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相談

「おまたせ」

「おう」


 すっぽりかぶるワンピースタイプの寝巻を着て、脱衣所の外に出ると、マックスがすでに待ってた。やっぱりラフな上下の寝巻姿。この身内での大雑把さが、ラングレーのいいとこだね。


 ちょうど二人きりだし、例の相談をするとしよう。おっとそれはともかく……。


「ところで、魔法は上手になった?」

「ん? おう、去年とは比べ物になんないぜ」

「じゃ、熱風ちょうだい」


 マックスにドライヤーを要求。いつもはザラにやってもらうんだけど、戻るまで少し時間かかるからねえ。

 慣れてなくても生活魔法くらい、マックスならできるでしょ。才能だけは無駄にあるラングレーの男だし。


「しょうがねーなあ」


 マックスは特に嫌がる様子もなく、私の自慢の金髪に温風を当て出した。こういうとこ、弟気質だな。他人に頼めないようなことも普通にやってくれる。

 おお、さすがにうまいぞ!? 初めての無茶ぶりとは思えない! 強過ぎず熱過ぎない、ほど良い具合で乾かしていく。私にはよく分からないけど、慣れないと調節が難しいらしいのに。あれ? もしかして水魔法も併用してない? ホント器用だなあ。


「で? なんか話があるんだろ?」


 美容師のように私の髪をいじりながら、聞いてくる。


「うん。イーニッド叔母様なんだけど、私のお義母さんになってもらってもいい?」


 単刀直入に訊いてみる。予想外のはずの質問にも、マックスは特に驚きは見せなかった。


「ああー、それかあ。どうなんだろうなあ。俺はいいんだけど、母さんがなあ……」


 意外にも冷静な様子だ。なんだ、いいのか。


「っていうか、今の状態宙ぶらりんだし、一族みんな、伯父上と母さんがまとまってくれることを期待してるんだけどなあ」

「普通に考えれば、そうだよね。何でまとめないの?」

「おじい様たちも、これまで何回も母さんにそれとなく打診してるらしいぜ? でも、母さんが頷かないから、それ以上無理強いもできないって。まだ死んだ父さんを想ってるのかな」


 おお、やっぱりみんな動いてたのか。そしてやっぱりトリスタンの意見は誰も聞かないらしい。つまり100パー、イーニッドの気持ち待ちか。まあ一族としては、グレイスで盛大に失敗してるから、人物に間違いのないイーニッドは待望の後妻候補だよね。


 そして盛大な誤解がある。

 誰も、イーニッドの気持ちに気付いてないのか。頷かない理由を間違ってるな。夫を失った心の傷は、8年という時間がちゃんと相応に癒してくれてる。気持ちもトリスタンに向いてる。


 ただ、イーニッドは良くも悪くも昔気質な婦女子の価値観持ってるからなあ。子持ちの未亡人が亡き夫の兄に懸想するなんて、はしたないことだと思ってんだろう。いくら周りに言われたからって、はい分かりましたとは頷けないんだな。更に娘の私の気持ちも慮ってるだろうし。私は全然オッケーなんだけど。


 つまり働きかける相手を間違ってるわけだね。


「じゃあ、お父様と叔母様、結婚してもらっちゃっていいわけね?」

「できるもんならな」


 よっしゃ、息子の許可は取れたぜ! これで動ける!


「ほら、これでいいだろ?」


 マックスが私の髪をサラサラと手櫛で梳いてくれた。うん、見事な仕上がりです。


「ありがとう。で、二人が結婚したらだけど、あんたが次期公爵候補にほぼ決定するよ? 覚悟はできてる?」

「当然だ。お前はやる気ないんだろ」

「うん、ないね」

「じゃ、俺しかいねえじゃねえか」

「だね。円満解決でよかった。ふふ、そのうち、弟とかもできるかもよ? 楽しみだなあ」

「気が早すぎだよ。まずは結婚だろ?」

「そこはなんとかするから」

「それを企んで、こっちまで来たわけか」


 セオドアおじい様とよく似たいたずらっ子のような顔で、マックスはランタンを手に取った。


「で、俺は何をすればいいんだ?」


 自然に私の手を取って、帰り路を歩きながら乗り気で訊いてきた。


「私が勝手に動くから、その場のノリに合わせて対応してくれればいいよ」


 まだ厳密な作戦が決まってるわけじゃないからなあ。まあマックスなら空気読んで、臨機応変にやってくれるだろう。


「それにしても、なんで今、急に動く気になったんだよ」


 私の唐突な行動に、マックスは当然の疑問を投げかけた。


「ジュリアス叔父様がね、ハーヴィー賞取ったの」

「マジか!?」


 素直に驚いてくれる。そりゃ、親戚がノーベル賞取ったとかいきなり言われたら、普通驚くよね。ホント、この国ではそれに近いことだから。


「で、そろそろ学者活動に専念させてあげたい」

「……お前は、本当にジュリアス叔父上好きだなあ」


 マックスはどこか複雑そうな表情をする。まあ、ほぼその理由のために、これから引っ掻き回されることになるんだもんね。思うところもあるか。

 でも、そこは譲れないとこだから。


「うん、だから、授賞式には家族そろって出てあげようね。お父様は叔母様に譲ってあげるから、私はマックスがエスコートしてね」

「お、おう」


 あ、ちょっと照れた。お互いまだ子供だし、そんな機会なんか今までなかったもんなあ。夜会とかそんな正式なものじゃないから、もっと気楽な感じでいいとは思うんだけど。来賓としては何回も出席したけど、一般の招待客としては初めてになるからよく分からないんだよね。

 でも分からないほうが、新鮮で楽しみだよね。


 お楽しみの時を待ちわびながら、その前のひと頑張りといきましょう。

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