滝行
ふふふふふ。今、我が野望の一つが果たされようとしている。
それは、レッツ、スイミング!!!
そう、この世界には、鍛錬とか職業で必要上泳ぐことはあっても、娯楽としての水泳がない!!
後日サロメに水着を作ってもらうとしても、人前で泳ぐことはほぼ不可能!
でも、ここには誰もいない!! いないのだ!!
私は全ての衣服を脱ぎ捨て、湧水に足先を沈めた。
冷たっ!! でも、気持ちい~~!!
水もすごく澄んでるから、全然抵抗感がない。乗馬とトレッキングの汗も流せて、気分爽快!!
一歩一歩、足を進めてみた。
おお、奥の方は、足が届かないくらい深い! そして、足の先まで見通せる透明感!
やった~~、泳げるぞお~~!!!
半世紀ぶりのガチ泳ぎだ!!!
自転車とか、一度乗れるようになれば、ブランクあっても大丈夫らしいけど、泳ぎ方も体がしっかり覚えててくれた。正確に言うと、体を動かした記憶?
バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、クロール! さあ、200メートル個人メドレーと行きましょうか!!
ああ、楽し~~~!!!
浮き輪とかシャチとか、欲しいなあ~~。
かき氷と焼きそばも! あと焼きトウモロコシ! 妄想だけでも楽しいわ~。
目いっぱい泳ぎ倒した後は、お待ちかねの修験者ごっこ!
滝つぼの方まで進んでみる。
やった! 膝下の深さ!
落差2メートル、幅50センチくらいの小さな滝で、遊ぶのにちょうどいいね。
そしてもちろん私は、一周目で滝行体験も参加済みだ! 経験者の適切な指導の下で行いましょう!!
やってみるまで堅苦しいイメージあったけど、実際にはマッサージ効果とか、美容効果とかもあるらしい。
瞑想で精神統一とか、大預言者の私には案外相性のいい修行法なのかもしれないね。
気分が乗って、本物の修験者気分だ!
胸の前で手を合わせて、子供がよくやるそれっぽいポーズを決める。ただしすっぽんぽんなので、とても人には見せられない。
精神統一とかメンタルコントロールとか集中はお手の物。
その瞬間、ビジョンが見えた。
おお、さすが滝行! 見事な効果! 素晴らしい即効性だ!!
あれは、王都の別邸にいる叔父様だね。応接室で、二人の中年男と向かい合って話し合っている。
なんかおかしい。いつもみたいにパターンに分かれない。一つのビジョンが、延々流れ続けてる。
「……」
これ、まさかリアルタイム? 予知じゃなくて、透視? なんでいきなり。
滝行!? 滝行のせい!? スゲー、滝行!!!
でも、全裸でのぞき見とか、さすがの私もちょっと受け入れがたい状況だよ? 変質者との誹りを甘んじて受けるしかないよ? も、もちろん興奮なんてしてませんよ! そんな趣味ありませんから!
……そろそろ打ち切ろうか。
なんとなく興も削がれちゃたし、今日の行水は終了だ。
トレッキングの必需品は当然持ち歩いてる。タオルで髪と体を拭き、服を着る。水筒の水を飲んでから、さあ出発。ちょっとしたおやつをつまみながら、また1時間かけて来た道を帰る。
湧水から上がっても、研ぎ澄まされた感覚がまだ引かない。能力が上がっているようにすら感じる。ちょっと集中してみたら、また叔父様が見えた。
なんだか悲しそうな表情に見えて、これ以上勝手に見ちゃいけないと強制終了。
盗撮は犯罪です。
でも応接室での叔父様はとても嬉しそうだったのに、今、一人の叔父様は、落ち込んでいる風に見えた。何があったのか気になる。帰ったらちゃんと聞いてみよう。
私にとって普段頼りになる家族が叔父様しかいないように、叔父様にも私しかいないんだ。よく考えると。
ちゃんと力になってあげないとだね。トリスタンは当てにならないから。
あれ? そもそも記憶戻ってから8ヶ月、まだ一回も会ってないぞ!!? ちょっとビックリだ。
まあ、農閑期ならぬ魔物閑期に入ったら社交シーズンに突入だから、来月にはこっちに来るはず。
久しぶりに感動の親子対面ができるね。
順調に林から出て、別荘に戻った頃には、もう夕暮れだった。
帰る準備はとっくに整えられてて、あとは私待ちだったみたい。そのまま慌ただしく馬車に乗って、王都の別邸へと出発。帰り着くのは夜になっちゃうね。
でも、あの湧水にはまた行こう。
馬車の窓から、メサイア林の方を眺めてみる。遥か北に、霊峰カッサンドラが見えた。
その瞬間、感覚が研ぎ澄まされた理由が分かった。
富士山と同じことだったんだ。
霊峰富士からの湧水は、修験者の修業の場だったり、禊に使われたりした。最初に私が湧玉池を連想したのは、間違ってなかった。
歴史書によれば300年前、大預言者デメトリアは、霊峰カッサンドラの霊力を借りて、ドラゴンを封印したという。
そしてあの湧泉は、カッサンドラからの霊力を含んだ湧き水なんだ。元は人工林だけど、何百年もかけて、あの場所に湧き出した奇跡の霊水。
このファンタジー世界でなら、とんでもないドーピングになるんじゃない? 私の水遊びはまさしく修行であり、禊だったわけだ。
この一帯に魔物が湧かないのも、霊水が土地に行き渡ってるからなのかもしれない。とすると途轍もない霊力だよ。
生水を飲む勇気がなくて口は付けなかったけど、飲んだらどうなってたんだろう。
今世で、大預言者の力をあえて活用するつもりはないけど、すごく興味深いよね。一度試してみようかな。




