表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

325/378

うっかり

「大預言者は前世から逃げる 2」

本日発売です!

コミカライズの予告編第0話もコミックウォーカー様で公開中。

よろしくおねがいしまあああすっ!!!

「あら?」


 おしゃべりしながら廊下の合流地点に達したところで、別の通路から歩いてきたクローディアと目が合った。この前のケンカ以来だ。


「うっ」


 立ち止まると同時に、かすかにひきつった悲鳴が聞こえる。コラコラ、そこまで露骨に邪険にすることないでしょ。


 だけどぎょっと固まった未来の後輩を見た瞬間、かちりとパズルがハマったのを感じた。

 ああ、この子もピースの一つなんだ。


 あるいは、前回の出会いすら、この未来へと――そしてさらに先へと繋がっていく一連の流れの、一段階目だったのかもしれない。だってあの衝突がなかったら、この子が今ここにいることはなかった。ペナルティ授業出席のため、特別授業でない今日もイレギュラーで登校していたのだ。


 これだから、不用意に未来をいじるのは怖いともいえる。ほんの少し手を加えたことが、後で大きな変化をもたらすことがある。いい方に転がるばかりとは限らないのだから、この先は常に慎重でないといけない。


 内心ではヒヤリとする思いを押し隠して、不敵な笑みでクローディアに手を振る。


「おはよう、クローディア。()()()はしっかり進んでるかしら?」


 何事もなかったかのような気楽さで歩み寄る。クローディアの複雑な表情が面白い。


「どなたかの、おかげさまで……」


 ぎくしゃくとした返答は、一応嫌みのつもりかな? 効果ゼロだけどね!


 今度は何を企んでるの!? ――なんて心の悲鳴が聞こえてくるようだね。そんなに警戒しなくったって、もう陥れたりしませんよ。企みがないとは言わないけどね。


 見慣れない美少女にきょとんとしていたユーカが、ぽんと手を叩く。


「ああ、グラディスにケンカ売ってこっぴどく返り討ちにあった人ですね! 試合に勝って勝負に大惨敗的な!」


 あっけらかんと言い切られ、クローディアがいっそう、何とも言えない渋い顔をした。

 反応からしてクローディア的には、ユーカは尊敬対象のようだな。まあ、建国祭での活躍を目の当たりにしてただろうしね。


「な、何か、ご用ですか?」


 苦虫を嚙み潰したような顔ながら、一応型通りの対応はしてくる。早く離れたいと心の声がありありと聞こえてくるけど、何とか先輩への体裁を保ってるのは上出来だね。礼儀作法の授業で、こってり絞られてるらしい。別に堅苦しくする必要はないんだけどね。

 でも言葉遣いはともかく、その表情じゃ合格点はあげられないぞ。


「ふふふ。可愛い未来の後輩と、交流を深めたいと思ってるだけよ?」


 満面の笑顔で答える。うん。多分これが余計マズイんだろうなあ。我ながら胡散臭さが限界突破してるわ。クローディアの警戒心もうなぎ上りですよ。

 でもこの子もきっちり確保だ。


「今日出席予定だった授業が中止になったから、予行演習のお手伝いを頼まれたんでしょ? ちょうどいいわ。一緒にいらっしゃい」

「えっ!?」


 有無を言わさず手を引いて歩き出す。


「いや、でもっ……」

「わあ、いいですね、初めての後輩です! 私ユーカです。仲良くしてくださいね!」


 ナイスアシスト! 私の意を汲み、すかさず反対側を陣取るユーカ。


 非力な私とユーカに両脇をがっちり固められ、クローディアはなすすべなくぐいぐい引きずられるようにして連行される。

 無抵抗どころか、ほぼ彫像のように固まってしまっているのは、またおかしな小細工で、加害者にされることを心配してるせいか。指一本動かすのも怖いくらいトラウマになっちゃってね? よっぽど懲りたんだな。……だからもうやりませんよ!


 基本的に根がクソ真面目なクローディアは、唯一自由に動かせる口で慌てて拒否を示した。


「ちょ、っちょっと待ってくださいっ! 私は第二用具室で、当番の人の手伝いをするようにと言われていて……っ」

「だいじょーぶだいじょーぶ」


 どうせすぐそれどころじゃなくなる。


「ちょうどいいじゃないですか! 私たちもちょうどそこに行くところで……あれ?」


 クローディアの言葉に、ユーカが首を捻りながら、私を見る。気付いたようだね。


「当番? 今日うちのクラスの日直って……」

「うん、ベルタ。ホームルームの前から、準備に駆り出されていなかったね」

「それは色々と楽しみですね!!」


 ユーカの目が、なんかあからさまに輝いた。

 こらこら、何を期待してんだ。不謹慎だぞ! まあ、私も結果を知らなかったら、一緒に楽しんでるとこだったんだけどね。


「な、何ですか……? そのベルタという方の手伝いをすればいいんですか? 何か問題でも?」


 私とユーカの反応に、クローディアが恐る恐る確認する。


「ベルタはすごい子ですよ! 奇跡を巻き起こす人です!」


 ユーカの自信満々の解説に、私も思わず苦笑い。まあ、確かにそうなんだけどね。その評価は多分ベルタも不本意だろう。そもそも今日のはただの笑い事では済まないんだ。


 校舎から外に出て、目的地へと向かいながら、その時が来るのを密かに待つ。

 五十メートルくらい先に用具室が見えたところで、足を止めて出入り口を見上げた。


 第二倉庫は主に雪中行軍用の用具が揃えられてるから、積雪環境下でも利用しやすいように、他の施設より少し高い場所に建てられている。準備に追われる先生や当番の生徒が、忙しなくその段差を行き来していた。


 その中の一人に、目を止める。

 

 私の待ち人ベルタが、用具を山盛りに積んだ台車を、たどたどしく押しながら歩く姿があった。相変わらずぼんやりしていて、見るからに危なっかしい。


 そして見事に、すぐ脇にあるスロープに気付かず、来た時と同じコース、つまりは階段へと足を踏み出した。


 ちょっとどこから突っ込めばいいの!? 何故に台車を押して階段を突き進む!!? 


「ええっ!!? ちょっ……!!」


 いくら何でもなベルタの行動に、さすがにワクワクも吹き飛んだユーカが慌てて悲鳴を上げる。


「ああっ!!」


 体重の軽いベルタは、階段を滑落する台車の勢いに引きずられ、振り回されるように宙を舞った。


 何でそうなる!? そこそこ予知していたとはいえ、あまりの謎現象に、内心突っ込まずにはいられない。

 いつもの何もないところでコケる程度だったらスルーだけど、これを見過ごすほど私も鬼じゃない。まずは早速用意した、優秀な騎士の出番だ。


 期待通り、珍事を目にした瞬間、間髪おかずに飛び出したクローディアが、地面に落下する直前のベルタを空中で捕獲した。

 

「ナイスキャッチ!!」


 私とユーカで揃って拍手。


「いやあ、さすがベルタ。お見事でしたね」


 ホッとするユーカに、私は微妙な苦笑いを返す。

 いやあ、コレ、ただのスタートボタンだから。


 私の反応に何かを察したユーカは、もう一度クローディアに抱えられたベルタに視線を戻そうとしたところで、別の場所からの悲鳴を聞いた。


「ええっ? 今度は何です!?」


 三人揃って視線を向けると、荷台から転がり落ちたカラーコーン型の標識が階段で跳ねて、別の荷台を押していた別の当番の頭にスッポリとハマっていた。


 一体どんな跳ね方したらそうなるの!?


 周囲に投げ出された用具はそれだけじゃない。なんか細々としたものがそれぞれの荷台から、四方八方に飛び散った。


 ロープは長いポールを小脇に抱えて運んでいた用具係の足を搦め捕った。持ち主が倒れた拍子に、手から投げ出されて雪上を転がり始めるポール。


 人の出入りが多かったせいで、周囲の雪が歩きやすく踏み固められてたのも災いした。勢い良く滑ったポールは、おしゃべりしながら三列に並んで歩いていた女子グループを、ラインダンスのように見事な動きで背中からすっ転ばせた。


 オーバーヘッドキックの要領でその足に蹴り飛ばされた救急箱が、もと来た第二用具室の開け放たれた扉に飛び込み、なかでひとしきり派手な悲鳴と破壊音を響かせた後、何故か代わりに大きなマットが凄まじい勢いで飛び出してきた。


「中で何があった!?」


 ユーカが思わずツッコミの叫び声を上げる。なんでそーなるの!?


 うん、とんでもなくアメージングでマーベラスなミラクルがあったよ。見せられなかったのが残念だ。ホントここまでくると、ベルタってマジで何か持ってるな!


 とにかくベルタのうっかりを引き金に、もうあちこちから悲鳴とバタつく音が聞こえてくる。

 なんだかピンボールみたいと言うか……連鎖的に飛んではぶつかって、衝突の作用でまた新たな火種を他に振りまいてって感じで、全方向にドタバタのハプニングが拡大再生産されていく。なんだか大昔にアニメで見たネズミとネコの愉快な追いかけっこを彷彿とさせるぞ。


「これは、想像を遥かに超えましたね」


 さすがに唖然と呟くユーカ。

 いや、まだまだこれからだ!


 そしてとうとう極め付け!

 魔力石がまとめて入っていた箱が、盛大にぶちまけられた!


 魔力石とは名前の通り、魔力を溜めておける拳大の魔道具だ。私の守護石と同種の物。ただし性能は、私のが四尺玉とするなら、これは線香花火程度の火力。更に魔力を貯めるだけで、引き出して利用することはできない。

 とはいえ学園イベント時の罠の仕掛けなどには大変重宝されている。使用者が後付けで性質を与えることで、爆発でも陥没でも幻覚でも、随意に魔術を発動させられるのだ。おかげで魔導師ではない職員でも、自由度の高い罠をどんどん張れる。


 ただし性質を与えるにも、多少の自家発電ならぬ自家魔力は必要なため、ザカライア時代の私にはやっぱり無用の長物だった。おかげで物理オンリーの私特製ブービートラップは、逆に面白いくらい学生がハマってくれたものだった。

 「魔力石の地雷原を切り抜けてやったぜ!」とドヤ顔で油断した瞬間のターゲットを、絶妙のタイミングで腹が立つくらい単純な罠に引っ掛けてやるのが醍醐味なのだ。ふははははっ、世の中そう甘くないぞ!と、高笑いもセットで。


 とにかくそういう性質を持った魔道具が、この混乱した状況下で、派手にばらまかれてしまった。


 するとどういう現象が起こるか。


 多少なりとも慌てた人間は、それぞれに防御しようと身構える。無意識に得意な魔術の方向性を持った魔力を体に帯びる。その自然な反射によって、接触した魔力石に性質が与えられてしまうのだ。その後、何らかの衝撃が加えられたら……。


 結果――。


 炎や水や風やその他色々、とにかくランダムな魔術の暴発が、そこかしこで起こり始めた。

 わお、イリュージョン!!


「なんか、スゴイことになってます!!」


 もはや驚けばいいのか笑えばいいのかといった表情で、ユーカが呆気に取られた。

 ちょうどクローディアをかすめるように通り抜けた魔力石が、地面に落ちた瞬間バチっと光る。この子の得意魔術は、割と珍しめの電撃系ということだ。


 それにしても、ホントに何この人間ピタゴラ装置。


 笑いごとじゃないんだろうけけど……噴き出しちゃってゴメン。

 リアルで見たらやっぱおかしいわ。

誤字脱字言い間違い等ご指摘ありがとうございます。感想欄で多かった322.「前の前」の件、矛盾訂正しました。あと千年前の発売日の間違いも(笑)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ