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ティナ(学園職員)・2

 そんな日常の中で、大事件が起こった。


 私たち職員は天候の具合を予測し、雪中行軍演習へのスケジュール変更へ向けて、昨日の夜から下準備を進めておいた。

 そして当日、天候に恵まれて(この学園的には大雪は恵まれてよ)計画通りに変更された。その準備に追われていた真っ最中に起こった緊急事態。


 庶民の密かな期待の星、天才的問題児のベルタがやらかした!


 一報と同時に、慌ただしくなる職員室。ファーガス校長は即座に指示を出し、職員が一斉に現場に向かって飛び出していく。室内は校長と私だけになった。


 様々な情報が入ってくる職員室で校長は即座に判断、命令を下して問題を捌いていくけれど、本来現場で監督するべきモード副校長の姿が確認できない。


 焦っていたところで、思いがけない人物が現れた。


 私の女神、グラディス様よ!! ついでにユーカとクローディアが従者のごとく控えている。


 内心黄色い声を上げたいのを必死で堪えたけど、ガン見しちゃったのは仕方ないわ。

 顔ちっちゃい! 手足長い! お肌キレー! 同じ人類とは思えない! 目の保養だわ~、グラディスお姉さまっ! 生徒共通の無骨な学園装備を、どうしてそんなに華麗に着こなせるの!? 同じ服を着てても、その他の有象m……げふんっ、その他の生徒たちとは優雅さの次元が違うわ! どう見ても侍女と護衛を引き連れた女王様。私も付き従いたい!


 でも、何か違和感が……。いつもの余裕がない? なんだか切羽詰まってる雰囲気だわ。張り詰めてる感じも凛々しくて素敵だけど、この騒動中に何かこれ以上大変なことでもあったのかしら?


 ――そして直後に、信じられないものを見ることになる。


 学生には近寄りがたいはずの職員室を、我が庭のように突き進み、本来生徒には用のない給湯室へと迷いなく入っていく。

 そこには――。


 副校長、倒れてる!! しかも確認したクローディアが、「息も脈もない」って!?


 思いがけない事態に動揺する私たちの中で、グラディス様だけは冷静だった。

 同行したユーカに即座に命令を下すと、二人で出し抜けに、死者を弄ぶかのようにしか見えない行為を開始してしまった。


 全体重をかける勢いで、ひたすら副校長の胸を押し続けるユーカ。

 怖い怖いっ! そんな鬼気迫る様子で、一体何を一心不乱にやっているの? 学園(うち)はもちろん優秀なカウンセラーも完備よ! 手続きは任せて!


 本来は職員として、すぐに馬鹿な真似は制止するところだけれど、グラディス様があれほど真剣に取り組んでいることを止めるなんてとてもできないわ。

 見れば、なぜか校長もその行為を黙って見守っている。だったら私の出る幕なんてないってことでオッケーよね。


 そしてグラディス様、今度はクローディアに何か別の命令を出したみたい。言葉はなかったけど、クローディアの額に優美な指を触れた直後、驚いて反論されていた。グラディス様に逆らうなんて、なんて身の程知らずな! まだお仕置きが足りないようね!?

 それはともかく、一言もないのに通じたそのやり取りから察するに、あれは何か複雑な意味のあるジェスチャーなのかしら?

 たったあれだけの仕草で、戸惑うクローディアに、迷わず実行を命じる校長。実はこの学園では知っていて当然くらいの、伝統あるサインなのかもしれないわ。三年近く勤めて、初めて見たけれど。


 一体どんな命令を出したのかドキドキ見守っていたら、クローディアはいきなり、息のない副校長を電撃攻撃!!

 えっ、いや、ちょっとっ、えええええっっ~~~!?


 あまりの出来事に唖然としていたら、更に信じ難い出来事が起こった。

 なんと、副校長が息を吹き返したの!!? どうして!?

 良く分からないけど女神様が奇跡を起こされたわ!!! ああ、グラディスお姉様、最高!! マジ神!!


 ひとしきりの興奮を脳内だけで処理してから、お供のことも思い出す。そうそう、あなたも一番疲れたでしょうに、よく頑張ったわね――と、肩で息をつくユーカを心の中で讃えたのも束の間。

 彼女は素晴らしい笑顔でこう言った。


「グラディス、ありがとう。大好きです」


 ああ、この小娘えっ! 私がこの熱い想いを必死で隠しているというのに!! 今ばかりは、職員の立場が恨めしいわ!


 お手柄なのはえらいけど、それとこれとは別なのよ。

 そんな複雑な心境の私は、密かに心の中で呪詛を消化してからしばらくして、またもや更にとんでもない光景を目撃することになる。


 とにかく目の前でとんでもないことが起こったのは間違いない。

 抑えがたい感動を触れ回りたいのに、校長はこのとんでもない出来事の口外を、この場で禁止してしまった。

 その瞬間はちょっと不満に感じたけど、よく考えたら正しいのかもしれない。もしこれが広まったら、後々グラディス様を煩わせることになってしまうわね。ユーカが異世界の技術だなんて言っていたけど、どう見たってグラディス様の指揮監督じゃない。理屈は分からないけど。

 これ以上面倒を増やして忙しくさせて、女神様の創作活動を邪魔するわけにはいかないわ。校長、ナイス判断!


 自分を納得させ、その後数時間、事後処理に忙しく動いていたところで、私に事の真相を訊き出そうとする人物が現れた。


「うちのクラスのグラディスとユーカが、モード副校長の救護に関わったと聞いたのだが?」


 グラディス様の担任のデリンジャー先生だ。もちろん校長の指示通り、返答は当たり障りのない内容に留めておいた。


「ええ、用事で職員室に来た時に、奥で倒れていた副校長を見つけて、人を呼んだり、声をかけ続けたり介抱を手伝ってくれました」


 これが表向きに伝える内容になる。グラディス様の担任だなんて、妬ましすぎるわ、この男! なんて嫉妬もちょっと入っちゃったせいで、つれない対応なのはご愛敬。

 それを聞いて、先生は私の反応をうかがうように再度尋ねた。


「校長に口外を禁じられるようなことが起こったということか?」

「どういうことでしょうか?」


 意味が分からないとばかりにシラを切る。業務命令はきっちりこなしますよ。無能はこの学園には雇われませんから。ましてや私のミューズのためならば!


 でも、やっぱり担任だけあって、何かしらグラディス様に漂う奇妙な違和感を感じ取っているようね。それとも元騎士団中隊長さんの、戦闘で培った第六感とかかしら? もちろん私はしらばっくれ通しましたとも。


 今日の学園の予定としては多少ごたついたものの、計画通りに演習を行うことができた。この学園、ハード過ぎるわ! 頭おかしいんじゃない!? こうやってタフ過ぎる人材が量産されていくのね!


 そして放課後の今現在、グラディス様は校長室に呼び出されている。

 それにしても校長め、職権乱用なんじゃないの!? ああ、密室に二人っきりだなんて、羨ましすぎる! どんな話をしているのかしら?


 と、ここで私も職権乱用。お客様ならともかく、相手が呼び出された生徒だったら途中での入室なんてよくあること。無理やり用事を作り、書類を抱えて突入よ!


「失礼します」


 返事を待って、ドキドキしながら開けた扉の向こうには、やっぱり神々しいグラディス様が! あの澄んだ青い瞳が私を見ているわ! 顔、赤くなってないかしら!?


 ああ、でも残念ながら、席を立って退室するところみたい。あわよくば一緒に話を聞いていたかった。


 そしてほんの一瞬だけど、私は確かに見た! 入室直後、いつもの鉄面皮に戻る前の校長の顔を!


 ああ、いったい何があったの!? あの校長にまであんな表情をさせてしまうなんて、やっぱりグラディス様は特別な方だわ!


 いつかあなたの謎に迫りたい。

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