表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/378

我儘令嬢の疑問

 今日の午前中は予定を変更して急遽、家庭教師の先生方のお別れ会を催した。

 一見厳しそうなやり手執事のジェラルドは、急の指示にもかかわらず、文句の付けようのない完璧な準備を手配してくれた。


 突然の解雇とはいえ、お払い箱でハイさよならというわけにいかないからね。

 私の可愛い教え子たちにそんなふざけたマネをする奴がいたら、バレないようにキツイお仕置に行くよ!!


「先生、急なことでごめんなさい。今までお世話になりました。もっといい職場を叔父様にお願いしたから、これからも頑張ってくださいね」


 ボロを出さないように気を付けながら、謝罪と激励をする。


「いえいえ、お嬢様も今後の自主学習、頑張ってください」


 元教え子のアイラが代表して、実にいい笑顔で応じた。


 あれ? みんな怒ってない? それどころか、清々しい笑顔!? もしかしてせいせいしちゃってる!?


 ――ザカライア先生、泣いちゃうよ!!!


 でも、これが普通の対応なんだろうなあ。我儘で気まぐれでクソ生意気な子供に振り回されるより、もっと扱いやすい子供を教えたいよねえ。

 私は手ごたえある方が好きだったけど。

 やっぱりうちの人たちが普通じゃないのか。


 お別れ会を済ませ、厨房に足を運んで、今後の食事内容について事細かく指示を出す。

 バランスや量、レシピや出す順番、回数、時間まで、正直凄くめんどくさいと思う。たんぱく質、糖質、脂質、ミネラル、ビタミンを偏らずに少しずつ、かつ多種類で取りたい。

 私の場合、アスリートとモデルの食事制限のいいとこどりの折衷仕様で、特に細かい。

 それでも、アデルは一言一句漏らさないよう、真剣にメモを取ってくれた。


「早速今夜から実践しますよ!」


 すごく張り切ってくれている。

 昼食の用意と後片付けが終わったら、すぐに市場へと買い物に出かけるそうだ。

 アデルを見送って、私はいつも傍に控えてくれているザラに尋ねた。


「この屋敷の人たちは、どうしてみんな、私の頼みを何でも聞くの? 家庭教師の先生方のように、面倒だとは思わないのかしら?」


 ザラは私が五歳の頃からお世話をしてくれてる侍女で、大きな商家の娘。この王都別邸の執事ジェラルド(34)と去年、年の差婚をしてからも、引き続き私についてくれている。一回り年上のしっかり者のお姉さんと言った感じ。


「お嬢様の素晴らしさは、深く付き合わないと理解できないのでしょう。お嬢様はいつも通り、人目など気にせずお嬢様らしく自由でいらっしゃるのが一番です」


 ザラは微笑んで答えた。さも当然とでも言いたそうに。


 おおうっ、何か知らんが、太鼓判を押してもらったぞ! やっぱり私の方針は間違ってないわけだな!

 よし、今後も自由にやっていこう!!


 あれ? ちゃんとした答えになってないな。


 釈然としないものを感じつつも、昼食となり、それが終われば、午後のスケジュールはお稽古事。


 これは令嬢としての必須のスキルなので、今後も続行する。というか、ダンスとかピアノ(もどき)とか刺繍とかマナーとか、全部私がやりたかったことが目白押しなんだよ!


 まさに、ザ・お嬢様! って感じでしょ~! ダメと言われてもやりますよ! 1周目でどれだけ憧れてたことか!


 食後、すぐにダンスレッスン用のドレスに着替える。


 うん、さすが私。練習着ですら、手を抜いてない。今日のドレスはマダム・サロメのお手製、淡いブルーのフワフワが素敵な特注品。しかも別デザインが5着もある。成長期で一年も持たないのによくやるね。もちろんこれからもやります(ビシッ)!!


 そして意外というか当然というか、私は社交ダンスにハマっていた。かつて毎日空手の(かた)に打ち込んでいたように、毎日ダンスの基本動作の練習に余念がなかった。


 うん、記憶がない時でも、やっぱり私なんだなあ。もしかして本来の私って、性格悪いのか? 記憶が戻ればこんなに善良なのに。――解せぬ。将来殺されないように、気を付けねば。


 一流の先生の元、みっちり2時間ほどのレッスンを終えたところで、手が空いたらしい叔父様が見学に来た。


「叔父様~! 一緒に踊ってください!!」

「喜んで」


 大はしゃぎでおねだりした私に、叔父様は笑顔で答えてくれた。

 向かい合ってセットし、ピアノの演奏に合わせてくるくると踊りだす。


 ああ、イケメンにリードされて踊る社交ダンス! なんて楽しいの~~!!

 大きな手に、私の手を取られ組み合ってるのに、柔道の乱取りとは全然違うのよ~~!!

 優雅!! 優雅だわ~~!!

 

 私、今人生絶賛謳歌中~~~!!!


 心の中でひとしきり思う存分叫んでいるうちに、踊り終わった。あ~、堪能しました!! ごっつあんです!!


「上手になったね。これならもういつでも社交界に出られるね。君なら注目の的だろう」


 叔父様が褒めてくれて、気分も急上昇。


 おお~う! 上流階級(セレブ)の証明、社交界!!

 憧れる!! 憧れるけども!! 

 ――多分、知り合いだらけなんだよな~。


 う~ん。とりあえず、保留で。成人までまだ5年あるもんね。


 それよりまだ物足りないなあ。ダンスだけじゃ、やっぱり偏る。

 明日からまた空手の(かた)を始めよう。

 スタイルを創り上げるためのトレーニングも。

 アスリートのトレーニングはもうやらないけど、モデルさんレベルのエクササイズは必須だよね。

 早速メニューを組もう。

 あっ、そうだ! トレーニング用のウエアをマダム・サロメに発注しないと!

 ああ、忙しいなあ。


 この夜の食事メニューは、文句の付けようのないものでした。ありがとう、アデル。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ