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狩場の再会

 野営地に馬車を止めて、あとは戦闘地帯まで散歩気分で歩いていく。危ないからザラは置いて、護衛二人だけが付いてきた。別にいなくても、私に万に一つの危険もあるはずはないんだけどね。

 現場にはトリスタンがいるはずだから。


 少し進むと、すぐに活気ある空気に包まれた。遠目にも、一回り体の小さい騎士見習いたちが、魔物と戦っている様子がよく分かる。


 注意深く観察すると、防衛ラインの後方から、笑顔で私に手を振るトリスタンが見えた。私が見つけるより先に私に気付くとは、戦場ではホントに無敵だな。どんな索敵能力してんだよ。


「お父様!」


 私は笑顔で無防備なまま駆け出し、トリスタンの胸に遠慮なく飛び込んだ。ちょっとした勢いの子供砲弾を、トリスタンは優しく軽々と受け止めた。


「やあ、グラディス! 大きくなったね。そしてますます美人になった。来てくれて嬉しいよ」


 片腕で私を抱えて、空いた腕で抱きしめてくれた。約1年ぶりの親子の対面だ。


「今頃城では、君の歓迎会の用意の真っ最中のはずだよ。予定の空いてる親戚はみんな集まってる」

「ええ? そんな大袈裟にしなくてもいいのに」

「やっぱりずっとこっちに住む気はないのかい?」

「ごめんなさい。私の生活は王都にあるから」

「そうか、残念だな。では、ここに滞在する間は、目いっぱい楽しんでいくといい」

「はい」


 楽しく親子の会話をしながらも、前線の誰かが危機に陥ると、トリスタンは見向きもせずにフォローする。魔法の遠隔攻撃で魔物の攻勢を潰してるのは予想が付くけど、何やってるのかは全然分からない。っていうか、何かやってるのか? って疑問になるくらい、動きが見えない。まるで魔物が勝手にダメージ受けて、勝手に倒れてくみたい。

 本当にバケモンだよな。

 だから私は安心して、会いに来たわけだけど。


「じゃあ、グラディスも来たことだし、この戦場はこれで終わりにしようか。一緒に帰ろう」

「はい!」


 私が元気に頷くと、前線の方から派手な音が聞こえて、あっという間の静寂が訪れた。

 これで、ここの戦闘は完結したらしい。

 やっぱりバケモンだ。


「ちょっと後片付けするから、ここで待ってて」

「はい」


 野営地まで抱えられたまま戻り、一先ず降ろされた。トリスタンはそのまま配下の人たちの方に向かった。

 陣内で慌ただしく撤収の準備に入る様子を、面白く眺めていると、後ろで誰か立ち止まった気配がした。

 ああ、これは……。


「グラディス!」


 振り向くと予想通り、従兄弟のマクシミリアンが驚いた顔でそこにいた。10歳ながら、当然のように訓練に混ざっていたようだ。


「マックス!」


 お父様にしたように、マックスにもハグにいく。マックスも嬉しそうに受け止めてくれた。

 おお、身長差が更に突き放されてる! 1年でずいぶん逞しくなったな。

 そんなことを思った一瞬、マックスの腕が微かに止まった気がした。気のせいかな?

 よく見ると、ちょうど目の前に見える耳が少し赤い。


 はは~あ、なるほど。去年は完全なる大平原だった場所に丘陵が発生したことに気が付いたわけですな?

 でもそこは迷わず構わず行ったと。それでこそ漢だぜ、マックス!

 成長期はお互い様だからね~。


「お前が来たから訓練終了になったのか。もっと戦いたかったんだけどな~」


 離れてからマックスがぼやいた。


「帰ったらごちそうみたいよ。私の歓迎会だから」

「やった! 早く帰ろうぜ」


 久しぶりでも会話は弾む。でもそこでマックスは少し腑に落ちない顔で私の目を覗き込んだ。


「なんかお前、少し変わってない?」

「1年近くも会わなかったら、少しは変わるよ」


 笑顔ではぐらかす。やっぱ姉弟みたいな付き合いだからか、違和感は誤魔化せなかったか。

 そう思いながら、アンバーの瞳を見返してハッとする。


 お父様や叔父様とよく似た整い過ぎた顔立ちに、印象的な銀の髪。ヤンチャの中にも甘さの漂う騎士見習いの美少年。


 最後の一人、お前か~~~~~!!?


 まさか4人目の銀髪青年がこんな身近にいたとは……。身内感が強すぎて、気が付かなかった。まあ、弟みたいなもんだし、これからホントの弟になる予定だから、これはないか。

 というわけで、マックスはスルーだ。


 これでグラディスが未来で好きになったかもしれない4人が、全員出そろったわけだね。

 以上で予言による運命の恋人(フラレ予定)探索は終了としよう。なんか分からないままだと、喉の奥に小骨が引っかかってる感じで気になったんだよね。これでスッキリしたから、もういいや。


 私の人生、4人しかいい男が現れないわけでもないだろうし、先のことは全部白紙だもんね。心置きなく素敵な恋人を探すとしよう!


「何だよ、妙な顔して」

「ふふふ、なんでも?」


 脳内で速攻排除したマックスに、にっこりと誤魔化した。


 あとは黒いフードの男だけど、仮にフードなしで出てこられたら、気付くかなあ。こいつが一番気になるとこなんだけど。

 予言通りなら、出会い自体が数年先になるんだろうね。少なくとも、グレイスと見間違える程度の年齢だから、学園生くらいの年頃かな。いくらなんでもそんな怪しい奴と、何回も顔を合わせて私が気付かないわけはないから、搦め手よりも、不意打ちに注意か。


 そういえば、あの猟奇殺人鬼の捜査は打ち切られたらしいんだよね。半年たっても手掛かりすら掴めなくて。

 私もあれから何度かあの現場に行ってみたけど、やっぱり予言は下りなかった。黒いフードの男が関係あるのかも、魔物が増える予言との因果関係も、何も分からない。

 それ自体が私にとっては異常現象なんだけど。


 学者や魔導士たちの調査で、魔物を生成する魔法陣であることはほぼ認定されたらしいけど、それだけ。

 私の印象では、あれの魔物は試作品。完成度よりも、できるかどうかを試す試金石。

 だから、できることが証明された以上、次もあると読んでいる。多分、更に完成度を上げて。そして生贄も伴って。

 調査は、打ち切るべきじゃないんだけど……。


「グラディス! 準備ができたよ。行こう」

 

 トリスタンに呼ばれ、私の思考はそこで途切れた。


「一足先に行こう。馬車は後からくればいい」


 トリスタンが連れてきた馬にひょいと乗せられた。その後ろにトリスタンが乗って、馬が走り出す。


 そうだね、考えるのはまた後にしよう。今は他にやることがある。


「お父様、私、乗馬ができるようになったのよ!」

「それはいいね。ここは遠乗りには最高だよ。行くときはマクシミリアンを連れて行くといい。この辺りくらいなら、きっちり護衛になるよ」

「はい」


 おお、マックス。トリスタンにそれなりの評価を受けてるぞ! 頑張ったんだな!

 よし、さっさと問題を片付けて、遠乗りに連れてってもらおう! 

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