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肩書

 翌朝、私は昨日と同じくカトーさんの馬に同乗して、村を出発した。


 カトーさんは昨日のことについてしきりに聞いてくるけど、なんとなくとしか言えない。カンが鋭かったのは昔からだし。いつもよりかなり強力ではあったけど。

 何しろ映像付きで、先が読めたからね。進んだ場合と、そうでない場合の2パターン。

 雷鳴と豪雨の中を死傷者を出しながら右往左往する映像と、村の宿でぐっすり眠る映像。

 

 私はその感覚を、体験したまま正直に伝えた。


 何だったんだろう、あれ?


「確かザカライアは、魔力が0だったんだよな?」


 カトーさんは確認して、何事か考え込んでいた。


 移動は順調に進み、森の入り口に着いた。


 すぐ近くの木が真っ二つに裂けて、黒々と焦げていた。昨日の落雷は、ここだったらしいね。


 うひょ―――、ホントにヤバかったんだ! 冷汗が流れる。ホントよくやったよ、偉いよ私! 仲間の3人も大はしゃぎ。スゲーよ、さすがボスだよ! ってなもんです。わはは。


 周りの兵隊さんたちも息を呑んで、難を逃れた幸運を改めて実感してる様子。

 君たち、大いに感謝したまえ。御褒美とかくれてもいいんだよと、内心で呟く。いや、口には出さないからね。

 少しは私のこと、見直してくれたかな? ね、問題児は卒業したの! 人は成長するものなのよ!


 ひとまずはここで停止し、小休止となった。一同は場所を整えて、軽食の準備を始める。


 次の進路を聞くと、森に入って突っ切った方が早いのに、わざわざ外側を迂回するという。森の中は盗賊が出るから、子供連れでは避けたいんだって。


 ここでまた、昨日のように2パターンの映像が脳裏に降ってきた。


「森に入ろうよ。近道でいいじゃん。予定通り今日中に着けるでしょ?」


 私はまた昨日のように提案した。


 周囲がざわめく。昨日のような頭ごなしの反対意見は、今度は出なかった。


 カトーさんは少し考え、小休止の間、迂回路に一騎物見を走らせることにした。

 私は駆けていく馬上の人の背中をじっと見つめた。


「どうかしたか?」

「ううん、大丈夫。あの人、もの凄く強運みたい」


 カトーさんの質問に、私は安心して答えた。


 一時間ほどして出発の準備も整った頃、ほうほうの体といった感じで、斥候が戻ってきた。


 盗賊は、迂回路の方で出たらしい。予期せぬ遭遇から命からがら反転し、なんとか逃げおおせたそうだ。


 盗賊も毎回同じ場所に出没してたら、対策されちゃうもんね。旅人の思い込みの裏をかいたんだね。

 集団で襲撃受けてたら、大混乱の中で、結構な被害が出てたとこだよね。


 まあ、そっちに盗賊がいると分かれば都合がいいと、一団は森の中をできるだけ速度を速めて進んだ。

 それは順調に進み、夕方になるまでにあっさり森を抜けた。


 王城が遠くに見える。眼下に広がる、西洋風の城下町。


 ああ、ファンタジー世界の王城! テンションマックス! あの城壁の中に、お姫様に王子様、騎士や魔法使い、賢者がうじゃうじゃ生息してるの!?

 ああ、トキメクわー!!


 浮かれる私の後ろで、カトーさんが呟いた。


「ザカライア。どうやら君の進路は、私が考えていたものとは少し予定が変わりそうだな」


 意味が分からず聞き返したけど、ちゃんと確認してから教えるよ、とはぐらかされた。


 え、なに? 坊ちゃんの遊び相手クビってこと? 私今回は何もやらかしてないはずだけど! すごく役に立ったよねえ!?

 今更やっぱなし、帰っていいよとか、言わないでぇ!!


 穏やかでない心境のまま、馬は進む。


 何事もなく城下に入り、だんだんと王城へと近付いてきた。


 私の不安は長くは続かなかった。だって、完全に剣と魔法のファンタジー城下に入り込んでるんだよ!

 ここはやっぱ盛り上がるでしょ! 


 まあ、最悪クビになった場合は、適当に逃げ出して、ここで生きていくのもアリかと、すでに思い始めている。

 スラムでもやってこれたのだから、ここでもなんとかなるだろう。

 ファンタジー世界なら、この際『盗賊』とかもいんじゃね? どうせ魔力ないし。

 女怪盗ザカライア見参! おお、かっこよくね!?

 私のラぺリング技術が火を噴くぜ!


 西洋ファンタジー風の街並みを、浮かれて観察しながら、くだらない妄想に熱中している間に、同行した兵たちの大半が、途中で別れていった。

 あとは子供たちを該当施設に連れて行って、手続きや入寮の準備などをすることになるから、もう護衛はいらないんだって。どっちみちあの人数は、捕獲要員だし。あとで大分追加されてたみたいだけど。主に私のせいで。


 目的の施設につくと、三人の子供だけ、担当の役人に連れて行かれた。


「え、あれ!? 私は!?」

「君は私と一緒に行こうか」


 私はカトーさんの馬に乗せられたまま、何故か一緒に王城の中にまで連れて行かれる。


 そして色々な大人に囲まれて、様々な質疑応答やらテストらしきものやら受けさせられた。

 なんか、偉そうな魔導士っぽい人とか学者っぽい人とかが、入れ代わり立ち代わり来ては、私のテスト結果や反応にいちいち驚いたり議論を戦わせたりしている。


「確かに魔力数値は0だ」

「本当に分岐してるのか?」

「300年ぶりだぞ」


 ちょっと、大ごと過ぎない? 一体何が起こってるの? やっぱり坊ちゃんの遊び相手じゃないの?


 数日かけてひとしきり調べ終わった結果、私に肩書が与えられた。


 ――()預言者だって……。

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