表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/378

玩具

 結婚式も無事終わり、1ヶ月以上になった滞在を終えて、明日はラングレー領を発つ。


 また馬車で5日かけての旅程になるけど、今度は家族揃っての初めての旅行。行きのような退屈はしないはず。

 とは思ってたけど、私以上に堪え性のないトリスタンに、そんなのんきな旅なんてできるわけがない。昨日ひと足先に、一人で乗馬で出発しちゃった。ホント気まぐれで勝手な奴だ。多分今夜中には、王都の別邸に到着してるだろうね。


 というわけで、イーニッドとマックスと三人での旅になるわけだね。


 ラングレー城でのお泊りは今日で最後。そんな私の隣を歩くマックスの手には、ものっすごく懐かしさを覚える品が抱えられている。


 ははははっ! やっと、届いたぞ! 出発に間に合わないかと思った~。


 その名も、ちゃらららっちゃら~ん! キックボ~~ド~~!! っだ!


 前にちょっと思いついたやつ。 こっち来て暇だったから、城下の鍛冶屋に発注してたのが、ギリギリ昨日の夜に私の手元に届いたのだ!


 部屋でちょっと乗ってみた感じでは、問題なく前に進んだ。

 やっぱりここの技術でも、このくらいの物なら私の説明程度で出来るんだね。馬車が造れる技術があるんだから、その簡易ミニチュア版みたいなもんなのかな。

 合金とか素材的な技術が劣る分の強度は、魔法技術的な何かでカバーされてて、見た目の造りは大分華奢な感じ。棒のてっぺんに自転車みたいなハンドルが付いてて、足元にはスケボーみたいなタイヤ付きの板がある。


 早速試してみたくて、朝食後すぐ、城の中庭に持って行った。


「それで何なんだよ、これ」


 荷物持ちのマックスが物珍しそうに、自分の手から謎の商品を地面に置いて訊いた。


「ふふふ、これは、こう使うのだ!」


 両手でハンドルと握り、ボードに片足を乗せて、反対の足で地面を蹴ってみる。


「……あれえ?」


 何度かやってみて、恐ろしいことに気が付きましたよ。


 これ、舗装道路でないとまともに進まない!!!


「思ってたのと、なんか違う~!」


 ガッカリして、地面に降りる。土がむき出しのデコボコ地面じゃ、ひと蹴りで30センチ進むかどうか。しかもガタガタ揺れて乗れたもんじゃない。

 この世界に舗装道路なんてない。せいぜいが石畳。これじゃ、全然楽しくないや。


「ちょっと俺にも貸して」

「うん、でも、全然進まないよ」


 私の手から渡されたキックボードに、今度はマックスが興味深そうに乗ってみた。


 ひと蹴りで、いきなりのロケットスタート。


「おー、こりゃいいなあ、おもしれー」


 段差なんて何のその、面白いくらい滑らかに中庭いっぱい乗り回してる。ってゆーか、最初の一回しか、地面蹴ってねー!!


「あーっ、魔法! ズルい!!」


 風魔法だ。タイヤと地面との接地面に何ミリかわずかな気流を発生させて、滑らせてる。

 う~~、悔しい~! 私には絶対できない乗り方じゃん!! 


 快調に飛ばして戻ってきたマックスを、八つ当たり気味に睨む。


「も~、つまんない!」

「後ろ乗ってみるか?」

「っ!? うん!」


 そうか、その手があった! さすがに気が回るぞマックス!! 


「しっかり捕まれよ」

「うん」


 ボードの後ろ側に両足を乗せ、マックスの腰にぎゅっとしがみついた。

 

「いいよ」

「いくぞ」


 私を後ろに乗せて、今度は安全運転で飛び出した。


 おおっ、これはなかなか楽しい! 馬車とも乗馬とも違って、上下の揺れが少なくてなめらか! 自転車の後ろに乗った感じかも。


「ねえ、これって、誰でも乗りこなせそう?」


 マックスにしがみつきながら訊いてみる。


「そうだな。二人乗りはコツがいるかもな。一人だったら、ちょっと練習すりゃ、生活魔法程度の魔力で行けると思うぜ。まあ、スピードと持久力考えると、実用遣いはそれなりの魔力がいるだろうけど、遊具なら十分だろ」

「どっちにしても、私ダメじゃん!」


 くっそ~! 自分だけ乗れないもん造ってどうすんの!? そしてなんでお前は練習なしでいきなり乗りこなしてんだよ!

 しょうがない! 悔しいけど、これは可愛い弟に進呈しようか。


 一通り遊んでから、自分で使うのを諦めて城に戻った。


 癪に障ったから鬱憤晴らしにツルツルの城の通路を爆走したら、大人たちに凄く怒られた。

 スンマセ~ン。


 こうして一か月以上にわたる滞在を終え、翌日、私たちは王都へ向けて馬車で、ラングレー領を後にした。


 ちなみにこのキックボード、王都に戻ってからも、別邸の敷地内でたまにマックスと遊んだりしてた。それを見た出入りの商人が、叔父様を通して商売の話を持ち掛けてきたから、全部叔父様にお任せしといた。


 そして忘れた頃に、王都で空前のブームを巻き起こし、私のへそくりを激増させることになる。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ