
「お久しぶりです。あの時は、失礼を」
ソニアが、少し恥ずかしそうに答えた。凛とした感じの戦う美少女なのに、何とも初々しい。
「まあ、前よりもっと可愛くなって! モテちゃって大変でしょう!?」
「い、いえ、私なんて、そんな……」
困るソニアの後ろで、少年たちがなんとも嫌そうな顔をしている。
「ソニア、準備運動がまだだぞ」
「はい、では、また……」
理由を付けて、ソニアを連れてさっさと退散していった。
「見学してるから、頑張ってね~」
手を振って見送る私に、大方を理解したキアランが呆れた表情をする。
「何をやってるんだ、お前は」
はい、もちろんからかって遊んでました。
「あ、こっち私の新しい弟のマクシミリアン。強いからね!」
マックスの腕を引っ張って、紹介した。
「グラディスの従兄弟のマクシミリアンだ。よろしく、キアラン王子」
マックスのやつ、言い換えやがった。そしてすでに対抗心むき出しか。未来の国王VS公爵とか。おお、ちょっと燃えるな。
「ああ、キアランでいい。よろしく頼む。手加減はいらないぞ」
キアランは気負いもなく応じ、連れ立って歩いて行った。
私は一人残り、柵の外の木陰で見学。
入念な準備運動の後で、早速実戦形式の対戦が始まる。1対1だったり、集団戦だったり、個対多だったり、バリエーション色々。
武器はもちろんそれぞれの得意魔法も入り乱れて、けっこう……いや、大分激しい。
いいなあ。前世でも思ったけど、魔法、使ってみたかった。あんな風にぶっ放せたら気持ちいいだろうなあ。
意外にもソニアは、魔法に関しては一番強いみたい。フィジカルの弱さが完全に補えてる。
でも一番強いのは、やっぱりマックス。まあ、当然だよね。領地で日々魔物相手に、ガンガン実戦積んでるわけだし。しかも師匠は最強のトリスタン。あの中では年下なのに、エインズワースの子たちより、明らかに抜きんでてる。
逆に、キアランもある意味凄いね。実力が一番劣るのは仕方ない。というより当然。唯一の王都住まいの王子様だもん。なのに、なんであの中に混ざれるの、って話だよ。子供とは言ってもあいつらみんな、ほぼ騎士予備軍みたいなもんだからね?
ひとえにキアランの視野の広さ、バランスの良さのおかげなんだろうね。
本当に状況をよく見てる。その時その時で、最善の行動をする。エリアス似の堅実さで、防御とかフォローでずば抜けた力を発揮して、マックスでも攻めきれないんだ。優秀な指揮官になれるね。
「やあ、君は見学かい?」
観戦に興じる私に、後ろから声がかかる。
「ノア!」
私の隣に、ノアが並んだ。
「ノアは、訓練はしないの?」
「冗談でしょ。あれに混ざったら死んじゃうよ」
「だね~」
二人で生ぬるい視線を交わし合う。
「じゃ、何しに?」
「この後、キアランとお勉強会だよ。ちょっと様子を見に来ただけ」
「うわ~、王子様って、大変だ」
「だね~」
肉体労働の後のお勉強会とか。あり得ないわ~。
っていうか、代替わりしても、あんた達の血筋は一緒に勉強してんのね。アイザックの方針かな?
「それで、例の件は相変わらず?」
せっかく直接会ったのだから、事件についての新情報がないか訊いてみた。
私たちはまだ、真相の解明を完全に諦めたわけではないからね。