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独走

 変な空気感は覚えながらも、いつも通りに隣の席で授業を受ける。


 なんだか先生の声が脳を素通りしていく。我ながらなんて集中力のなさだろう。こんなの初めてだ。


 生徒たちの相談に散々乗ってきた私が、まさか友人関係で悩む日が来るとは。それを思えば、随分と若者らしく健全な人生を送れてるってことでもあるんだけど。まさに青春の1ページってやつか。全然楽しくはない。

 ニヤニヤ眺めて頑張れとか思ってたもんだけど、今まさに私が頑張らなくちゃならない状況になったわけだもんな。


 こういう私らしくないのはイヤだな。

 うだうだ悩んでてもしょうがないし、建設的に取れる対策を取っていこう。


 とりあえず問題点は分かってる。家族でもないのに甘えて頼り過ぎたのが、最大の改善点だ。よく考えたら、確かにおかしかったよ。

 実は授業が終わったら、この後すぐにも普通に頼るつもりでいたんだけど、そういうとこから改めていこう。


 友達とは言っても他人なんだから、そこはちゃんと弁えないといけなかった。弟をいいように使うのと同じ感覚じゃ、さすがにダメだったよね。いくら頼りになるからって、厚意に胡坐をかきすぎたというか……。引かれても当然だ。


 これからは、自分でできることは、自分でやろう! しっかり反省して、友達の範疇を超えるような迷惑はかけないようにしなければ。


 目標さえ決まれば、私は突き進めるのだ! 今日から早速実行だ!


 授業が終わってから、授業前とは対照的に、やる気と決意を漲らせて、キアランに言った。


「私、用事あるから、先に帰ってて」


 いつもは当然のように一緒に教室まで戻る流れから、変えるところから始めてみる。これで否応なく巻き込んじゃう展開は避けられる。私はきっちり自立するのだ。

 

「用事?」

「うん。キアランを付き合わせるほどのことじゃないから」


 出し抜けの提案に不審がるキアランを、まずは強引に帰らせた。ニュー・グラディスは、いちいちプライベートなことにまでキアランを巻き込まないのだ!


 入学して半年以上過ぎ、最近になって急に、身の周りで変わってきたことがある。


 今までは割と珍獣扱いというか、遠巻きにされてるとこがあったけど、さすがに慣れてきたらしい。私をガチで口説こうとする剛の者が、ちらほら出始めて来た。


 ユーカに言われたモテモテという評価は、それほど外れているわけでもない。ただ表面上、私に物理的にたどり着ける男子が、ほとんどいないだけで。

 何しろ私、学園内で一人になることが滅多にないし、学園最強の番犬がいるし、呼び出されても応じないからね。接触する機会自体がない。特に付き合いもない相手からいきなり言い寄られても、めんどくさいだけだもん。


 入学当初は物珍しさからか多少はあった待ち伏せも、私の回避とガードの高さから、すぐなくなってたんだけど、最近急にその手の予知が増えた。全部潰してはいるけど、一人で学園内を出歩いたりしたら、多分遠慮なく湧いて出てくると思う。


 ここしばらくちょっとへこんでたせいかな。ヴァイオラに隙だらけだと忠告されたし、付け入るチャンスだと思われてるのかもしれない。基本的に脳筋の肉食ばかりがうじゃうじゃいるこの学園。弱ったら狙われるのがむしろ当然。気を引き締めないと。


 今日もいつも通りキアランを虫よけにして教室に戻るつもりだったけど、これからはモノグサはやめて、ちゃんとなんでも自力で対処するぞ。小さなことからコツコツと! 単に楽してただけで、私はやればできる子なのだ。


 独り立ちする意気込みで、久しぶりの単独行動に乗り出す。まずは物理的な危険から遠ざかる学園内で、不精のリハビリだ。

 面倒な接触を避けられるルートくらい、私には苦も無く選べる。言い寄ってきそうな存在が、帰り道に複数予知できたから、ちょっと遠回りしていこう。一人一人にいちいち対応するよりは、断然手っ取り早い。


 近寄りがたい空気を醸しながら、足早に通路を歩いた。ザカライア時代と比べて、甘ったれになり過ぎた自分に活を入れるぞ!


 ああ、でもなんで2階分階段を上がってから、またすぐ、別の階段を1階分降りるのか。この無駄すぎる行程。リゾートホテルの温泉ルートかっての。やっぱりメンドくさ……いやいや、だから、モノグサを改めるんだろ!? しっかりしろ、ニュー・グラディス!!


 よし、あとはいったん外に出て、校舎裏をぐるっと回って教室棟に戻るだけ。


 そこで、足を止めた。


「え?」


 そこにいたのは、ガイだ。珍しく、お仲間なしの一人きり。でも、おかしい。


 私は感覚をフルに研ぎ澄ませているのに、目の前に立たれるまで、まったく感知できなかった。


 少し離れた場所からでも、異変が分かる。今のガイの目には感情どころか、いつもの強い意志の光も見当たらない。


「――うわ……」


 これ、マズイやつだ!! なんで私が一人の時に!? 狙われてた!?


 踵を返そうとした瞬間、ガイの姿が消える。初対面の時と同じ状況。でも、先は全く読めない。


 ガイから、黒い瘴気の気配がした。


「――っ!!」


 やられる――覚悟を決めた瞬間、ガイの流れるような動きが目に捕らえられた。

 私のみぞおちに、拳が狙いすまされているのが目視できた。見えない速度でやられたら、さすがに私死ぬからね。とりあえず殺意はないらしい。だからってまともに受けるのは御免だ。反射的に掌で防御した。


 触れた瞬間、強力な静電気が弾けたようなショックが、触れた部分に走った。


「くっ!!!」


 お腹への直撃は避けられたけど、パワーの差はどうにもならず、吹っ飛ばされた。背中からの激突を覚悟した直後、衝撃を殺すようにふわりと受け止められた。


 見なくても、その腕が誰かは分かる。


「一体、何が起こってる!?」


 キアランが、珍しいくらい鋭い口調で怒鳴った。


 ――ああ、グラディス自立計画がいきなり頓挫か……。


 がっかりはしたけど、やっぱり()()はほっとする。


 条件反射のようにぎゅうっと抱き付きかけて、はっとした。ああ、これをやっちゃうからダメなんだ。


「グラディス、怪我は?」


 ガイを睨みつつ確認するキアランの腕から、もがくように飛び降りた。


「大丈夫」


 掌がじんじんと痺れるけど、不思議と痛みはない。問題なく立てるし動けた。


「――グラディス……?」

「とりあえず、ガイを動けなくできる?」


 ガイから目を離さないまま、不審そうな声で呼ぶキアランに、注文を付けた。

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