再会
今日の予定は街歩き。記憶が戻ってから初めてだから、すごく楽しみ。
「昨日、街で君と同じ年の女の子が、殺されていたそうだ。十分に気を付けるんだよ?」
馬車で屋敷を出る直前まで、心配する叔父様に再三念を押された。
ふと頭の中に、私を殺す黒いフードの男がよぎる。先日誕生日を迎えて11歳になった。まだ予言の年頃に達してはいないけど、注意はしておこう。
王都の城下町は凄く治安が良くて、私レベルの令嬢でも特に護衛は必須なものではない。
ザカライア時代は常に張り付いてた護衛とかいなくて、すごい身軽。
馬車から降りての散策はさすがにザラは付き添うけど、それはどこの令嬢も一緒だからね。
まあ、ホントのお嬢様は普通外商呼ぶんだけど、私は断然ウインドウショッピング派。色々な店に入って、たくさんの商品を見てみたい。デザインさえ気にいれば、安物だってかまわない。
とにかく可愛いもの、きれいなものを見るだけで気分が上がる。
まあ、街中の人たちのファッションを観察して、今の流行とか偵察する目的もあるけどね。オープンカフェでお茶を飲みながら、行き交う人を眺めてるだけでも結構時間が潰せる。
おお、あれはマダム・サロメの新作だ。私が今、流行らそうとしているふくらはぎ丈スカート。ふふふふ、このままどんどん丈を短くしていってやる。
いつかはマイクロミニを穿くのが我が野望! 脚線美磨いて、その時を楽しみに待ってるぜ!!
「あれ?」
カフェの隣の花屋に入っていった少年二人、見覚えがあるぞ?
栗色の髪の男の子と深紅の髪の男の子。
興味がわいて、お茶を飲みながら、店から出てくるのを観察してみる。
しばらくして、大きな花束をそれぞれに抱えた少年が出てきた。
赤い髪の少年が私に気が付き、驚いた顔をした。
「お前は……」
「ふふふ。やっぱり、赤い髪の方が似合いますわね」
お茶会で、私に説教をしかけた少年だった。
「え、君! ラングレー家の?」
隣にいた栗色の髪の少年も、私に気付いて人懐っこい笑顔で近付いてきた。
「あら、その栗色のウイッグは、あなたのものだったのかしら?」
馬車に接触しかけた水色の髪の少年だった。
「うん。いつもは僕の街歩きの時に使ってるんだ。僕の髪、目立つからね。あの時は特別にこいつに貸してあげてたんだ」
赤毛の少年を指差して答える。指差された少年は何とも複雑な表情をしていた。
なるほどなるほど。色々と読めてきましたよ。
う~ん。何とも懐かしい感じですなあ。私はどうにもこの血筋と縁があると見える。
その深紅の髪。どう見てもコーネリアスの孫だよね、君。ザカライアが死んだ頃、アレクシスのお腹にいたエリアスの子供。
つまりあのお茶会の主役の王子様だ。顔立ちも瞳の色も母親に似たんだね。雰囲気も理知的だったコーネリアスやエリアスよりは、魔物狩りしてたアレクシス寄りのワイルド系だね。変装して将来のお嫁さん探しでもしてたのかな?
「そういえば、まだお名前を知りませんわね。王子様とクレイトン家のお坊ちゃま」
私の問いに、アイザックの孫の方がおかしそうに笑った。
「本当に君は変わってるね。僕たちの素性には気が付いたのに、名前は知らないんだ?」
「あまり興味のないことは、覚えていないもので」
私も笑顔で答える。同世代の女の子たちは王子様に興味津々だったようだけど、グラディスってホントに知らないんだよ。今の私になる前から。ホントに興味なかったんだね。
何より叔父様を始めとする周りの大人たちが、誰も積極的にそっちの情報をもたらさない。どこの親も躍起になって娘の玉の輿を狙うのに、ありがたいことだよね。
「キアランだ」
王子様が答えた。うん、素直でよろしい。とても真っ直ぐな感じが好印象ですね。前回はお説教されかけたけど、私に対して特に否定的な感情はないみたい。生真面目な子なのかな? ああ、やっぱりアメジストの瞳がきれい。そしてコーネリアスという名付けを阻止してくれたアイザック、ナイスフォローだ。
「僕はノアだよ。よろしくね。グラディス」
「ふふ、よろしく。私のことはご存じなのね」
「もちろん。君はどこに行っても注目の的だからね」
おお、ノア君の方はなかなか社交的。アイザックより全然要領がよさそうだぞ。そしてチャラそうだ。顔がそっくりなだけになんか笑える。
孫の代になっても、相変わらずこの家系は仲良しの幼馴染なんだ。統治11年目のエリアス国王は、おっかないアイザックおじさんに頭が上がるようになってるかな?
可愛い美少年二人とお知り合いになったのに、フラグが立ったというより、なんかあの頃を思い出して楽しいなあ。3人でいろいろバカやってたもんだ。主に私が引っ張り回して。
ああそういえば、予言に出てきた赤い髪の青年はきっと君だね、キアラン。とりあえず赤と水色が出たわけだ。
同じ10歳だから、あと5年弱でバルフォア学園の同級生になるのか。
君たち、可愛い顔して将来私を振るとは、なかなかいい度胸だな、コノヤロウ。でも可愛いから許しちゃうよ。
またコーネリアスやアイザックみたいに、いい友達になれそうだね。