表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

254/378

迎撃準備

 建国祭を翌日に控え、日が暮れないうちにトリスタンが屋敷に到着した。


 明日、行事に参加したら、その翌日にはさっさと領地に戻る強行スケジュール。相変わらずのせっかちだ。もっとも、何事も起こらなかった場合、ということだけど。


 学園から帰った私は、叔父様と一緒に居間で久しぶりの父子の団欒。マックスは通常通り、修行でまだ帰ってない。


「アレクシスの招待?」


 叔父様の説明に、トリスタンが聞き返す。昨日の事件の後、夜になる前に早速招待状が届いた。ちなみにトリスタンにとっては国王のエリアスも王妃のアレクシスも、学園時代の二年後輩に当たる。


「ええ。グラディスとも話し合って、了承の返事を出しておきました」


 叔父様が答える。普通は一族でまとまった席になるはずなのに、私だけ王妃様のお供で、王族席に混ざることになる。マックスは不平をブーブー言っていたけど、私と叔父様連合に立ち向かう力はなかった。


「そうか。いいんじゃないか?」


 トリスタンもあっさり受け入れた。やっぱりこいつにも何かしらの予感があるらしい。そもそもイーニッドと双子たちには、領地での留守番命じたくらいだもんな。国家行事なんだから、最低限でも夫人同伴は当たり前なのに。

 私もおチビたちを危険に巻き込みたくないから、その判断には大賛成。

 トリスタンの非常識は知れ渡ってるから、あんまり細かいことは言われないだろうしね。この国の公爵とか、結構やりたい放題だ。強さに裏打ちされてのことだけど。

 逆にハンター家辺りは愛人まで同伴で来ることあるしな。昔、式の最中、愛人同士の殴り合いが始まったことあったもんなあ。国家行事がナメられすぎじゃね?


「国としても、何か起こる前提で準備してるし、実際起こると思う。グレイスが現れた時点で、少なくともネル湖の方は確実に」


 三人きりだから、隠さず率直な意見を言う。


「だから、そうなったら遠慮なく大暴れしてね。私は安全なVIP席で大人しくしてる」


 多分、と心の中で付け足す。


「そうだな。アレクシスなら下手な護衛より強いだろうしな」


 トリスタンが不遜な目論見を口にする。いざとなったら王妃様に守らせるつもりらしい。この図々しさがなんとも体育会系だよな。卒業後何十年たっても先輩風が吹き荒れる。それに乗っかる私なんて元教師だしな。


 一応エリアスたちとの打ち合わせで、できるだけのアドバイスはしておいた。


 明日の儀式の席では、開幕の時は通常通り。始まって注目が逸れた辺りで、公爵から上の戦力を、人知れず途中退席させる段取りになっている。すでにその要請はそれぞれの家に出されていて、ラングレー家からは、トリスタンとマックスが出ていくことになっている。どこの家も大体は、当主と跡継ぎが出向く感じだろう。


 戦場になると目されるのは、当然森林公園の一角、ネル湖。300年前、召喚間際に封印された強力な魔物が、封印を破って再召喚されると予測して、備えを固めることになっている。


 ただ、いくら戦場になる可能性が高くとも、そこだけに戦力を集中させるわけにはいかない。


 夏至の日の召喚と、イベント時の召喚は、性質が正反対に思える。

 一人の生贄を使う夏至の召喚は、人目を忍んでひっそりと。

 イベント時の召喚は、多数の人々の阿鼻叫喚を伴って派手に。


 建国祭が行われる闘技場は、森林公園から直線距離でわずか100メートル程度。観衆が集まる闘技場でも、やっぱり騒動は引き起こされるだろうと、私は読んでいる。何が起こるかは分からないから、対応できるだけの戦力は残してほしいところだ。

 戦力が割れるのは痛いけど、警戒は両方に必要。最悪、二か所で二匹同時召喚とかもあるかもしれない。転移魔術が使える相手じゃ、どうしたって後れは取ってしまう。


「森林公園の方は質で、建国祭会場の闘技場の方は数で対応――という方針のようですね」


 王家の要請の内容から、叔父様が正確な分析を口にする。さすが叔父様。

 お忍びのエリアスに送ってもらったことはさすがに伝えてないから、その際の会話内容は内緒だけど、本人もそう言っていた。


 少なくとも森林公園の方には、現れるとしたら、強力な魔物が想定されている。何しろ300年前に、倒す選択肢を早々に捨て、準備を重ねた上で何とか封印に持ち込めたというほどの奴。そこは、トリスタンたち公爵陣という最強のスタメンで固めて、集中砲火の短期決戦で片付ける。


 仮に会場にも同時に魔物が召喚されて、公園との二正面作戦になったら、会場の方は、数の力で抑えておくことになる。魔物をではなく、観衆の方を。

 一般人の安全を考えたら、人の多い方にこそ強い騎士を配備したいとこだけど、パニックになった観衆の誘導に、少数精鋭なんて役立たずだからね。逆の配置じゃ作戦遂行の意義が低い。それ以前、ネル湖の魔物を逃がすようなら、作戦を強行する意味自体ないし。


「…………」


 ――なんか全体的に、エリアスの腹黒さを感じるなあ。

 公園に公爵たち戦力が出てる間、会場に残された家族は、自分の目の届かない場所で危険にさらされる可能性が高いわけで。


 ある意味、家族が人質状態だよな。心配なら、外に出てる主力チームは、敵を瞬殺してさっさと戻ってこい、って感じ。トリスタンとマックスなんて完全にその策にハマるはず。少しでも安全な場所に私を置くのも、あざといアピールだな。

 まあ、危険の最前線の筆頭はエリアス自身、しかも自分の妻子含むわけだから、公平ではあるけども。そういう部分で妥協を引き出して、不満を抑えさせてるわけかな。

 いや、でもよく考えたらその妻子、並みの騎士よりよっぽど強いぞ。そこも考慮したら、やっぱりズルくね? まあ、イーニッドと双子を領地に置いてきたうちが言えた義理じゃないんだけど。


「問題ないだろ。何が出てこようが、すぐに潰して戻ればいい」


 トリスタンがどうでもいいように答える。

 ああ、ほら、早速ハマってるし! まさしく思う壺だし! 一刻も早く私の元に駆け付けるために、超やりすぎそう。


 基本的に冷静堅実が、グレンヴィル王家の特徴なんだけど、でも攻める時は、自らの身を危険にさらす決断もする。さすがにキアランの父親というか。

 エリアスも大変な時期に舵取りする立場になって気の毒だけど、立派に成長したもんだ。

 今の息子の姿を、コーネリアスにも見せてあげたいとこだったね。


 そのあと帰ってきたマックスにも打ち合わせの内容を話すと、反応はほぼ予想通りだった。


「絶対すぐに片付けて、そっちに戻るからな!」


 トリスタンと大体同じ。やっぱりこっちもハマってる!


 なんだか、密かにほくそ笑むエリアスが見えた気がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ