展望
「グラディス、何かおかしいか?」
無意識に笑顔が浮かんでいたらしい。予想外だったようで、キアランもマックスも不思議そうに見てくる。
「うん。これからのことを考えるとね、不安だけどちょっと楽しみでもある」
今まで先行き分からなかったものの期限が、はっきりと切られた。未来に思いを馳せるのは、自然とわくわくしてくる。
それまでの方向性をどうするべきか。揺るがない決定事項が、自分の中に常にある。
いつだって「いつも通り」――それが一番重要。
使命は大事だけど、私の人生だって大事だ。そこをブレさせるわけにはいかない。
カッサンドラだって、次の春まで悔いのないように生きろと言ってくれた。
その時が来れば、きっと私には分かる。自分がどう動くべきかは。
だからそれまでは、今まで通り、好きな仕事をして、学園に通って、私自身の青春を楽しもう。
表立って恋人といちゃつけない不満くらいどうってこともない。心だけはもう完全に自由なんだから。
騎士や魔導師なら気合入れて鍛えたりするフェーズにでも突入するとこなんだろうけど、私の能力ってぶっちゃけ生まれつきのもんだからなあ。修行して高めるって類のものじゃないし。むしろリラックスした自然体で過ごしてる方が、インスピレーションが磨かれるくらいだ。
ただでさえ今の私は、カッサンドラに禊を勧められる状態。通常の予言の精度が、従来より落ちた気がする。
でも一方的に不利になったとは思わない。黒い瘴気関連に対する感受性は逆に、ユーカのように上がってるから。
前とはいくらか違ったこの感覚をうまく乗りこなせば、むしろグレイスたちへの対応力を上げられるはず。
だから私の取るべき具体的な行動は、今まで通りでいい。求められた協力はするけど、基本は個人プレイ。
有事に備えるのは国の仕事だし、私にできることなら、エイダたち現役の預言者でも十分。わざわざこっちからでしゃばる意味はない。
私の事情を知る人間が想定以上に増えちゃってるから、逆に気楽になったくらいだ。必要に応じて、キアランとマックスには遠慮なく頼ろう。
肩の力が抜けるもう一つの理由として、今まで大きな懸念材料だった誘拐の心配が、今後はほぼなくなったこともある。
私を狙っていたのは、トロイ単独だったから。
転生日本人を生贄として欲していたのは、日本への帰り道を繋げるため。つまりはトロイ個人の望みを叶えるための方針だった。
とするなら、私が今後生贄として狙われる理由はもう特にない。
多分トロイは、私が大預言者である情報をグレイスと共有していない。
グレイスに知られてたら、手間暇かけて無傷でさらうより、邪魔者として問答無用で暗殺されてたかもしれない。お互いの信頼がないのだから、重要な情報ほど扱いは慎重だっただろう。
今後は目を引くようなことをせず、大人しく普通の女の子をやってる限り、私は前より安全になってるはずだ。最近敷いていた厳重な護衛体制は、通常状態に緩めてもらおう。最低でも学園内の護衛をなくすだけで全然違う。
目一杯学生生活とか私生活を充実させることに舵を切ってやるぞ! せっかくカレシもできたことだし。
「私は安全になったけど、逆にユーカは目立ちすぎちゃったよねえ」
良くも悪くも。私の発言の意味を、キアランはすぐに察した。
「確かにあれだけ能力を見せつければ、敵の攻撃目標になりかねないな」
「――俺を助けたことも一因となると、いい気はしねえな……」
理解したマックスは、難しい顔をする。
ユーカは魔物には強くとも、対人戦はど素人。秋の勝ち抜き戦イベントで実際に対戦してるだけに、熟知している。
「私も少なからず噛んでるだけに、ちょっと申し訳ないんだよね。他に適任者がいなくて、立て続けに仕事を頼んじゃったけど。これから、できるだけ安全には注意してあげてね」
注意を促した私に、二人は頷いてくれた。
それから、特にマックスに目を向ける。
「マックスは昨日助けてもらった件、ユーカにしっかりとお礼しておきなよ」
「ああ、ちゃんと昨日言ったけど?」
「軽いよっ、軽い!!」
あっけらかんとした様子に、思わず声のボリュームを上げた。
「分かってんの!? 命の恩人だよ!? ユーカに助けられなかったら、あんたホントに死んでたからね!?」
大預言者の切望で送りこまれた救援――どれほどの危機だったか自覚ないんじゃない!?
「――マジか……」
マックスが息を呑む。指摘されて初めて、事の重大さに気が付いたらしい。
「そうだよ! おまけに昨日誕生日だったんだから、感謝の気持ちを込めてなんかプレゼントくらい用意しなよ」
「建国の日が誕生日なのか?」
訊き返したのはキアランだ。
彗星のように現れた異世界出身の英雄の誕生日が、建国の日!
――ああ、こりゃ、確実に利用できるネタだな。イメージ戦略的に。さすがにキアランも王子だけあって抜け目ない。まあ、その辺はエリアスたちにお任せだね。ユーカにとっても悪いようにはしないだろ。
「召喚された日が、16歳の誕生日だったって聞いてるよ」
追加の情報に、マックスが目を丸くした。
「えっ!? あいつ、2歳も年上なのか? なんなら年下かと思ってた!」
「まあ、遅れて特別許可で入学したからねえ」
予想外の驚き方に、思わず苦笑する。一周目の感覚があるからあまり気にしてなかった。
ただでさえ若く見える小柄な日本人だし、言われてみればこっち基準だとローティーンの印象かもね。実は年齢だけなら、ガイたちと同じ最高学年に当たるお姉さんなのにね。
それにしても、ユーカはマックスから中学生くらいに見られてたわけか。私も一周目は、成人しても海外遠征の度に中高生に間違われたもんなあ。
――あれ? ってことはユーカ、出会った時点では下手したら小学生並みの子供に見られてたの? 本当にまだまだ先のことは分からないね。
その後は、今日の王城での出来事を、世間話を交えながら色々と聞かせてもらった。
その流れで、トリスタンとジュリアス叔父様の昨日の行動にも話題が及び、なんとも微妙な空気になる。
やっぱりやらかしてたよ!!
ラングレー兄弟が犯人追跡のため、ランドール家で数百年守られてきた特別な樹林の大伐採を敢行したネタは、今日の新聞には間に合わなかった。でも明日にはしっかり載るらしい。
う~ん、でも、思ったよりは穏やかだったと、一安心でいいのかな?
前回は、誘拐された私を探して、無関係の家数軒に誤爆しちゃったからなあ。昨日突貫したのは、ちゃんと犯人に関わる場所だけだもんな。
薄々怪しいとは思ってたんだよ。二人とも特に何事もなかったような顔してたけど、私の安全のためなら何でもやるもんなあ。
ちょっと世間に対しては気が引ける反面、ありがたい家族だと素直にじーんともしちゃうんだけど。
ただ、今回は私は関わってないことになってるから、いつでも狂犬のように暴れ回る荒くれ兄弟の印象が付いてやしないかは心配なとこだ。少なくとも叔父様は違うからね! トリスタンのせいだから! ――多分。
ちなみに、昨日今日と現地入りした調査員には、犯人のアジトへの直通路として大変重宝されたそうだ。
周りに迷惑かけてるばかりではないということで、まあ良しとしよう。
感想、誤字報告、レビュー、ブックマーク、評価等ありがとうございます! やる気につながります。
おかげさまでとうとう300話です。100話行くかどうかと思いながら始めたのに、まだ終わらない。
多分400話まではいかないと思うのですが……。
冒頭に登場人物紹介を入れました。




