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魔力復活

コミカライズ2巻

発売です! 


各購入特典等は活動報告に。よろしくお願いします!!

 サプライズの贈り物で着ていくドレスも無事決まり、卒業準備日はもう数日後に迫っている。

 なんだかんだで、学園での一年間がもうすぐ終わるのが、何とも感慨深い。ここ三十年教師として送り出す側だったけど、在校生として送り出すことになるとはね。


 でも感慨だけに浸れないのは、やっぱり心の中に不安を抱え続けてるから。


 予言された侵攻の日も、同じくもうすぐ。

 この準備期間の間に、私も何かできることはあるんじゃないだろうかと、焦る気持ちが絶えずある。

 持てる全力を注いで予知したら、未来が見えてこの不安も吹き飛ばせるんじゃないかな――そんな誘惑に駆られる度に、今はその時じゃない、って予感に止められる。

 私が信じるべき最大の武器はこのカン一つ。それが大預言者。

 だからきっと、一番いいタイミングで降ってくるまで、もどかしいけどただ待つのが最善なんだ。


 私の焦りをよそに、周りは目まぐるしい速度で、国難に向けての準備をほぼ整え終えた。

 招集がかかった各地の領主の大半が、領地から戦力を連れて王都に来ている。

 トリスタンも故郷から少数精鋭を引き連れて、明日には王都の屋敷に到着予定。


 雪中行軍での戦闘みたいに、雑魚がたくさんという状況なら王都の戦力で対応できるけど、今まで召喚された――特に後半に出てきたみたいな特殊タイプの強力な魔物になると、公爵家級の戦力でないと渡り合えない。


 だから侵攻の日を乗り切るまでは、王都は国内有数の騎士で溢れかえる光景が続く。

 雲の上の存在のスターがそこらへんにうじゃうじゃいる現在の状況に、一般庶民のテンションはもう爆上げ。王都民一同士気は高まるばかりだ。


 そんな様子をどこか遠くから眺めながら、最近は、私は無事に二年生になれるのかな、なんてプライベート方面に関しても、ちょっと不安が心をかすめている。

 メンタルはまだ揺れ動いたまま。


 私はちゃんと、グラディス・ラングレーというただの女の子の自由な生活を守ることができるんだろうか。


 勝つことも大事だけど、その後のことも考えないわけにはいかない。

 無事に生きてさえいれば、春を乗り越えた後だって私の人生は続くのだ。その時私は、どうなってるんだろう?

 仕事や学校、仲間との関わりや、将来との夢。キアランとの仲も。考え出せばきりがない。


 何も失いたくはない。でも、勝つためには、諦めなければならないものも出てくるかもしれない。


 それを考え出すと、さすがに怖い。





 ――そんな状況で、ちょっとした異変は深夜に起こった。


 パジャマ代わりのTシャツ短パンで、ベッドの上でいつもの軽いストレッチを

すませてから、灯りを落として毛布に潜り込む。


 普段から寝つきのいい私は、あっという間に夢の中。

 そこでは普通の女の子みたいに、街中をキアランとデートしている。


 明晰夢ってやつだね。

 現実のキアランがこんなにイチャイチャしてくれるわけないし。でもいい夢だから謳歌しよう。


 そういえばキアランと二人で一度もちゃんとしたデートしたことなかった。

 春が過ぎたら、堂々と二人で会えるようになりたいな。


 夢うつつにそんなことを思った直後、すぐ傍で強烈な殺気が膨れ上がった。


 誰かが動く気配に、はっと覚醒する。


 そこに信じられないものを見て、さすがに唖然と言葉を失った。


 私のベッドの隣で、見慣れたアメジストの瞳と目が合った。

 枕元の剣に手を伸ばしているのが、時代劇のお侍みたいとか、変に現実逃避した感想が浮かぶ。


 私と目が合ったキアランも、見たことがないくらいぎょっとした表情で目を見開いていた。


「グラディス!?」


 驚いたように名前を呼ばれて、ようやくこれは現実だとはっとする。


 夜着姿のキアランが、寝ている私の隣で、半身を起こした態勢で穴が開くほど私を凝視している。

 それから、ほっとしたように呟いた。


「グレイス、じゃ……ないな」


 寝ぼけた気分も一気に吹っ飛び、反射的に身を引く。


「え、ええっ、キアラン!? なんでここにいるの!?」

「――いや、それは、俺のセリフだ……」


 抜きかけていた剣を戻し、警戒態勢を解いたキアランが、珍しく動揺を押し隠せないまま言い返した。


「転移、してきたのか?」

「え?」


 言われてから、薄明かりの中で周りを見回せば、どう見ても私の寝室じゃなかった。


「――ここ、どこ?」

「俺の寝室だ。寝ていたら、突然お前が隣に現れた」

「はあっ!?」


 もう一回きょろきょろと部屋を見回してから、またキアランに向き合う。


「ええ? ここ、キアランのベッド?」

「――ああ」


 キアランが困ったように、少し距離を開けて頷く。すぐに灯りが付けられて、部屋が明るくなった。


 確かに私のお気に入りのもので囲まれた可愛い部屋と違って、キアランらしい上質で飾り気のない部屋だなと、変に納得した。


 ああ、なるほど。寝てる最中いきなり人の気配が隣に現れたら、リアルでも怪談としても怖いわ。ってか普通に刺客か何かと思っちゃうよね。ましてグレイスと同じ顔じゃ、そりゃ焦るわ。


「驚かせてゴメンね」

「――まあ、俺のところでよかった、というべきなんだろうが……」


 まあ確かに、せいぜい家族までがギリセーフで、あとは誰のとこに行ってても言い訳が大変だっただろうけど。


 なんだか知らないけどとにかくいきなりのときめき展開ですよ!?

 でも嬉し恥ずかしのはずの彼氏の初ベッドが、こんなわけの分からないシチュエーションってさすがにどうなんだ。まるで夜這いに来たみたいじゃない!?

 キアラン引いてない!?

 っていうか、原因は!?


「――とりあえず、なんでだろう?」


 思わず目の前のキアランに訊いてみる。いや、まだ動揺してるんだよ。


「いや、俺に言われても……」


 ごもっとも。ほぼもらい事故状態のキアランが、私以上に分かってるわけないよね。


 二人で顔を見合わせて首を捻る。

 それでも戸惑いながらも私を凝視していたキアランは、ふと何かに気付いたような顔で予想外のことを口にした。


「お前、魔力に溢れてないか?」

「え、ええ? ――そういえば!?」


 キアランから魔力入りの守護石を預かっている時に似た感覚がする。

 それも比じゃないレベルの万能感。体中に力が漲っている?

 なんだこれ!?


「――ああ、そうか……」


 疑問に思ったのは一瞬だけ。すぐに原因に思い当たった。


「グラディス?」

「魔力の蓄積が終わったみたい」


 問いかけるキアランに、この謎現象の理由を答える。


「なるほど。そういうことか……」


 キアランも納得の表情で呟き、更に解き解すように確認してくる。


「この三百年間、歴代預言者全ての魔力は、ドラゴンによって管理されているんだったな」


 現時点では、初代、二代目と二冊の手記で、王国の限られた人間は、かなり正確な情報を把握してる。おかげで話が早い。


 世間的には大預言者も預言者も魔力皆無ってことになってるけど、実際は他の追随を許さないほど強力で質の高い魔力を生まれ持っている。

 数回前の侵攻から、その力で次元の歪みを修正して、ゲートを完全に塞ぐ方法が確立された。


 それによって、世界に四か所あったゲートは、一か所を残して消滅した。

 そして前回――三百年前に最後の一か所となった我が国も、二代目大預言者デメトリアがゲートの完全封鎖目指して頑張った。

 けど、最後の一か所に殺到する侵入者側の猛攻に対抗するのが精いっぱいで、魔力が足りず撃退に留まった。


 三百年後の今回、同じ展開を避けるために、ドラゴンのカッサンドラはその間に生まれたすべての預言者から魔力を徴収して管理し、私の守護石に蓄積された魔力を移して、去年、私に託してくれたのだ。


 寝ている間でも肌身離さず身に着けている、守護石のペンダントを、胸元から引っ張り出した。


「凄まじい力を感じるな」


 キアランが息を呑む。この三百年間に誕生した、ほぼすべての預言者の魔力が込められている。もちろんザカライアの分も。


「うん。これで、今回はパワー不足での失敗は起らないはず」


 森林サバイバル大会の日のハプニングを思い返す。


 あそこでイレギュラーに開いた小さなゲートを塞ぐのに、初代大預言者ガラテアの守護石を使った。

 あれは今考えれば、いい予行演習になったかもしれない。


 あの再現を、今度は私自身の守護石でやることになる。

 ただし今度は王都で、遥かに大規模になる。

ビーズログ・コミックス様から、りんこ様作画のコミカライズ2巻が発売となります。

書籍版1巻分までが収録。書籍版1巻のかきおろしSS「イ―ニッド・ラングレーの心配」の4コマが本体の裏表紙に隠れてます。幼児時代のグラディスとマックスのやり取りに、今の原点が見られます。


挿絵(By みてみん)


表紙には今回登場するマックスが!

裏表紙はラングレー家の人たちがズラリ!

書き下ろしは、マックス、キアランの閑話がそれぞれ収録です。


よろしくお願いします!!

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