武闘大会
今日は、イングラム公爵家主催の武闘大会。
武闘と言っても、武器も魔法も何でもありのガチのやつ。
主催者はおじい様……つまり、前イングラム公爵のギディオン・イングラム。現役にこだわってバリバリ最前線に立ってきたあいつも、60過ぎてやっと引退を決意した。まったく、いい年して粘り過ぎだよ。
私の母、グレイスの長兄に当たるクエンティン伯父様も、一安心だね。
私にとっては甥っ子みたいだったクエンティンが、新しいイングラム公。あいつ学園時代は相当なお調子者だったけど、大丈夫なのかね?
グレイスが死んでからは、ラングレー家とは縁が薄れたから、今の私はあんまり面識ないんだよなあ。
今まで年の大半を領主として、領地で魔物狩りに費やしてきたギディオンは、これからは隠居して王都住まいになる。
領地を出る前にはさよならパーティーを兼ねて、魔物相手に盛大な引退試合をやってきたらしい。この辺、どこまで行っても体育会系だよな。イングラム家の、当主引退時の恒例行事らしいけど。
クエンティン伯父様も、新当主としてのお披露目パーティーで、領民たちに派手な征伐パフォーマンスを見せたらしいから、代々派手好き一族なんだよね。認めるのも癪だけど、私にもその血は確実に流れてるわけで……。さすがに入れ墨は入れないけども。
そして今日、王都向けの引退試合として、対人戦闘の競技会を行うことで挨拶とするらしい。
王都のイングラム公爵家別邸には、闘技場を兼ねた鍛錬場があり、腕に覚えのある騎士たちが自由にエントリーしてる。
応援席は半お茶会の場所と化し、戦わない貴族たちの社交の場としても機能する。もちろん私はこっち側。
だって今日も新作のドレスを披露するために来てるから。
せっかくおしゃれが楽しめる環境に生まれたのに、何が楽しくてわざわざ命がけの戦いなんかに身を投じなけりゃならんのか。私は体育会系ではあっても、戦闘狂ではありませんよ!
今日のドレスのコンセプトはずばり甘ロリだ! あー、素材がいいから何着ても似合うわー。その辺のまがい物じゃないよ、本物の金髪碧眼だからね~!! 美少女サイコー!!
ロリータ服は本物のロリータしか似合わないが私の持論。今のうちに着ておかないと、一生着れなくなるからね。
ピンクに白に、リボンにフリル、バラの模様、ヒラヒラフワフワのヘッドドレス、ゴテゴテのパンプス。ああ、自重なしで目一杯やらせてもらいましたとも! スカート丈も、この世界ではかなり際どい膝下くらい。フリルとタイツで誤魔化してるけど、いつかはミニ丈に絶対領域を晒したい!! だって今の私は、晒せるスタイルをしているのだから!! そこに山があったらまず登るのだ!
そして次回はゴスロリも試したい。こんな天使がゴスロリを纏ったら、途轍もない小悪魔が降臨することになるんじゃない!? ああ、ぜひ見てみたい!
世界観が違うとかは気にしないのだ! 今日も私が一番目立つぞ!!
内心で気勢を上げながら、場違いな参加者の待機場所へと歩いていく。
前のグラディスはお披露目一辺倒だったけど、今の私は観戦にも興味ある。騎士の魔法コミの格闘とか、面白そうだよね。
前世の知人との対面も、まああったらあったで構わないんだよね。進んで会いに行こうとも思わないけど、あんまり不必要に恐れても仕方ないし、無理してまで避けて回るつもりもない。それやったら、私引きこもり決定だから、そこはガンガン出てくよ。無駄な我慢が一番嫌い。
「グラディス! 応援に来てくれたのか?」
ギディオンが嬉しそうに迎えてくれた。
……おお……子供の身で改めて見ると、熊のような威圧感だ。でも、少し老けてても、記憶の中のままの友人がそこにいた。
「はい。もちろん優勝なさるんですよね。おじい様」
私はにっこりとはっぱをかける。
「当然だ。やるからには優勝以外ありえない」
ああ、このノリ。やっぱ懐かしいねえ。今まで武闘会なんて興味もなかった可愛い孫が観戦してやるんだから、ぶっちぎれよ!!
「それにしても、以前にも増して更に派手になったな、グラディス」
ギディオンが複雑そうな表情で私の装いを眺める。
「傲慢で我が道を行きすぎるところがグレイスに似すぎて、心配になるんだが……」
そのボヤキに、内心苦笑いだよ。あんた自身でも教育失敗したとか思ってたんかい。
お父様に、私の教育のことでたまに口出ししてたのも、反省してたからか。
まあ、さすがにあそこまで傍若無人ではないから、そんな心配すんな!
「それでは、最前列で観戦させていただきますわ」
激励がすんで、観戦席へと戻る。紅茶と大好物のチーズケーキを食べながら、高みの見物と行こう。
前のグラディスは涙ぐましい節制してたんだけど、今の私はスイーツの味を前世で堪能し倒してるからね~。完全に断つのは無理だわ~。我慢のし過ぎはいやだし、運動と相談しながら適度に楽しむことにしてる。ホントはお酒も呑みたいんだけど、さすがにそれはあと五年の我慢。味を知ってるだけに、長いな~。時々たまらなく晩酌したくなるんだよな~。
あ~、ギディオンに会ったら急に呑みたくなってきた~!!
「やあ、グラディス。ここいい?」
そこに唐突に現れたノアが、遠慮なく隣の椅子に腰を下ろしてきた。
こらこら。別に断りはしないけど、返事くらい待ちなさい! こいつ、薄々思ってたけど、私を男友達の列に置いたな。一周目、二周目と、同じ気配がするぞ。
こんなに美少女なのに、なんで? 恋してくれちゃっても、全然いいんですよ?