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冬の一大イベント、雪中行軍の日がやってきた!
いろいろな不安要素はあっても、やっぱりイベントごとはテンションが上がるよね。
寒いけど快晴で、雪も程よく積もった行軍日和だ。
行軍日和ってなんだよとか言ってはいけない。吹雪いても容赦なく断行するし、雪不足の年なんて、魔導師団が張り切って積雪環境作り出すから、やりすぎで余計に雪深くなったりするのだ。今年のコンディションはベストといっていい。
ちなみに雪中行軍といっても本当の雪山には登らない。
いくらなんでもそこまで本格的にやったら、確実に死人が出るわ。毎年体育で遭難者を出すだけでもどうかしてるけど。
体育の演習で何度もやってきた通り、行軍ルートは裏山も含めた学園敷地内全域になる。
「さすがに、正門から警備が厳重だな」
イベント当日であることを差し引いても、登校前から普段とは違う物々しさ。足首まで降り積もった雪を踏みしめながら、徒歩で正門を潜り抜けたマックスが、ヒソヒソと呟く。
正門前は騎士でがっちり固められ、魔道具で身元や確認事項の真偽判定をする魔導師が、一人ひとりをチェックしている。
イベントの中でも特に雪中行軍は、生徒以外の人の出入りが多いから、毎年欠かせない手順だ。けれど明らかに例年以上の厳しい警戒に、不自然さは隠せない。グレイス云々は、職員や警備関係者以外は当然極秘扱いだ。
入ってすぐのところの集会用テントで、受付を済ませる。学生はそれぞれ自分宛ての指令書と、腕輪を受け取る。
監視の下、その場で腕輪の装着。今回のイベントでは、攻撃防御の結界ではなく、認識阻害の魔術が全生徒にかけられる。
普段は魔導師がその場で術を施していくものだけど、森林サバイバルの時のトロイの例があったから、今回は厳重管理された魔道具で代用されることになった。
これを身に着けている間は、距離感や方向感覚がかなり狂わされ、行軍には相当の足かせを負うようになっているのだ。
勝手に外せば、再装着はできないという、まるで遊園地とかの使い捨てリストバンド仕様。イベント終了後の確認で手首にはまってなかったら、ルール違反で問答無用の失格となる。
次いで、マックスが自分の指令書を確認してから、私に尋ねる。
「21番だった。グラディスは?」
「8番だって」
手紙に記された番号と、その番号で示された集合場所の地図を、お互いに見せ合った。
マックスが残念そうに嘆息する。
「やっぱり同じグループにはならなかったな」
「まあ、極力仲間同士は避ける方向で決められるからね」
別グループになっちゃったけど、その辺は予定通りだから驚きもない。
「じゃあ、私あっちだから」
「ああ、あんまり無理するなよ」
「ふふ。できたらね」
笑ってごまかす。どうせ今回は、無難には終わらない。グレイスの仕掛もあるだろうし。
「抑える気ねえじゃねえか」
その通り。今日は犠牲者ゼロを目指して本気で行くからね。
心配そうにぶつぶつ言いながら去っていくマックスと、じゃあねと気軽に別れて、指令された集合場所へと向かった。
学園側は、今日は魔法陣の召喚がある前提で、警備態勢を敷いている。
ちょっと敷地内を歩いてみたただけでも、騎士団や魔導師団の面々が、目の届かない場所などないくらいの勢いで各所に配備されている。
国と学園の本気を見た! って感じだ。
どうしてここまでして、たかが学園の行事なんてやる必要があるのかといえば、それはこの雪中行軍だけ、他のイベントと趣旨が異なっていることが大きい。
各種学園イベントの中で、学生支持率がぶっちぎり最下位――それが雪中行軍。
他のイベントの教育課題が『攻』なら、これは『守』が目的のもの。これまでのような、お祭り要素は皆無だ。
採点者である職員が常に同行して、行動に対して減点していく方式で、順位すら付かない。一定のラインで、クリアしたかしないかだけの評価。張り合いはないくせに、不合格だと地獄の追加実習が待ってるから、うっかり手も抜けない。
ルールは、数あるイベントの中で最も単純。
学園敷地内全域――主に裏山近辺を、一晩中トラブルを乗り越えながら歩き回るオリエンテーションといったとこ。
ただし学生には認識阻害もかけられ、慣れ親しんだ裏山は、ちょっとした雪山と錯覚させられた状態で、遭難気分を味わわされる。
一周目なら学校で必ずあった、火事や地震に対する避難訓練みたいなものだね。
つまりは魔物の氾濫が予言されたこのご時世、今やらずにいつやるのだというくらいタイムリーなイベントなわけだ。
まあ、実質はレンジャー部隊でやるレベルのガチの耐久訓練といったほうがいいかもしれない。一泊二日の日程で、国と学園挙げて、超本気でやるのだ。
それだけに、安全性は確保されていると理解はしていても、実際にやるとかなりキツイのだ。可能な限りリアルに近付けないと訓練にはならないと、学園側は病的なくらいいやらしくねちっこく、生徒を追い込にみかかってくるから。それも、肉体より精神を確実にガッツリ削ってくるやつを。
ザカライア時代は――ってまあ、例によってってやつで。
生徒からは嫌がられてることからもお察しの通り、仕掛ける側としては、このイベントが一番面白かったりする。
私は心の中で密かに、『笑ってはいけない雪中行軍』とか呼んでいた。学生の不人気不動のナンバーワンは伊達じゃないのだ。
「おはよう、グラディス」
途中で、横から歩いてきたノアに声をかけられた。
「おはよう。ノアはこの辺がスタートなの?」
「違うよ。スタートいっぱいまで偵察中」
さすが偵察の鬼。当然のように答える。
「これから死ぬほど歩き回るってのに、見上げた根性だね」
「そりゃ、事前の対策で全然違うもんね。特にこのイベントは、どの部外者がグループにいるかで、全然違ってくるから。特に近寄っちゃいけないグループはチェックしとかないとね」
意味ありげな笑みを浮かべる。初めて臨む一年生なのに、よく分かってるね。
そうなのだ。このイベントの核は、外部からの参加者にこそある。
「グラディスは、8番だったよね。なかなか無難なメンバーで羨ましいよ。さっき通りかかったら、もうみんな集まってたよ」
「だから、なんで事前に知ってるの」
普通は当日の朝、指令書を渡されて初めて知らされる情報なんだけど。私はまだ誰がいるかすら知らないっての。
「企業秘密」
にやりと笑うノア。
学園は情報管理と警備体制を、一度本気で見直したほうがいいと思う。コレを阻めるかは分からないけど。
犯人は内部にいるぞ! しかもあと二年も!




