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企み

 城の大広間に戻ると、親戚の数は50人以上に増えていた。

 大宴会だな。主賓をほったらかして宴もたけなわですか。まあいいいんですけどね。

 いや、人数は多いほうがいいか。


 トリスタンは宴会に混ざって飲んでるし、イーニッドはオバちゃんたちを指揮して料理や酒の用意と片付けに大わらわだった。


「グラディス!」


 相変わらず目敏いトリスタンは、すぐに私の登場に気付いて手招きをする。


 よし、今ここでやってやろう。


「マックス、行こう」

「おう」


 隣のマックスに目配せして、一緒にトリスタンの席に着いた。


「君たちも呑むかい?」


 トリスタンは笑顔で、火を付けたら確実に燃える度数の酒を勧めてくる。

 くっ、このダメ人間め! あとで付き合ってやるから、4年待っとけ!!


「いけませんよ、お義兄様。ほら、あなたたちはこれを」


 イーニッドがすかさず冷たいレモネードを、お風呂上がりの私たちに出してくれた。

 くうううっ、ホントに出来過ぎだよ、トリスタンにはもったいないよ! さて、心を鬼にせねば!!


「そういえばグラディスは、なんでこんな時期にこっちに来たんだ?」


 私のやる気を察したマックスが、さりげなく会話の糸口を作ってくれた。ホント、空気の読める男だな、マックス!!


 さあ、ラングレー家一のワガママ娘のご登場ですよ!


「それは、お父様に苦情を申し上げるためよ!」

「それは穏かではないね」


 私の宣言に、トリスタンはきょとんとした。


「俺は何をやったかな?」

「11歳の誕生日プレゼントです! 覚えてるかしら!?」

「……ああ、あれね。何か問題が?」


 トリスタンは頷くけど、お前が覚えてるわけあるか!! と、突っ込ませてもらおう。


 こいつは私の誕生日なんて覚えてもいない。気を利かせたジュリアス叔父様が、秘書のローワンに指示して、お父様名義で贈ってくれてるだけだよ。こいつ自身は秘書に選ばせてすらいないからね!

 ちなみにジュリアス叔父様は、私へのプレゼントは必ず自分で選んでくれてる。そういうとこだよ、トリスタン!?


「わたしのファッションは、王都ではとても注目を浴びてるのよ? あんな趣味の悪いもの、とても使えるわけないわ。私のセンスが疑われてしまうもの!」


 ローワンごめん! ありがたく使ってるから! 心の中で詫びながら、クソミソに貶し出す。


 突如勃発した、親子喧嘩……というより、半年近くも前の出来事での一方的な言いがかりに、他の酔っ払いたちが注目し始めた。


「いーぞー、もっと言ってやれえ!」


 面白がって野次も飛んでくる。人望なさ過ぎだな、トリスタン。イーニッドも窘めたそうだけど、親子のコミュニケーションでもあるから、困った顔で見守ってくれてる。


「悪かったよ。じゃあ、グラディスは何が欲しいんだい?」


 お、トリスタンが乗ってきた! 基本こいつは無関心でも、会えば目茶苦茶私に甘いからね! 怒られたことないし。


「お父様みたいな朴念仁に、私の欲しいものなんて用意できるのかしら?」

「おや、見くびられたものだね。これでも公爵だからね。君のためになら何だって用意してあげるよ」

「本当かしら?」

「信用してくれ。絶対だ」


 よし、言質頂きました!


「では、お母様を」


 おおおおおおおおおおっ!!!

 周囲から歓声が上がった。

 予想を超える面白展開に、ホールの一同は飲食の手を止める。目の前で繰り広げられ始めたショーに、期待を込めた熱視線を送り出す。


「お父様に用意できるかしら?」

「もちろんだ」


 お父様はグラスを置くと、傍でやり取りをひやひやとながめていたイーニッド叔母様の元に歩き、片膝をついた。


「イーニッド、俺と結婚してくれ」


 よっしゃあ、言った! 男としては最低のプロポーズだが、よく言ったぞ!!

 周囲からもやんややんやの大喝采だ!!


 いくらトリスタンが人を愛せないタイプの男とはいえ、人の好き嫌いはきっちりあるからね。嫌いだったら完全スルーで、全く見向きもしない。側にいて一番安らげる女性がイーニッドであることは、疑いようがなかったんだ。


 突然のプロポーズに呆然としたイーニッドは、トリスタンに手を取られて見つめられ、途端に真っ赤になった。

 ああ、ホントにダメ男が好きですね、あなた。


 一族の注目は一斉にイーニッドに集まり、その返事を今か今かと固唾を飲んで見守る。

 そして古き良き女性の価値観のイーニッド、一族郎党衆人環視の中で好きな男に恥をかかせるわけにはいきませんね。


「……はい」


 恥じらいがちに頷いた。


「うおおおおおおおおおっ!!!」


 今度こそ、ホールを揺るがす拍手と大歓声。そのまま婚約パーティーに突入だ!!


 はい、いっちょ上がり!!! 私の隣で、事の成り行きを呆れたように見守ってたマックスとハイタッチだ!


「お前、ホントにスゲーよ」


 幸せそうな母親を見つめて、マックスが声をあげて笑った。


「期待以上に楽しいオイタだったね、お嬢ちゃん」

「はい!」


 セオドアおじい様が、私の頭を撫でてくれた。本当の意味で年上のおじい様に褒められて、珍しくちょっと照れちゃったよ。


 これで私には、素敵なお義母様と、可愛い義弟ができたわけだね。不束な父娘をよろしくね。

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[良い点] うっわあああ\(^o^)/♪♪ とぉーちゃんwwwwwwカッケー☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆♪♪ 素晴らしい♪♪
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