旅路
飽きた。飽きた飽きた飽きた~~~~!!!
は~、何が小旅行気分だよ。5日も馬車に揺られてりゃ、そりゃ飽きるって。
そもそも初日の昼にはもう飽きてたし。やっと今日到着予定。早くこの拷問から解放されたいわ~。
私にじっと座ってるのは無理だってホント。毎年行ってるはずなのに、毎日充実しすぎて忘れてた。
一周目の移動は大体新幹線か飛行機で、誰かしら仲間も一緒で早いし楽しかった。二周目はほぼ王都に引きこもってた。私に長距離移動は向かないわ。正直、旅情を楽しむという感性は私にはないな。
揺れる馬車の中じゃ、景色もじっくり楽しめないし、読書もデザイン画も無理。しょうがないから頭の中でデザインのイメージまとめたり、軽いエクササイズしたりして時間潰してたけど、暇だ~。ちょっと空気椅子やり過ぎたかもしれない。筋肉の付き過ぎも困るから、ほどほどにしないと。
叔父様は言葉通りたった1日で、色々と旅支度の手配を整えて、早朝から送り出してくれた。
馬車の前後には、騎馬で付き従う護衛の騎士までいる。よくあんな急で、最短でも往復10日の旅に二人も用意してくれたもんだよ。
ラングレーの本家の方にも、私が行くという連絡は行ってるはずだけど、返事は聞いてない。その前に旅立っちゃったからね。まあ、迎え入れる準備はできてなかったとしても、歓迎はしてくれるだろう。
私は身内には愛されるワガママ娘だからね!
この世界の魔物には繁殖期があって、ここしばらくが戦う上位貴族たちの繁忙期だった。大体この国中がそんな感じ。魔物の種族を問わず、どこの領地も同様みたい。
それを乗り越えれば、しばらく一息つけるようになる。
毎年その時期に、トリスタンは公爵としての最低限の仕事を行うために王都に来るわけだ。というか、大小様々な各領地から、一斉に領主たちがやってきて、短い社交シーズンに突入ってことだね。この時期だけは、王都で超大物が溢れ返る。
さながらオールスター夢の競演。スタープレーヤーたちの集結に、社交パーティーの会場前にはグルーピーが雲霞の如く群がるのも季節の風物詩。
強くて美人の名物女公爵ロクサンナには、公認のファンクラブもあって、この時期は各会場で追っかけが絶えない。
昔から派手好きな子だったからね。ここ数年はマダム・サロメのお得意さんを公言してくれてて、稼ぎ時でもある。あの子の好みはガッチリ把握してるから、もはや入れ食い状態。ちょっと実験的なデザインも、むしろ喜んで着てくれて、日々露出過多への世間のハードルを下げる手助けをしてくれる。
その上アクセサリー専門の店をオープンさせたから、ファンのプレゼント購入で大幅な売り上げも期待できる。それを身に着けたロクサンナがパーティーに出れば、宣伝効果絶大。更に稼げる好循環。まさにウハウハですな!
とにかくそういう国民のファン活動を許す緩さが、この国のいいところだよね。なにしろ注目される対象がこの国最強のメンツなんだから、何の危険も感じないだろうし。
とりわけお父様のトリスタンは、スター中のスター。
五大公爵の中でも最強の呼び声高い天才魔法騎士。
学園時代から勉強は赤点だらけでも、確かに戦闘は最強だった。大預言者の私が見ても、疑いようのない本物の天才。まあ、天才にありがちの、紙一重とも言えるんだけど。叔父様みたいに常識的に振舞える天才の方が珍しいのかもね。
そう考えると、戦闘の天才の兄と頭脳の天才の弟に挟まれてた秀才どまりのランスロットって、メンタル最強だったのかも。人格的にもの凄くできた人だった。
トリスタンが王都に滞在中は、一緒に外出すると、注目度がハンパないんだよね。基本目立つのが好きな私としても鼻高々だよ。毎年お父様とのお出かけ用の衣装を、気合入れて準備してたからね、私。大好きなお父様とのデートはこの時期一番の楽しみだった。
まあ、グラディスとしての私がトリスタンを好きでいられたのは、ジュリアス叔父様がいたからなんだろうけど。
父親としての役目は、全部叔父様がしてくれてた。だからトリスタンに対して、父親としての期待を何もせずに、強くてかっこよくて色々プレゼントくれて無責任に可愛がってくれる親戚のおじさんくらいな感じで、大好きでいられたんだろうな。子供だったら、あんな干渉皆無の無関心な父親、普通嫌いになるはずだもんね。
滅多に会えないから、いいんだよね。変人と毎日付き合うのは疲れるもん。なんとかうまいことイーニッドに押し付けられたら、家族そろって王都に戻って、叔父様の授賞式に出席といこう。受賞者の身内、しかもあのラングレー公爵と一緒となれば、これは超目立つ。帰るまでにはドレスのデザインを仕上げておかないと。
あ、そういえばまだウエディングドレスは作ったことがない。イーニッドによく似合うものも考えておこう。ちょっと気が早いかな。でも超楽しみ~。
帰りは賑やかになるように、向こうでひと頑張りしないとね。やっぱり旅はみんな一緒がいいもんね。
あと2~3時間で到着という辺りで、覚えのある空気感に、窓の外を見回した。叫び声や破壊音。割と近くで戦闘が行われてるらしい。
この辺りだと、ソレク村の丘陵かな。ここではこの時期、低レベルの魔物がわんさか出てくるから、若手の訓練にちょうどいいらしい。野営しながら、数日がかりで殲滅するという話を聞いたことがある。
予定変更、ちょっと覗きに行ってみよう。
危ないからやめろとか、邪魔をしてはいけないとか、そういうヤボを言うようなスタッフは、うちにはいない。さあ、最前線へレッツゴーだ!