表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

272/378

儀式の準備

「な、何のこと!?」


 内心バレたと焦りつつ、無駄な足掻きでとぼけて見せる。隠し持った守護石は、この状態で最後の砦だ。


 そんな私にお構いなく、トロイはナイフの刃先をドレスに向けた。襟首から胸元まで、イヤな音を立てて真下に切り裂かれた。


「ああああああっ、私のドレスに何してくれてんの!?」


 ふざけんな、このヤロウ!! って、そんな場合じゃなかった。なんか色々と危機だ!!!


「ああ、これだね。今まで散々邪魔してくれてたのは」


 露になった胸の谷間で、守護石が紫色に光っていた。


 トロイは触るのもイヤそうに、ネックレスのチェーン部分にナイフで引っ掛けて、上に引き上げた。

 脆く千切れて、胸の上から台へと丸い石が転がり、その弾みで勢い付いて、更に床にまで落ちた。コンコンと、乾いた音が床に響いて止まる。


 それから間髪置かず、トロイが床に向けて何かの魔術を放った。


「――っ!?」


 台に仰向けにされた私には見えない場所で、穏やかでない破壊音が立つ。

 

「うわ。何あれ。どういう材質。傷一つ付かないとか。ズルいよなあ、大預言者って。装備までレアな感じなの? 一体こんなものどこで手に入れるんだよ」


 トロイの呆れた声に、思わずほっと息をついた。

 さすがにドラゴンからもらった守護石は、ちょっとやそっとでは破壊できないらしい。


「ちょっと私のアクセ、勝手に壊そうとかしないでくれる!?」

「どう見ても、そんな可愛らしいもんじゃないでしょ、アレ。まあいいや。儀式の邪魔になりそうな危険物が、君から離せただけで。これ以上関わって時間を浪費してる暇はないしね」


 守護石は、そのまま部屋の隅に放置することにしたらしい。すでに別の事柄に意識を切り替え、トロイは三つある扉の一つへと姿を消した。


 扉の向こうで、ガタガタと何かの準備をしているみたい。今度は何をするつもりだろう? 


 守護石が肌身から離れてしまって、もう完全に丸腰だな。

 とりあえず今一番起こって困ることっていうと――人手が増えることか。


 さっきの口ぶりだと、ここにグレイスは来ないみたいだけど、じゃあ洗脳された配下とかは?


 前の誘拐事件の時は、使い捨てのお粗末な連中を雇い入れてた。あのチンピラたちは自分の判断で動いてたし、暗示の類は施されてなかったけど。

 とにかくトロイ以外だったら、私を傷つけることはできる。


 そういえばあの時の誘拐は、確実に計画的な犯行だった。ユーカが王城から外出する護りの手薄なタイミングを狙ったもの。だったら、今回のは?


 私がロイヤルボックスに招かれたのは建国祭の二日前。まして非公開情報。準備期間があったとは考えにくい。降って湧いた好機に、その場で決断した行き当たりばったりの犯行でもおかしくない。


 だったら、粗は多いと期待するのは楽観的過ぎ? 私の居場所って、もう掴めてるのかな。エリアスなら何とかしてくれてる気がする。

 ああ、それにしても助けを待つしかないって、ホントもどかしいわ。物理的な戦力が欲しい。


「ピンチをしのぐ手段は思いついた?」


 からかうような軽口に、思考が遮られる。


「思いついても、答えると思う?」


 全然ねえよと内心で毒づきながら、ハッタリをかます。

 視線を向けると、トロイが両手いっぱいに荷物を抱えて出てきた。部屋をあちこち歩き周りながら、何やら色々と準備を整えている。さっきの扉に入っては、何かの道具を持ち出しているから、あそこは物置らしい。


「あんた、さっきから何やってんの?」


 おおよその回答は予想しつつ、一応聞いてみる。


「そりゃもちろん、生贄の儀式の下準備。今日はいつもとちょっと違う手順でやるつもりだから、色々と忙しいよ。何しろあの怖いパパがいつ突撃してくるかと思うと、もう気が気じゃなくて。一刻も無駄にはできないでしょ」


 けろりと答えるトロイ。


 やっぱりか……! うっすらと感じていた危機が、現実として迫っている。直接手を下せなくても、私を殺す方法はある。できれば監禁放置で餓死コースとか、消極的な方法が希望だった。


「僕自身が君を殺せないとしても、召喚自体はできるからね。呼び出した魔物に食い殺されたりするのはただの結果で、僕のあずかり知らないことだからね。」


 ぬけぬけと言い放つ。どう考えたって、震源地にいる生贄が真っ先に狙われるだろうが。

 救助の到着まで粘るとか、トロイもみすみす許すわけがなかったか。


「考えてみたら、君との二人っきりの時間なんてすごく貴重だなあ」


 着々と楽しそうに準備を進めながら、またいつもの軽口を叩き始める。


「ましてこれが最後だし。残された少ない時間くらいおしゃべりを楽しもうよ」

「質問になんでも答えてくれるならね」


 半ばやけっぱちで答える。


「オッケーオッケ―、何でも答えちゃう。心残りがないように、思う存分聞いて~」


 このヤロウ。完全に殺す気満々か。

 せっかくのチャンスだ。無駄にはしないぞ。今までの疑問を片っ端からクリアしながら、少しでも油断を誘ってやる。


「あんた一人でやるの? グレイスとか、他の仲間は? そもそも夏至、半年以上先でしょ」


 トロイは、生徒に答える先生のように、快く解答を提示し始めた。


「まず一つ目。生贄を使った夏至の召喚は僕の担当でね。いつもだったらグレイスの手駒を手足に借りるけど、今回は突発的にやっちゃったせいで準備してない。だってあんな誘拐のチャンス、そうそうないでしょ。まあ、今回は時間の余裕もないし、僕一人でちゃっちゃとやることにした。なにより、()()を生贄に捧げる儀式で、誰の手も借りたくない」

「――――」


 『先生を生贄に捧げる儀式で、誰の手も借りたくない』――その一言に、思った以上に動揺する自分に驚いた。

 掴みどころなく常に塗装されていた感情が、透けて見えて。


 言葉を出せないままの私に、トロイは更に続ける。


「二つ目。()()()の世界と繋がりやすい時期にはリズムがあるんだ。夏至が最高で、冬至がその逆。だから僕は、いつも夏至を選んでた。グレイスはその辺あまり気にしてないけどね。僕らの目的は、別に魔物を召喚することじゃないし」


 その発言の意味はすぐに分かった。彼らの召喚は、いつも呼び出すだけで、後のことはほぼほったらかしといってもいい。出てきた魔物自体には、明らかに興味がない。


「移住のためのゲートを、より強固に安定させること、だよね?」


 私の推測に、ご名答とばかりにトロイが頷く。


「そう。少なくともグレイスたち魔物サイドにとってはそれが最終目的で、召喚は一番有効な手段の一つ。僕にとってはそれも過程にすぎないけどね」


 その先にある、トロイの目的。人間のトロイが、魔物に協力する理由。

 胸がざわついてくる。


 ――多分、私はその理由が分かる。


 怒りとは別の感情に戸惑いながら、これは情報を引き出すためだと自分を叱咤した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ