雪中行軍開始
さあ、雪中行軍開始!!
学園敷地内に散っている40程の班が、それぞれのスタート地点から一斉に歩を進め始めた。
学園内では魔術使用禁止ルールも、この時点で一斉に解除。極力実戦に近い形で進む。
リーダーのクライヴを先頭に、非戦闘員を取り囲む形で整然と隊列を組んで、雪道を進んでいく。
慣れ親しんだ学園の景色が、認識を狂わされているせいで、まるで初めての雪山に迷い込んでいるように錯覚している……らしい。みんなにとっては。
私は持てる能力全開で、全方位を完全に把握している。何か異変があれば、即座に察知できるように。
大きな事故は避けられるよう、今回は密かに自重なしだ。
今のところは問題ないけど、うっすらとした予感が徐々に強まってきている感触がある。
心構えは十分だ。来るならいつでも来い! ――てくらいなもんだけど、その前に一波乱あるだろうな。
学園からの刺客による罠が……。
出発前にみんなで相談した上で、それぞれの適正に合った役割が振られている。
私には、バトルロイヤルやサバイバルで指揮官を務めた経験から、クライヴの補佐とか参謀的な役割の案も出たけど、そこはまたサブリーダーのライアンを推薦した。ここで私がでしゃばる意味はない。
もちろん班員みんなの同意も得たよ!
で、その結果私の仕事は、目敏さと観察力を期待されて、罠の発見係。
なかなかいいとこをついてくるじゃないか。一応ジュリアス叔父様同様に天才で通ってるとはいえ、なかなか思い切った判断だ。非戦闘員の私を据えるとはね。
普通は斥候系の騎士か、いなければそれに近い能力の騎士や魔導師を配備するもんなんだけど。
だって一般人の私だと、発見はできても、対処までは難しいからね。そこは、私が発見、騎士のアンディ、魔導師のノーラが、罠の特性に応じて処理するという、一年生全員での分業制で対応することになった。
ちなみに非戦闘系だと、少ない魔力量を攻撃ではなく、一つの技能に一点特化させて磨く例がある。ノアみたいに諜報能力に極振りするのも一例だ。
私の場合は、自ら公言はしてないけど、入学以降からの戦果や行動から、探知や索敵系特化と目されているらしい。
私、魔力ゼロだからイベント関係では、預言者としての能力どころか、魔術も使ったことないんだけどね。グラディスとしては。ほぼ知識と経験だけで対応している。
それと、森林サバイバルの時の情報が、ソニアからクライヴに流れてたってのも選ばれた一因だろうな。
私の活躍を嬉々として、しかも大幅に盛って兄様たちに語る姿が目に浮かぶ。可愛いから、情報管理とか細かいことは言いませんとも。
こうなったらもう斥候の鬼の設定で行っちゃおうかな! 全力でご期待に応えてやろう!
そういうわけで、自分に与えられた役割は、サービス精神込みでガンガンこなす。森林サバイバルに引き続き、グラディス先生のトラップ講座付きだ!
数時間後には、順調に第一のチェックポイントに到着した。
ここまで一切引っかからずにクリアしてきている。なかなかのハイペース。
今回の演習、正体のバレない範囲で、一生徒として私、超頑張ってるね!
練習は本番のように、本番は練習のようにってのは、メンタルコントロールの上でも重要な課題だしね。
まあ、今回は半分本番みたいなものになるはずだけど。
ともかく現時点までは、大預言者としてのチートなんて使うことなく、あくまで知識と経験からの予測での対応で通している。まさしく歴戦の斥候レベルだ。
気になるのが、先生方かなり頑張っちゃってるね! と褒めたいレベルのトラップの数々。
というか、今年の森林サバイバル辺りから、明らかにトラップの難易度が大幅に跳ね上がってるんだけど。
イベントに臨むにあたり、事前の研究で、ここ数十年の傾向と対策はばっちりやっている。で、比較したら、学園生のレベルで対応できるのか、正直怪しいくらいになってる。
どこまで相手の裏をかくか、底意地悪く徹底できるかが勝負でしょーが! と、ザカライア時代に散々仕込んだ成果が見えるのは嬉しくもあるけど……今年から突然、仕掛けの悪質さが割り増しになったのって、これ絶対私対策だよね?
なんか、絶対私を引っかけてやるんだという、一部の元教え子・同僚たちの並々ならぬ意気込みが駄々洩れてる気がするんだけど。
指導者への恩返しに、「これが今の自分の全力です!」って実力を発揮して見せるのはよくある話だけどさあ、これはどうなのよ。該当するの? むしろ意趣返しだよねえ? ただでさえ敵襲が予言されてるこのイベントで、それはそれこれはこれとばかりの全力投球。それでこそバルフォア教師魂だ!
『ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!?』
時々すごい悲鳴が遠くから聞こえる。仕掛け人はしてやったりだろうな。楽しそう。
とんでもない規模のバルフォア生ホイホイが、学園全域に仕掛けられている。
ああ、もちろん全部食い破ってやるさ!
昔は、悪ノリした私がどんどん悪質さをインフレさせちゃってたから、競うように罠のレベルが上がって、基準がいくらかおかしくなってる部分もあるだろうなあ。私が学園に舞い戻ったせいで、他の生徒にも実害が及んでちょっぴり申し訳ない。
でもおかげで生徒の対処能力も上がるし、引っかからなくなったらまた先生も更に頑張るだろうし、いい循環できてるよね! ――いや、悪循環……?
時を経て、周りを巻き込んで今まさに自分に因果が跳ね返ってきちゃってる言い訳を内心でしながら、着実に任務を遂行していった。
ただ、完全に問題がなかったかというと、ちょっと首を捻りたいとこ。
ちらりと、何度目かの視線をさりげなく向ける。
同行職員のデリンジャー先生の目が、時折気になっていた。ティナさんの隠れた熱視線も大概アレなんだけど。
最近――特に、心停止したモードを蘇生させた件の後くらいから、妙に観察されている気配をひしひしと感じるのだ。
この人は、ザカライアもかつて引っかかった魔力測定――通称子供狩りによって、平民から才能を見出されて騎士団の一部隊の隊長にまで上り詰めた叩き上げ。引退後、第二の人生に座学での教師を選ぶくらいだし、ただの脳筋とは違うんだよね。
ものすごく冷静に状況を見極めるタイプなだけに、正直、私はかなり不審に思われているっぽい。
ザカライア時代の面識がない人だから、そうそう正体までたどり着けるものではないだろうけど、ちょっとやりにくくはあるかなあ。
校長がこっちサイドとはいえ、権力がどこまで通用するか、心配なとこではある。
ただ、怪我で引退したとはいっても、魔物がらみで不測の事態が起こったら、的確に対応できる百戦錬磨の騎士には違いないんだよね。だからこその人選だろうし。
そこかしこで警備に当たってる騎士、魔導師たちとは別に、突発的な事態で最も頼りになるのは間違いない。発展途上中の周りの青二才とはやっぱり安定感が違う。
まあ、今はいい面だけを期待しておこう。問題が起こったらその時はその時だ。
と、多少の不安は抱えつつも、行軍自体は速やかに進んでいく。
だけどいつまでもとんとん拍子に進むかといえば、そうは問屋が卸さないわけで。
更に二時間ほどが経ち、このイベント最大の罠が、蠢き始めた。




