二人の親友
決勝戦は、想像以上にすっごく盛り上がった。
前評判通り、イングラム前公爵対アヴァロン次期公爵。
本来公爵クラスは、領地を守る戦闘に全力を注ぐから、武闘会とかのお遊びには出てこない。それに匹敵する実力者同士の対戦となれば、滅多に見られない好カードだよ!?
老練な戦闘技術を惜しみなく駆使するギディオンと、若さ漲るパワーで勢いに乗って押しまくるルーファス。
おおおおっ、どっちもすごいぞ!! これは燃える!! 私も対人格闘の観戦は、一周目の時から大好きだからね。しかも魔法ありで、とにかくド派手!! これは血が騒ぎますよお!
実践を重ねてきた者同士の戦闘って、やっぱり桁外れだわ。
親友対教え子の戦いってのも、興奮するよね。でも、黄色い悲鳴はほぼ100パーセント、ルーファスが独占してるから、私くらいはおじい様を応援してやろう。
私とノアはお喋りしながら、観戦に興じる。
「すごい歓声。耳が痛いくらい」
「さすがにルーファス様は女性に大人気だよね。ご本人は強さを評価してほしいだろうけど。キアランの目標は、ルーファス様みたいに強くなることなんだよ」
「そこは王妃様譲りなんだ」
「だね。将来の王様があそこまで強くなる必要はないんだけど」
「生まれた時から道が決められてるんだから、子供の間くらい好きなことしたらいいんじゃない?」
教師時代から、レールに乗るのが当然の子供たちをたくさん見てきた。大体私自身、最大強固なレールに乗らされてたし。余裕があるうちに、世界は広げといた方がいいよね。
私のお気楽な意見に、ノアが笑う。
「君は目いっぱい好きなことだけしてそうだよね」
「大人になってもそうなら最高なんだけどなあ」
「ダメな大人にならないでね……」
生温い目を向けてくる11歳の友人……。
いやいや、何を言っとるんだ。こう見えて教師生活30年だぞ! ダメな大人だったかどうかは評価が割れるところだけども!
「あ、決着がつくね」
結果は、ギディオンの貫録勝ち。負けても、ルーファスは爽やかな顔で、握手に応じていた。あの子は昔からいい子だったからねえ。
あ、ルーファスがこっち向いた。目が合ったよ。ギディオンの奴、あれが俺の孫だとかなんとか言ってるな。見合いとか進めてるんじゃないだろうな。よし、頑張れ!
でもルーファスと言って思い出すのは、トロイなんだよねえ。あれから11年。トロイも17歳のはずだよね。あの後どうなったんだろう。あまり前世のことに関わるつもりはないんだけど、それだけは知りたいなあ。ちゃんとこの世界に順応できてるんだろうか。
調べようにも方法がないんだよね。人知れずにってのが、厳しい。ああ、今の私って、すごい無力だなあ。
多分バルフォア学生だろうから、週一回の特別授業を申し込んで、情報を集める手もあるんだろうけど、あそこ知り合いだらけだし、すっごい藪蛇になりそう。
そもそも私、特別授業なんか申し込むキャラじゃないし、確実に悪目立ちする。
そういう目立ち方は違うんだよねえ。
優勝したぞアピールをしてるおじい様に、おざなりに手を振り返しながらしばらく考え込み、これも保留とした。
前世を持ち込むのは、基本パスでいいよね。私、11歳のただの女の子だし。大体前世の責任を持つだなんて、無茶な話だよ。接触の機会があったら、できることくらいはするけど、無理して近付かなきゃいけないってものじゃない。
うん。そのスタンスで行こう。学生とはいえ彼ももう立派な成人男性だ。
「休憩挟んで、次は未成年の部だね。もう帰るかもしれないから、僕一度おじい様と合流してくるね」
「分かった。じゃあ、とりあえずここでサヨナラってことで。またね」
ノアを見送ってから、私も席を立った。
闘技場の方に目を向けると、場外負けありの未成年仕様に変更されてるとこだった。
普通、子供の試合を先にやるもんだろうけど、この国はそういうとこ甘くないんだよねえ。先に試合やったら、疲れて大人の試合が見れなくて、貴重な学習の機会を失うという理屈から、たとえ盛り上がりにはかけようとも先に大人のガチ対戦見せるんだ。まあ、確かにすごい試合だったけど。
さて、私もギディオンの健闘を讃えにでも行こうかな。
一旦屋敷に引っ込んだみたいだから、プライベートエリアの辺り探せばいるかな。
警備たちに挨拶しながら、屋敷に入りこんで適当に歩き回ってみる。
おじい様の屋敷とは言っても、来たのは初めてなんだよね。イングラム家の王都別邸って。特に用事もないし、いつも奴が私に会いに来るからなあ。
まあ、貴族の屋敷なんて大体似たようなもんでしょ。
すると、ちょうど角を曲がったところで、ギディオンとアイザックが部屋に入って扉を閉めるところが見えた。
「あれ? アイザック屋敷にいたのか。ノア、今頃探し回ってるね」
さて、どうしよう。今のとこ、無理に会いに行くつもりもないんだけど。でも、あの二人がどんな話をするのかは興味あるなあ。
よし、こっそりのぞきに行ってやろう。