検証
「で、実験って、何やるんだよ」
私の部屋に二人きりになったところで、マックスがわざとらしく部屋をきょろきょろしながら訊いてくる。
「はいっ、邪なことは考えないように! これ、今後の展開を左右する真面目な検証だからね!」
内心浮かれながらも、ビシッと釘を刺す。
私が魔法を使えることを知っているのは、現時点でマックスとキアランだけ。確かなことがまだ何も分からない状態で、他に情報を出したくない。外出するともれなく護衛がついてくるから、うっかり外にも出れない。
そういうわけで、まずこっそり、私の部屋で、自分の能力の検証をすることにした。代々の大預言者がやって来たように、今度は私が試行錯誤する番なのだ。決して好奇心を満たすためだけじゃないぞ!
さあ、グラディス魔女っ娘化計画、は~じめ~るよ~~~~!!
今までトラブルに何度も巻き込まれて来た中で、私が切実に欲しかった能力は、ぶっちぎりで転移魔術。防御もあればいいけど、攻撃はあまり重要だと思わない。
私に命のやり取りのあるガチ戦闘は無理だ。やりたくないことを、無理に頑張ろうとも思わない。付け焼刃で攻撃するくらいなら、さっさと逃げる。
だからこその転移魔術。やり方は分かってるし、実際に一度やってる。ネックは本当にエネルギー問題だけだ。魔力の入ってた石が使えるなら、魔力のある人間でもいけるんじゃないか?
「とりあえずそこに、動かないで普通に立ってて」
マックスと、1メートルくらいの距離で向き合う。ファーン大森林でやったそのままの感覚を思い浮かべても、何も起こらない。
少しずつ、距離を詰めていく。でも駄目だ。
よく考えたら、あの時は、守護石をガッチリ握りこんでたな。思い返してみて、マックスの手を握ってみたら、一瞬で魔法陣が展開した。手を繋いだまま、二人揃ってマックスの部屋に移動していた。
「うわっ、マジか!?」
突然自分の部屋にいて、マックスも目を丸くする。距離も近いし、イメージしやすい場所だったせいか、まったく苦労はなかった。
「スゲー。お前に一番必要な魔術だな。危険に遭遇したら、すぐに逃げられる」
私が危険から遠ざかる手段を持てることに、マックスが表情を輝かせた。
「うん。ただ、それなりの魔力持った人に寄生しないとなんだよね。ちょっと待ってて。次の検証で、また私の部屋に戻ってみる」
ちょっと応用してみたい。
しっかり手を握ったら、魔力の補給元のマックスと一緒に転移した。じゃあ、軽く触れただけならどうだろう? 或いは直接触れない場合は?
片手で、服の上からマックスの胸に徐々に触れてみる。べったり掌をつけても、何も起こらない。
ダメか。もう片方の手を、同じように当てて、両手で触れたら、再び私の部屋に戻った。
私一人が。
すぐに部屋の外から足音が近付いて、ドアがバタンと開く。
「おい、焦るだろ!? 一人で消えるなよ!!」
中に私の姿を確認したマックスが、一息ついた。
「何言ってるの! すごい収穫だよ!?」
私は大興奮で、はしゃがずにはいられない。
両手を使うのが肝なのか、接触面積の問題か、それとも触れる部位なのか、それは今後の検証次第としても、途轍もない成果だ。
「周りに味方がいなくても、最悪魔力持ちの敵に両手で触れれば、私だけ逃げられるんだよ!」
敵から魔力だけ引き出して、自分一人だけでトンズラ!
これは相当便利な脱出手段だよ!? もし誘拐事件の時にこの能力が使えていたなら――って、あれ? 強力な魔力持ちが、敵味方誰もいなかったから、意味なくね?
あれえ~? 意外と、使い勝手が悪いぞ。
結局私一人じゃどうにもできないのは、今までと同じってこと? ああ、なんか一気にテンションが……。
「マックス、魔力の感じはどう?」
ちょっとガッカリだけど、検証はしっかり続けなければ。
「あんまり影響受けた感じはしねえな」
「おお、素晴らしい低燃費!」
転移魔術は、意外に魔力消費が多くないらしい。次は長距離で試してみよう。
もう一回マックスと手を繋ぎ、行きたい場所を脳裏に思い描く。
温度も湿度も瞬時に変わり、目を開けたら湯煙に包まれていた。
「おい、なんで露天風呂なんだよ……っていうか、ここ、まさかラングレーか!?」
隣でマックスが、唖然として叫んだ。私の大好きな、ラングレー城敷地内の女風呂だ。
うん。我ながらこれはスゴイ。里帰りが大分楽になりましたよ。何なら、夜中にでもこっそり浸かりに来たいとこだ。もう馬車で5日間も揺られるなんて、馬鹿馬鹿しくてできなくなりそう。
「朝の露天風呂なら、人がいないでしょ」
ドヤ顔の私に、マックスが呆れた表情をする。
「いやいや、掃除とか管理とかで誰かいる場合はあるからな? 気を付けろよ」
「……あ」
確かに――。失敗失敗。転送先を事前に確認する術が欲しいとこだな。よく考えたら、私はともかくマックスを、下手したらノゾキ男にするとこだった。男風呂ならオッケーか?
「魔力はどう?」
「さっきよりは、それなりに多めに持ってかれた感じだな。まあ、問題なく帰れると思うけど」
「やっぱり距離に比例するか」
考えながら、頭の中の大量の魔術に検索をかける。え~と~、あったあった。透視の魔術を引っ張り出して、王都の私の部屋をのぞいてみた。
誰もいないのがはっきり見える。
「よし、戻ろう」
せっかく来たんだから、ひとっ風呂浴びていきたいとこだけど、誰かに来られたらひと騒動が確実だから、ここは諦めるしかない。くそう。
後ろ髪を引かれながらも、未練を断ち切って、再度王都の私の部屋に戻る。特に問題なかった。
おお、呆気ないくらい順調だ。あれほど憧れた魔法を、こんなに簡単に使いこなせるとは。
「じゃあ、場所を思い浮かべての移動はできたから、次は人を対象にしてみよう。場所のイメージがなくても、特定の人間の元に跳べたら、活用の幅が一気に広がるよ」
「おい、人って……」
ウキウキする私と対照的に、マックスがなんか露骨にイヤそうな顔をする。
なんだその反応は。友達に、ずいぶんな態度だな。
「私の魔術を知ってるのは、あとはキアランだけでしょ」
「絶対置いてくなよ」
マックスが私の手をぎゅっと握り直した。
「キアランの場合は、とりあえず周りに人がいないかの確認は必須だね」
「城で、常に人に囲まれてそうなイメージだもんな」
透視で、キアランの姿を確認する。
あれ? なんか、違和感がある。なんだこれ? キアランの姿ははっきり分かるのに、周囲の状況が確認できない。人の気配が、不自然なくらい周りに感じない。まあ、人がいないならいいか。
キアランの姿目指して、早速転移を試みた。
「うわっ!?」
マックスの驚きの声を遠くに聞きながら、何かのトラブルを感じて、焦って目を開けた。
「――グラディス……」
目を見開いたキアランが、不思議な空間で、私を見つめ返していた。




