表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

355/378

罠、拡大

 リアルで区長という大物二人の甚だ迷惑な立ち回りに、グループのメンバーも対応に苦慮している。

 実践的な素晴らしい実習だ。これぞ生きた教育! ところでお前ら、普段からそうやって現場の人間を困らせてるだろ。なんだかすごい手慣れてるいつも通り感だ。


「お、落ち着いてくださいっ、今はそんなことをしている場合じゃ……」


 何とかなだめすかして止めようとする生徒たちの言葉に、まったく聞く耳を持たない二人の政治家。


「うるせー、黙ってろ! ん? おまえ、ナッシュ商会のとこの次男か!? お前のうちの事業、もっと手堅く稼いでんだろ!? 去年の税金ごまかしてねえか!?」

「えっ、い、いえ、そんなことは……」


 カーティスの標的が自分になり、思わぬ攻撃に慌てるライアン。大手の商家の息子なんだね。どうやら彼は八区の住民らしい。

 さすがバルフォア学園。あえて区民がいるグループにこいつらぶっこむえげつなさが素晴らしい。もちろん偶然なわけがないのだ。


 そして当然もう一方も。


「そういえばそっちのお前は、エインズワースだな!? 何番目の奴か知らんが、エインズワース家の誰だったかの巡回がたるんでると隊長と同僚と区民からの苦情が来てるぞ! 王妃の甥だからって調子乗ってんじゃねえか!? そもそも、誰が誰だか区別ができねえんだよ! お前ら多すぎだろ!?」

「ええぇ……俺に言われてもっ……」


 ハワードも、我がグループのリーダーに因縁をつけ始める。


 事実ではなくとも、自分に飛び火して焦るクライヴ。

 エインズワース家の人間が怠け者なわけがないから、これは完全な言いがかりだ。誰が誰だか分からないの意見には、激しく賛同するけども。

 親世代が六人兄妹で、その子供たちが数人ずつ。キアランとソニアもその一員。正直なとこ子供世代は、兄様三人衆とソニアの実の兄ちゃんまでで、私も手一杯だ。いや、それすら怪しいかも。


 とにかくもういろいろとグダグダだ。

 多分絡んでる方も、わけが分からなくなってるんじゃないかな? トラブルを起こすのが任務だから、支離滅裂なほど効果はでかい。


 そしてこんな惨状は、当然ここだけではないわけで。同時多発的に、問題行動が続発中だ。


 離れた場所からも、さっきからそこかしこで声にならない悲鳴が上がっている。最大限にアンテナを張り巡らしている私には、ばっちり視えてるのだ。


 おっと、向こうのグループでは、ザカライア当時の同級生だったミランダが、幼い孫ひ孫五人を連れての参戦だ。

 お前合格させる気ないだろ!? 嫌がらせにもほどがある!! でも変わってなくて嬉しいぞ!!


 ちなみにボランティア参加者には徹底した防御系の魔術がかけられてるから、安全性には問題ないように配慮されている。

 だからって幼児連れてくるなよって、あっちの班員の心の叫びが聞こえるようだけどね。


 その上にミランダ、突然発作で倒れて、派手に苦しみ出した!

 もちろん演技だ。


 それを取り囲む幼子たちがパニックを起こして、もう収拾のつかない大混乱の様相。阿鼻叫喚のいい混沌空間を作り出している!

 もちろんこっちも演技だ。


 両親は仕事や所用で不在。おばあちゃんとして、日中まとめて預かっていた子供たちと緊急避難の災難に見舞われた、という鬼設定らしい。共働き家庭とかなら普通にあり得る状況かもね。

 きっとあの幼児らの親も、進んで我が子をイベントに送り出したことだろう。十年後は我が身に降りかかるんだからね。うん、親心だ。とりあえず今は仕掛け人として、お兄さんお姉さんを思いっきり困らせてやるといい。


 薬はないのかと尋ねられてから、ようやく思い出したようにバッグを漁り出す年長の孫。

 慌てて取り出した薬瓶を、なんと地面に落っことした! 更にあろうことかよろけて踏んじゃった!? っていうか、今思いっきり踏み抜いたよね!? ふんっ、って気合がっ……。


 すかさず、「ああっ、最後の薬がああああっ!!!」「「「「うわああああんっ、おばあちゃんが死んじゃうよおぉぉぉぉぉうっ!!!!」」」」、と孫たち一斉に号泣の大合唱。

 仕込みがスゲエ!!


 さあこの絶体絶命のピンチをどう切り抜ける!? ――って、これはいやだわ。こっちの班でなくて本当によかった。


 更に別のグループに目を向けてみる。

 まだ一か所目のポイントにすら、たどり着けていない組もあるようだ。


 三十代くらいの着飾り倒した高飛車美女が、荷物が多いからお前が運べだの、ハイヒールで歩けないから何とかしろだの、寒いからお前のコートをよこせだのとごねまくっている。


 彼女の不平不満は尽きることがない。


 ワインは必需品でしょとか、ちょっとそれ晩餐用のデザートが入ってるんだから丁寧に扱ってちょうだいとか、疲れたから今日はもう終わりよとか、ヒステリックに喚き散らしているあの美女は、学園理事長のベアトリスだ。


 そして現在、あのチームの行軍の足は、化粧直しのためストップしている。トイレ休憩の例えじゃなくて、本当にメイクボックスを開いて化粧を直しているのだ。


 そんな彼女は、学園上層部であるだけでなく、エリアス国王の従妹のリアル王族。同じグループになった学生も、いつもは理知的な理事長の手に負えないワガママとヒステリーに振り回されてお手上げ状態。


 ――歴史は繰り返す。


 現役学生時代自分がやられて一番イラついた仕掛け人の姿に、体当たりでなり切っているベアトリス。

 まさにバルフォア学園理事長の鑑! 身体の張り方が徹底している! なんかすごく生き生きして見えるのはきっと気のせい!(なわけがない)


 あとそこの巡回中の騎士! ベアトリスの同級生だったニコルか。噴き出すのをこらえてないで、ちゃんと仕事に集中しろ!


 学園敷地内でエスカレートしていく恐怖の罠。


 大真面目にやるほど笑っちゃいそうだけど、笑 っ て は い け な い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] …た、確かにこれは「笑ってはいけない雪中行軍」 ですね(苦笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ