収束
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遠くから足音が聞こえる。ティナさんの連絡で人が集まるところだ。
その前に、ファーガスはここにいる全員をぐるりと一瞥して、冷淡な口調で指令を下した。
「これ以上の混乱を避けるため、ここであったことの詳細は他言無用とします。君たちは倒れていた副校長を介抱した。それだけです」
「承知しました」
ファーガス、ナイス! 内心で称えながら、率先して承諾する。
死者を蘇らせた的な噂とか流れて、いいことなんてまずない。
特にユーカにとっては、トラブルの芽にしかならない。異世界人は死者を生き返らせられるなんて誤解が広がったら困るからね。私のことは置いといても、教育者として正しい判断だ。
ユーカもそこは理解してるみたいだけど、ティナさんとクローディアは、了承しつつもどこか腑に落ちなそうだった。
うん、分かるよ。私だって惜しいと思う。ホントなら一番の功労者として、ユーカは周りから褒め称えられてもいい活躍をしたのに。もちろんクローディア自身も。
「今は、時期じゃないってことだよ。きっと、報われる時はいずれ来るから」
たしなめたところで、複数の職員が扉から駆け込んできた。
手早く処置されたモードが、運び出されていくのを見送り、私たちも職員室を後にするべく、校長への挨拶をする。
「それでは私たちはこれで失礼いたします」
「尽力に感謝します。成績の件は別問題としても、学業実績の一つには加えられるでしょう」
再び人の波が引いた空間で、ファーガスが冷静に労いの言葉をかけてきた。そして更に続ける。
「それと、国への報告もあります。公表の可否の判断は上に任せるとしても、先程の件について、後で詳しい話を聞きたいのですが?」
「あ、じゃあ私が!」
ユーカが、ビシッと手を上げる。
「あれは私の故郷で行われる応急処置の方法なんです。私がグラディスにも教えました」
私が悪目立ちしないように、矢面に立ってくれるつもりなんだ。預言者の正体を隠していることを察しているから。
本当にありがたい友達だなあ。――まあ、思いっきり私が仕切ってた場面を終始目撃されてた点は置いといて。
でも、ファーガスのご指名は私なんだよね。さっきから意味ありげな視線がビシバシ突き刺さってきてるんだよ。
分かってるって、もう!
ちょうどいい、私もファーガスに用があるからね。
「いいよ、ユーカ。私が説明しておく。一人で大丈夫だから」
「え、本当ですか? ……それじゃあ、お願いしちゃっていいですか?」
私が気軽に名乗り出たことで問題なさそうだと判断したようで、ユーカはあからさまにほっとした。
実はこの子にとっても、ファーガスの外面は近寄りがたく感じるらしい。そりゃ、鉄仮面校長とサシで対話とか、普通の学生は出来るだけ遠慮したいよね。なのに庇ってくれてありがとね。
それにしても気弱な青二才が立派になったもんだなあ、ファーガス。
「ではグラディスは、放課後校長室へ」
「分かりました」
必要事項だけで手短に切り上げ、ファーガスは校長としての職務に戻る。本来は大騒動の真っ最中だった。私たち三人も、一礼して退室した。
肩から力がどっと抜けた。張り詰めていた神経が緩む。
やっと重い責任から解放された。
こればかりは、成功すると分かっていても生きた心地がしなかった。
何か理由を付けて、モードには事前に医務室にいてもらうとか、外の大騒動の規模自体をもう少し抑えめにして刺激を減らすとか、もういっそ自分の正体を明かしてでも本人に注意喚起をしておくとか、とにかく思いつく限り考えた末での苦渋の決断だった。
スタート地点のベルタを転ばせないという選択を蹴った時点で、覚悟はしていたことだけど。もしその選択をしていたら、たったそれだけで、今日は普通の一日になるはずだった。
騒ぎが起こらなければ、職員室が空になることはなく、それどころか平常心で過ごしていたならモードが発作を起こさなかった可能性も高い。
ただそうすると、いずれ別のタイミングで倒れたモードを完璧な布陣と環境で助けられただろうかという疑問が残る。私の関与できない場所で事が起こっていたら、何の対処もなされないまま臨終として諦められてしまったかもしれない。
本当に運命は複雑に絡み合っていて、今回ばかりは目先の箇所だけを見て修正するわけにはいかなかった。
多分この件はここで終わりじゃない。更にまた、次の何かに繋がっていくのだ。はっきりとはいまだ見えなくとも、ここの時点で進む分岐を変えることを、私の予感は絶対的に拒絶していた。
たとえ避けることができる危ない橋だと分かっていても、ここは乗り越える必要がある局面だと。
とにかく、ひとまずは無事に大一番を乗り越えられた。一息つきたいとこだけど、まだ問題が残ってるんだよね。
職員室を出て、三人になったところで、クローディアから漂ってくる硬質な空気を感じた。
今回は最善の結果を出すこと重視の人選だったから、秘密保持の観点はあえて無視していた。ごまかせる範囲を大分逸脱して突っ走った自覚はある。
クローディアとティナさん、少なくとも私と関わりの薄い人が二人もいて、ファーガスが緘口令を敷いてはくれたけど、疑念を持たれたのは確実だ。
いくらユーカが、自分が教えた異世界流の蘇生法だとフォローしてくれたって、やっぱりあまりに不自然だったもんなあ。
自分のイメージを相手の脳内に投影する魔術なんて、この国の誰も知らない。それだけでも、普通じゃない上、そもそも始めから事態を想定していたかのような行動もおかしい。
すでに何かしらの結論に、思い至っているかもしれない。
さて、口止めはどうしようかと視線を向けたところで、その必要はないことが一目で分かった。
私に注がれる眼差しに、もう警戒心はうかがえなかった。そこにあったのは、開き直ったようにスッキリとした顔つき。
「私は人の秘密を詮索するような低俗な人間ではありません。まして人を助けた上でのことなら尚更です」
きりっと宣言する。そうだ、この子はこういう子だった。融通は利かないけど、納得すれば愚直なくらいに一直線。
「間違いなく心臓が止まっていた人間が、目の前で息を吹き返したのです。そして私はそれに手を貸すことができた。心の底から、感動しています」
興奮を隠すことなく、率直な気持ちを伝えてくる。そして、ピシッと態度を改めて、私に向き直った。
「父と兄、先生方が、あなたに一目置く理由が理解できました」
そこで話を終えたところで、どことなく怖々といった表情をうっすらと浮かべて確認を取ってきた。
「――ところでもう、これで終わりですよね?」
最初にビビらせちゃった分は、まだしばらくチャラにならないかなあと内心で苦笑しながら、笑顔で頷いた。
「うん、ありがとう。今日は助かった」
「いえ、こちらこそ、いろいろと学ばせていただきました。では、これで失礼します」
私とユーカに一礼して、クローディアは踵を返し歩いて行った。




