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追憶と予感

「それにしてもさっきの蹴り、すごかったね!」


 怪我人なども運び出され、状況が落ち着いたところで、ノアが私の前蹴りを誉めだした。お前も見てたか。


「意外にも君、戦闘系だったんだ」

「違うよ? お父様は最強の騎士だけど、私にそういうことはさせないもん。危ないから」

「でも、すごい身のこなしだったよ?」

「ダンスで鍛えてるから」

「いやいやいや、あれは、ダンスの動きじゃないでしょ」


 ノアの当然の突っ込みにも負けず、頑として言い張る。


「ダンスのおかげだよ」

「どう見たって格闘……」

「ダンス」

「そ、そう……」


 ザカライアの時は、身近な人間に限るとはいえ、空手のことを特に隠してなかった。あんまり気にしてなかったけど、この世界では相当特殊な武道だよな。

 今世では表に出すのはやめとこう。


 それにダンスというのも嘘は言ってない。空手の(かた)の練習を始めてまだひと月かそこらだもん。イメージ通りに体が動いたのは、ダンスでそれなりの下地があったから。

 うん、ダンスで鍛えてるからで、間違いない。


「あれだけの身のこなしなら、戦闘術も鍛えれば戦場で通用するんじゃない? キアランも王妃様のご実家のエインズワース侯爵領でよくやってるよ」

「私は無理だよ。だって、魔力がほとんどないもん」

「ああ……そっかあ。じゃ、僕と同じだね。学園に入ったら文官系目指す予定なんだ」


 ノアが納得した。剣と体術だけ鍛えても、魔法なしで魔物相手はかなり厳しい。いないことはないけど、女の子の進路の選択肢としては珍しい。


 でも実は、魔力がほとんどない、というのは、事実じゃないんだよね。


 私、5歳の時点で検査を受けてる。普通は専門の施設で測定してもらうんだけど、何故か叔父様の指示の元、自宅に最低限の測定機材と人員を呼びつけて、ひっそりと行われてた。


 結果は当然0。やっぱり皆無だった。スラム街の悪夢の頃を思い出しますね。

 そして、表向きは、『魔力は()()()()ない』とすでに公表されている。

 上にサバを読むことはあっても、低く表明するなんて普通想定されてないから、誰も疑うことはないだろう。私からすれば、それでも上にサバ読んでるんだけど。


 ……あれ? 叔父様、もしかして私の預言者の資質、昔から疑ってたってこと? それで隠してくれてる?

 いやいや。深く掘り下げるのは、やめとこう。


「ダンスか……確かにきれいだったな」


 真正面から目撃してたキアランが、技の美しさを誉めてくれた。私は思わず目を丸くする。


 ちょっと懐かしくて、切ない気分だね。

 昔、君のおじいさんも、同じことを言ってくれたんだよ。


 こんなに近い距離に生まれ直したのに、ずいぶんと遠くに来てしまったね。でも、あの頃からずっと、今に繋がっている。

 コーネリアスはとっくに死んで、ザカライアも死んでるのに、その死を悼む私がここにいる。


 新しい人生を生きているのに、生まれる前を記憶している。本来(グラディス)には関係ないことを、悲しんでいるんだ。


 これは、過去に縛られているのと、どう違うんだろう。共有してきた数十年の時間をなかったことにして、かつての親しい人たちを素通りしていくこと自体、負担なのに。

 もし今アイザックに会ったとしても、私は見知らぬ他人の振りをする。今の私の人生を生きるために。


 前世を憶えていることは、あまり幸せなことじゃないんだと、今初めて思ったよ。どうして私は、3周目を迎えているんだろう。


 何か、意味があるのかな。


 なんとなくしんみりした気分を吹き飛ばすため、再びキアランをからかうことにする。


「あら光栄ね。で、どの辺がきれいだった?」

「……だから、あの蹴りの動作がだ」

「動作だけ?」

「……お前、分かって言ってるだろう」


 憮然と呟く少年に、思わず笑ってしまった。


 そうだ。私は私として、新しい友達とまた新しい思い出を作っていこう。


「それにしても、こんな街中に魔物が現れるなんてねえ」


 すでに他人事のように、ノアが感想を漏らした。


「ここ数十年は記録にないだろうな」


 キアランも同意する。


 現場は、一般人と入れ替わりに、役人や調査員が大量に入り込んでいた。規制線が更に強化して張られ、その周りを兵士が警備に当たっている。


 今の私たちは野次馬だね。それにしても、王子様や結構な家の坊ちゃんが護衛もなくふらふら街歩きしちゃうくらいだから、ホントに平和な街なんだよね。いくらこの国が大雑把な体育会系なのを考慮しても。


 あ。今すぐ魔法陣を破壊するべきだという意見と、重要な証拠だからと反対する意見で、言い争いが起きてる。


「僕はすぐ壊してほしいなあ。あれだけ特殊な魔法陣なら、機能してなくても大きい手掛かりでしょ。いつまた魔物が出てくるかビクビクしたくないしね」

「そうだな。ああいう緻密なものは、隅を少し途切れさせるだけでも作動はしなくなるはずだし、すぐ再現できる程度の破壊に落ち着くんじゃないか?」


 二人の会話を聞きながら、私は別のことを思い出していた。


 ザカライアの最期の日、アイザックに伝え損ねた予言。謎の不吉の予兆。


 確かこの先、魔物が増え始めるビジョンを見ていたんだよね。あの時はずっと先のように思ってたけど、その時が今、訪れているのかもしれない。

 この魔法陣と関わりのあることなのかは、まだ分からないけれど。


 まあ、ぶっちゃけ、ただの子供で令嬢の私には何もできないよね。またアイザックに丸投げだな。ご苦労さん。


 トラブルもありつつ、私はこの日、同い年の友達を二人ゲットした。

 うん、いい日だったね。次は女の子の友達を狙おう。私と付き合えるような女の子、いるといいなあ。


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