ショップ巡り
ここしばらく窮屈な生活だったけど、休日の今日は、久しぶりのお楽しみがある。
明後日の建国祭のために前ノリで王都にやって来たロクサンナと、王都のショップ巡りだ。暗示事件の前から約束してて、すごく待ち遠しかった。
ロクサンナとの交友関係は、すでに公表されてるから、普通に仲良くお出かけもできるのだ。
ちなみにヴァイオラは、休日も王立騎士団の訓練に参加。忙しいとこ、叔母様と遊びに行っちゃって悪いね!
待ち合わせ場所は『マダム・サロメ』。建国祭で着るドレスの受け渡しがある。
「グラディス、すっかり美人になったわねえ。スタイルもいいし」
「ふふふ。そりゃあ、しっかり管理してるからね!」
ドレスの試着をしながら褒めてくれるロクサンナに、ドヤ顔で胸を張る。無意味な謙遜なんて、私はしませんよ! たまにうっかり節制の度を越して、マックスやらキアランやらに苦言を呈されるくらいだからね! 女子より男どもの方がうるさいんだ。
今日の予定は、ロクサンナに合わせて高級店のハシゴ。
私より長身の美人と並んで歩くには、少しも手は抜けない。しかも私と比較にならないくらいの超有名人だし。
ちょっと前までだったら大人の色気に対抗して、迷わず可愛らしい路線一択だったけど、最近は成長してガーリーを卒業する時期に来てる気がする。残り少ない期間、ラストスパートでフリフリを楽しみたい。
フリルとリボン多用のロリータ風のブラウスに、ハイウエストのサーキュラースカート。レースアップのロングブーツ。スカートは叔父様判定ではギリセーフの膝丈だ! 世間の風潮に合わせて、基準が柔軟になってきてる。これも私とサロメの10年に渡る活動の成果ですな!
ドレスコードに引っかかる場合があるから、パンツスタイルはやめといた。こっちは世間に浸透させるには、まだまだだ。
注文されてたドレスとアクセサリーを、ロクサンナに問題なくお買い上げいただいて、店を出る。
あとは特に予定を決めず、女友達二人でセレブの街ブラだ。実はこれが一番楽しみだった。
何しろ護衛なしの行動が久しぶり! 国内最強の一角、オルホフ公と一緒で万一なんてありませんからね!
そういうわけで、今日だけは、常に張り付いてる護衛がいない。この気ままな解放感、サイコーですな!
せっかくの機会だし、ホントは行きたいところも色々あるけど、今日は高級街限定。
ロクサンナというトップスターと一緒だと、ファンに付きまとわれるのは避けられない。マナーと警備のしっかりした場所でないと、気楽に出歩けないのだ。
「グラディス、今度は学園内で事件が起こったそうね。森林サバイバルの時といい、だんだん世の中物騒になって来たわね」
「ホント恒例行事だけど、建国祭は心配だよね」
2年前、ユーカが召喚されたのが建国600年祭。あの時みたいに何日も大掛かりにやるわけじゃないけど、建国祭はこの国にとっても大事な行事だ。
特に預言者集団の祝詞の儀式は、ゲートの封印効果が、多少なりともあるはずだと私は思っている。だからこそ何百年も連綿と続けられてきたわけだし。
「ここ何年か、人が集まったイベント時が狙われてるんだよねえ。去年は無事だったけど、今年はどうだろう? 対策はどうなってるのかな?」
暗示事件がひと段落した後も、ユーカが輪をかけて忙しそうにしてたから、何かやってるとは思う。多分エイダたち預言者に協力して、予言の儀式とか頑張ってるはずだ。他にも色々できるようになってきてるようだし。
「エイダ辺りから協力要請とかされないの?」
「そういえば最近あんまりないかも。この件に関しては、私よりユーカの方がよっぽど使えるだろうしね」
「ユーカって、600年祭で召喚された子よね。まさかヴァイオラのクラスメートになるとは思わなかったわ」
あんなに怯え切ってた子がねえ、とロクサンナが感心する。
「ああ、そうだ。新歓バトルロイヤルではありがとう。グラディスのおかげで、ハンターもイングラムも抑えてヴァイオラが優勝できたわ。手口が違っても相変わらずで、新聞で見て超ウケた」
半年遅れのお礼。でも、なんか褒められた気がしないぞ。手口ってなんだよ。
「終わったことより、明後日の方が問題だけどね」
「600年祭の時は人物召喚だけだったけど、戦闘があるなら全然かまわないわよ。準備はしてあるし」
不敵な笑みを浮かべるロクサンナ。去年の建国祭では、かっこいいパンツスタイルのドレスを身にまとって、素晴らしい広告塔の役割を果たしてくれた。もちろん目的は、いつ戦いが始まってもいいように備えたためだけど。
さっき試着した今年用のドレスもそう。当然愛用の武器も会場に持ち込む。警備上どうなんだって気はするけど、普通に許可されてるのが、この国らしい。
参加する有力騎士は、去年からほとんどが同様。不測の事態に備えて、すでに戦う気満々だ。いつでもどんと来いと言わんばかりで、みんなちょっと落ち着けと言いたい。この国の貴族は警備員以上に、揃いも揃って血の気が多すぎやしませんかと。
国家行事で、みんな正装なのに武器所持とか、ワタシ的にはちょっとわくわくしちゃうとこは否めないんだけど。正直、私がデザインしたドレス姿で愛剣を佩いたソニアには、うっかりトキメキましたよ。そんな場合じゃないのに、一体どこのイベント会場ですかと。
王都の守りは騎士団と魔術師団の役割だから、ロクサンナにはあんまり関係ないとはいえ、国からの協力要請には応じる義務がある。建国祭のために各地から強力な戦力が集まってくるから、その点は心強い。
毎年、建国祭と社交の時期には、王都にオールスターが大集結するからね。
トリスタンも明日到着予定。公爵の義務として儀式に終日参加したら、翌日にはまた領地に戻るという。いくつになっても相変わらずのせっかち野郎だ。
でも一緒にいる間は、何が出てこようが安全は保障される。私の秘密も知ってるし、最悪ナイショの力も、協力を仰いで各種使うことが可能になる。
最近トラブル続きだけど、来るなら来やがれという気分になってる辺り、やっぱり私もご多分に洩れず、この国の貴族なんだな。
――いや、元からか。




