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マクシミリアン・ラングレー(従兄弟・義弟)

 来月、社交シーズンに向けて王都に行くことになっている。


 ここ何年かトリスタン伯父上に同行させられるようになったのは、多分すでに次期公爵としての根回しが始まってるんだろうと思う。ジュリアス叔父上もグラディスも、領地に戻る気がないようだから。


 俺もそのつもりで今から鍛えているし、そこは問題ない。俺にとって問題なのは、グラディス。

 物心ついた頃には、すでに好きだった。


 王都に滞在する時には、姉弟のようにいつも一緒に過ごした。グラディスが俺に王都の過ごし方を教えてくれた。逆にグラディスがラングレー領に滞在中には、俺が豊かな自然の中での遊び方を教える。


 ラングレー領ではそうでもないけど、王都でのグラディスの評判は最悪らしい。母親であるグレイス伯母上の悪評をそのまま引き継ぎ、それどころか更に尾ひれがついた状態だそうだ。


 グラディスが我儘? 自分に正直なだけだし、その我儘は迷惑どころか周りに幸せを運ぶことが多い。

 攻撃的で意地が悪い? 性根が真っすぐで、嘘で取り繕わないだけだ。自分から弱者にしかけることなんて絶対にしない。

 浪費家? 派手なドレスやアクセサリーだって、全部自分で用意してる。秘密なのが悔しいくらいだ。

 

 気の強さも、その行動力も、意志の強いところも、好きなことに全力で情熱を傾ける姿も、全部好きだ。


 でも、グラディスの良さは、俺だけ知っていればいい。公爵令嬢の元に、本来ひっきりなしに来るはずの縁談が皆無なのは、そのおかげだろうから。


 今はまだ弟としか認識されていなくとも、いつかは俺の嫁にすると決めている。


 そのグラディスが、なぜかこんな時期に突然領地にやってくることになった。いつもは俺たちが王都に滞在した後、その帰途で一緒にラングレーへの帰省となるのに。

 行動は衝動的なのに、もの凄く頭のいいところもあるから、きっと何か特別な目的を持ってのことだろう。


 数日後の対面を楽しみに待ちわびながら、日課の訓練に励んでいた。


 ここ数日は毎年恒例、ソレク村での実践訓練が続いていた。若手や見習いだけで魔物に挑み、いつもの主戦力は可能な限り手を出さない。

 去年よりずっと戦えている手ごたえがあった。俺は、強くなっている。いずれは、公爵を名乗っても恥じないだけの実力を手に入れる。そして堂々とグラディスを迎え入れたい。


 その訓練の最終予定日、トリスタン伯父上の介入で戦闘は呆気なく終わってしまった。


 釈然としない気分で野営地に戻り、そこに見つけた少女の後ろ姿に心臓が跳ね上がった。


 名前を呼べば、昔から大好きだった従姉が、笑顔で振り返る。


 プラチナに輝くサラサラの髪、意志の強い青の瞳。去年より、もっと美しくなったグラディスが、両手を広げて俺に駆け寄ってくる。

 前よりずいぶん大人びて見えて、抱きしめ過ぎないように少し気を遣った。


 ああ、やっぱり大好きだ。


 でも、以前とはずいぶん印象が変わっていた。以前のグラディスは興味のないことには一切目がいかなかった。そこはトリスタン伯父上とよく似ていたのに、今のグラディスは、ジュリアス叔父上のように視野の広さを感じる。

 ラングレー家のことなんて無関心だったのに、ジュリアス叔父上のためとはいえ、一番の解決策を実行するために戻ってきたという。つまりは母さんとトリスタン伯父上の結婚を進めるために。


 露天風呂では、風呂上がりの姿にドキドキしている俺に、平然と髪を触らせるグラディス。完全に弟としか思われていない上、現実でも本当の弟にするつもりだ。


 そして戻った大広間での宴会の席で、グラディスは見事にラングレー家の問題を、集まった一族を丸ごと証人にする形で解決してしまった。


 トリスタン伯父上を動かそうなんて、どうせ無駄だと一族の誰も考えなかった。あの恥じらう姿を見るまで、母さんが伯父上に心を寄せていたことなんて、誰も気づいてなかった。

 グラディスは気まぐれに戻ってきて、その日のうちにあっさり片付けてしまった。

 

 この行動力と頭脳と能力の上、今の雰囲気は角も取れて、すごく付き合いやすい感じだ。


 これは、まずくないか? ただでさえどんどんきれいになっているのに、更にトゲまで取れてしまったら、グラディスの良さに気付く男が間違いなく現れる。

 このままでは、俺のことは気付かれもせずに、他の誰かにさらわれてしまう。


 だから遠乗りに連れ出して告白した。


 形は弟になっても、諦めるつもりはさらさらない。たとえ今は弟でも、名乗りを上げないことには始まらないから。

 いくら強く抱きしめても、グラディスの気持ちが俺に向くわけじゃない。

 やっぱりいい返事はなかったけど、今はまだ保留で構わない。


 俺もいると、認識させただけでも十分だ。


 時間はまだある。バルフォア学園に入学すれば、3年間は王都の屋敷で一緒に暮らすことになる。振り向かせるチャンスはまだあるはずだ。


 俺たちの年齢差は11ヶ月。学園は、入学日時点で成人年齢に達していたら入学になる。俺はギリギリ、グラディスと同学年だ。


 丸々3年間、家でも学校でも一緒にいられるんだ。グラディスが本気で惚れる男が現れるまでは、俺は諦めない。

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