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恋バナ

「ねえ、もしかして、気付いている?」


 体育の後、女子だけになった昼休みのタイミングで、訊きたくて仕方なかった質問を、ユーカとヴァイオラにようやく投げかけた。


 教室で顔を合わせた直後からたった数時間が、ものすごく長かった。

 すでに回答は分かってるんだけど。


「キアランとうまくいったんでしょ?」


 ヴァイオラがあっさりと答える。


 おおう! 朝の挨拶だけでなんでそこまでの確信が!?


「幸せオーラ全開って感じでしたよ! 女王様が一瞬だけ天使になったギャップに、クラスの男子も流れ弾に当たってましたよ!」

「キアランは分かりにくいけど、マクシミリアンなんか苦虫かみつぶしてたわよね」


 きゃあきゃあはしゃぎだすユーカに、ヴァイオラが補足する。


「マクシミリアンには悪いけど、傍で見ていて二人とも何をやっているのかと、今までやきもきしてたわ」


 まさかこの私が、知らぬは亭主ばかりなりを、地で行っていたとは。


 だけど一部誤解がある。根本が違う気がする。


 もし幸せオーラとやらで本心が溢れ出ちゃってたというなら、多分何十年も抱え込んでた心の鎧が取っ払われたから、ってことなんだろうな。恋愛(そっち)方面の意味でも、確かに幸せではあるんだけども。


 仲間内だからセーフとしても、以後気を付けないとだな。私、そんなに分かりやすいかなあ?


 それはそうと普段の私の評価は女王様なのか。ユーカの奴、さらっと言いやがった。

 当然女王も歴史上普通にいるけど、ユーカ今、絶対別の意味で言ったよね!? 大預言者の目は誤魔化せませんよ!? クールビューティー計画がいつの間に破綻をきたしていたのか!? 大至急軌道修正が必要だ!!


 よくよく考えたら、前世の記憶覚醒前の自分をそのまま引き継いだキャラ作りだったからなあ。お澄ましグラディスから、がさつなザカライアにいきなり言動が変わる不自然さを避けてそうなっただけで、少しずつ素の自分に変えていってもいいのかな?

 この五年、それなりに繕ってるわりには、気付く人間にはバンバン正体が露見しちゃってるし、無駄な足掻きな気がしてきた。いやいや、これまでの頑張りのおかげで、この程度ですんでいるのかもしれない。きっとそうに違いない!


 おっと、それはともかくバレちゃったものはしょうがない。速やかに口止めをせねば。


「その件なんだけど、国王命令で、許可が出るまでは内密にってことだから、口外しないでね」

「あらまあ、結構長いわね」

「え~~~!! 何でですかっ、一番楽しい時期じゃないですか!? もったいないっ」


 何らかの政治判断だろうと、あっさり納得するヴァイオラ。その辺の感覚はやっぱり貴族だなあ。

 対照的に大袈裟に驚いたユーカが、我がことのように惜しがってくれる。


 だよね~!? 女子高生的には恋愛も一大事なのに! 同じ視点で共感してくれる人がいて、ちょっと嬉しい。


「なんか、いろいろ事情があるらしくて」


 ぼやかした説明でも、命令元が元だけに、それ以上の追及がないのがありがたい。


「ソニアたちにも気付かれたかな?」

「普段キアラン込みでの接触がほとんどないから、お相手の特定までは難しいだろうけど、それなりには察したんじゃない?」


 うう~ん。学年が違う分、馴染みが薄くて助かったのか? でも後で追い込みをかけられそうだな。たとえ知っても秘密は守ってはくれるだろうけど、友達だからってぺらぺら話していいわけじゃないし。一応国王命令だからね。

 ――っていうか、国王命令って漏らした時点で、実質的にお相手確定じゃないか!?

 誤魔化すのもなかなかめんどくさいなあ。


 そんな私をよそに、ユーカとヴァイオラは実に楽しそうだ。


「秘密の恋人とか、『少女漫画』みたいでトキメキます! キアラン君もこれからますます気が気じゃないですね!」


 何ともザカライア時代を思い出すユーカの反応。って言うか、私も昨日ちょっとそう思ったしね。

 それにしても、生徒の色恋沙汰を昼ドラ感覚で娯楽にしてた報いが、ここに来て我が身に跳ね返ってきてやがる。自業自得があちこちに転がり過ぎてないか? なんてふざけた人間だったんだ、ザカライアの奴。


「今朝のグラディスなら、ライバル激増よねえ」

「そうですよ! あのギャップ萌えには、一撃でやられますよ!」

「……」


 女友達二人が、無責任に面白がる。まったく困ったものだよ。カレシができてからモテモテになってもしょうがないだろ。


 ライバルがどうのと言われても、私の場合悪い虫は回避できるから、今までと何も変わらない。

 むしろ全く虫除けのないキアランの方が、心配になってくるぞ。当面は表向きフリーなままだもんな。

 この前ノゾキをした感触では、狙ってる女子は意外と少なくなさそうだ。

 多分周囲を、私含めた派手な連中が取り固めてるから踏み込めないだけで、一人にしたら危険が増す気がする。キアランの鉄壁ガードを突き破れる女子がいるかはともかく、そこはしっかりアンテナを張っておかねば!


「やっとグラディスともこういう話もできるようになったわね」


 ヴァイオラが、楽しそうに笑う。


「グラディスも人の子だったのねえ。やっと普通の女の子のラインに立ったって感じ? グラディスの中で恋愛の優先順位って、相当下の方だったでしょ?」

「――うん。否定できない」


 人の子じゃないとでも思ってたのかと引っかかるものはあるけど、素直に同意する。


 記憶が覚醒したばかりの頃は浮かれて、物語感覚で素敵な恋愛を楽しみにしてた。

 でも、人生と真面目に向き合うことを考え始めた時、今はそれどころじゃないってあっさり後回しにしちゃって。普通に考えれば、それも含めてこその人生なのにね。


「で、ユーカの方はどうなのよ?」


 ヴァイオラの矛先は、今度はユーカに向かう。意外とミーハーだ。こういうとこはロクサンナと似てる。


「森林公園では大活躍だったじゃない。マクシミリアンの危機に間一髪で割って入ったとこなんて、すごくかっこよかったわよ」

「――やっぱり分かってますよね……?」


 さっきまでははしゃぎ気味だったユーカは、途端に途方に暮れたようになる。おお、これは可愛いじゃないか。 

 私もニヤリとして、ヴァイオラの尻馬に乗る。


「あの時は、マックスを助けてくれてありがとう。お礼は、役得の分で返せたかな?」


 私の言葉に何を思い出したのやら、ユーカの顔が焦ったように赤らんだ。緊急事態という大義名分の下、堂々とくっつけたそうじゃないか。


「ああ、あれ!? でもいくらなんでもタイミングがギリギリ過ぎましたよ! 状況がつかめなくてテンパりました。――まあ、確かに十分なお礼でしたけど」


 あたふたしながらも正直にぶっちゃけるところがよろしい。

 そして、意を決したように、私に真剣な目を向ける。


「私、本気で頑張ってみてもいいですか?」


 その問いの答えは、考えるまでもない。


「恋愛は自由でしょ? 私の許可はいらないよ。頑張ってみて?」

「自分がうまくいってるからって、なんだか他人事です」


 軽くすねて膨れるユーカに、わざとらしく意地悪な笑みを返した。


「ふふふ。他人事どころか家族の一大事だよ」


 私がうまくいってると言えるかどうかも、分かんないしね。公表もできないし、先のことだって不確か。本人の気持ちだけじゃどうにもならない点では、いまだに綱渡りに違いない。


 ただユーカの件に関しては、しっかり方針が決まっている。


「そこは私、悪いけどマックス優先だから。余計なお節介は焼かないつもり。心の中で応援してるから、自力で頑張って。ユーカが義妹になる日を楽しみにしてる」


 他の子との恋のキューピッドとか、いくら私が無神経でも、さすがにそこまではやらないよ。少なくとも、マックス本人から頼まれでもしない限り、介入は一切しない。

 

 ビジョンの分岐の一つでは、ユーカも見えているから、実は可能性自体は低くない。もちろんそれを教えることはない。

 とりあえず環境だけは整えてあげてるから、あとは本人の努力次第。


 望みが叶う確率が高そうだから頑張れるというのは、世の中いくらでもあるし否定もしない。

 ただし、私の大事な弟にそんなふざけた姿勢は許さないのだ! ダブスタだろうとお姉ちゃんとしてそこは譲れない。

 マックスが欲しかったら私を倒してから行け! ――とまでは言わんけど、本気で望んで、掴み取るために全力でぶつかってく奴しか認めん!


 ――あれ? もしかして似た者姉弟?


 それはともかくとして、ザカライア時代を丸々すっ飛ばして、ほぼ半世紀ぶりの自分自身のコイバナは、女の子としてやっぱり楽しかった。


 『半世紀ぶり』と『女の子』いうワードがミスマッチだという苦情は受け付けません!

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