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初めての転生

 そして二周目。


 どうやら剣と魔法の世界に転生したらしい。


 らしい、というのは、育った場所が悪かったせいで、生後数年くらい、いまいち把握できてなかった。

 運悪く、生まれ育ったのがスラムっぽい場所だったから。

 私はストリートチルドレンの一人として、貧しくも強かに、日々生存競争に励んでいた。


 今の名前はザカライア。誰が付けたのか分からないけど、完っ璧に男の名前じゃねーか!

 ホント、誰が付けたんだ!?

 まあ、ここで生きてくには、その方が都合のいい部分もあったんだけど。

 ここでも女子力とは無縁ってことかい!


 ここではごく狭い世界で、生きていくのが精一杯。周りにまともな教育を受けた人間なんて誰もいない。

 脳が未発達だった乳幼児期は、まともな思考力なんてなかったし、頭に浮かぶあるはずのない記憶の意味に気が付いたのは、5~6歳の頃だった。


 あれ、これ、異世界転生やっちゃってる!?


 自覚した時の激しいガッカリ感。

 こーゆーのって、貴族とか魔女とかがお約束なんじゃないの!? 悪役令嬢でもいいから!


 なぜにストリートチルドレン!? 前は家庭内底辺だったけど、真性のまごうことなき底辺に生まれちまいましたよ!


 物語であんなに憧れた、お姫様や騎士は!? 賢者に魔法使いは!? 


 そんなもの、ここにはいねえ!


 実在はするらしいけど、接触できる環境にない! 接点なんて皆無!

 そしてロマンよりもまずメシだ!!


 はあはあ、ちょっと落ち着こうか……。


 まあ、前世に完全覚醒してからは、それなりに培った世渡りの知恵と格闘技術で、そこそこ生き易くはなったけどね。

 何しろここには、人間離れした能力を持った魔法使いも騎士もいない。柄は悪いけど基本一般人ばかりだから。力があったらこんなとこで燻ってない。

 スラムの住人から見たら、子供のくせに悪知恵が回る上、見たこともない技で大人も出し抜く私の方が、よっぽどタチが悪かっただろうね。


 まあこんな環境じゃ、前世の憧れだったおしゃれや女の子らしい趣味を楽しむ余裕なんてない。せっかく日常にドレスのある世界なのに、指をくわえて見てるだけ。


 はあー、ほんとガッガリ感ハンパねえ。

 でもせめて、底辺なりにも素敵な恋愛くらいは自分次第で望めるはずだと、内心奮起はしてたんだ。


 まさか、そんなたった一つの希望まで潰える落とし穴が用意されていようとは……。


 きっかけは、2~3年に一度ある『子供狩り』。


 王都から兵が派遣され、スラムの子供を片っ端から捕まえていく。数日で解放されるけど、何人かはそのまま連行されて二度と帰ってこない。


 というと、国家ぐるみで人さらいしてるようだけど、実は悪い話ではない。


 基本的にこの世界の人は魔力を持ってるけど、一定水準の魔法を使いこなせる人は意外と少ない。

 そこで定期的に国中の子供の魔力測定を行って、水準以上の魔力を持った子供には、より高い教育を与えられるようなシステムになっている。


 ところがスラムの住人って、子供とはいえ脛に傷を持つ子が多い。自ら、のこのこ役人の元に足を運んだりなんてしないよね。

 向こうも周知徹底しようと頑張ってるんだろうけど、基本的に人を信用しない子供たちだからねえ。


 そこで国は、貴重な人材を捜し漏らさないため、100人単位の人員を割いて、国の管理が行き届かない地域の子供たちとの、鬼ごっこやかくれんぼ大会が開催されることになるわけね。


 大人たちにとっては、もはや季節の風物詩扱いだったみたい。私たちは必死だったのにね。


 私は仲間を率いて、組織的に散々引っ掻き回してやった。ブービートラップを仕掛けたり、嘘の噂をばら撒いて攪乱したり、忍び込んで飲み水に下剤を仕込んだり、兵糧を汚水まみれにしてやったり、厩舎の馬を片っ端から逃がしたり。その他にも、街中を巻き込んでちょっとやりすぎたかもしれない。


 なにしろ前世で、あのアウトドア一家にいろいろ仕込まれてるから、意外に経験値豊富。サバイバル的なことが得意だった。人生何が役に立つか分からないね。

 ザイルの結び方、役に立ったよ、お父さん!

 屋上からのラぺリングも大活躍だったよ、自衛隊!

 

 最終的には現場の人間の手に負えず、中央から偉い人が来て作戦の指揮を執りだした。スパイとして取り込んだ臨時兵舎の下働きからの情報だけど。

 ちなみにその年の攻防戦は、『スラム街の悪夢』として、伝説に残っているらしい。


 今思うとホント、タチ悪かったわ。兵隊さんゴメンナサイ……。 


 まあ結局は捕まった。やってきた偉い人が、なかなかの策士だった。

 兵隊さんたちはあんな目に遭わされても、子供の扱いが丁寧だった。ホントにゴメンナサイ。


 それでもいざ、魔力測定の段には、ちょっとワクワクしたんだ。

 ひょっとして私も魔法使えるっ!? って、やっぱ期待するよね。


 そう思ったのには根拠がある。特に魔法が使えたことはないけど、私はとにかくカンがよかった。

 前世の時もそうで、空手の試合中とか、対戦相手の攻撃を予知してるのかって言われるくらい当たらなかった。

 それがこの世界に転生してから、更に神懸ってる。多分100回ジャンケンしたら、100回勝つ。

 私が大勢の追跡者を翻弄できたのも、この先読みのせいだ。


 そして測定結果――ハイ、魔力0! 皆無です! そんなこと、あり得るの!?

 測定したおじさんも、逆に驚いてたよ。


 複雑な気分の中、仲間のうち3人が、王都に連れて行かれることになった。お前ら、出世しろよ!


 そして、何故というよりは当然というべきか、他の仲間が解放された中、私は一人だけ残された。

 そりゃ、今回の大騒動の主犯だもんな……。


 しばらくして、事後処理を済ませた偉い人がやってきた。

 どんな処罰が下されるのかと身構えたら、思いもかけない話を持ち掛けられた。

 魔力こそないものの、私の行動力と統率力、悪賢さを高く評価してくれたらしい。後半誉め言葉じゃないよね。

 その気があるなら、王都で教育環境を与えてくれるという。


 その気!? もちろんほとばしるほどありますよ! 一生スラム暮らしなんてゴメンだからね!


 こうして私は、突然人生に転がり込んだ大チャンスに、乗っかることにした。

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