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バッテリー

 昨日お昼頃に帰宅してからは、熱を出してぶっ倒れて大変だった。


 多分、一部とはいえ大量の情報を脳が消化するのに、結構な負荷がかかったせいだろう。

 マックスと、慌てて帰ってきた叔父様を、また心配させてしまった。


 予定が丸々半日空いたわけだし、むしろ時間的余裕だけはたっぷりあったのがせめてもの救いだ。学園と大会に関係した大人たちは、死ぬほど忙しかったろうけど。そして数日は事件の事後処理で大恐慌だろうけど。


 私はと言えば、昨日はずっと、ベッドで寝込みながらも、あの出来事についての考察を進めていた。


 波乱の森林サバイバル大会の翌日は、休校日。

 学園イベント翌日はさすがに疲れるだろうと思って、予定をフリーにしておいてよかった。


 熱は一晩寝たらすっかり回復してたから、膨大な情報は完全に処理できたんだと思う。 

 普通に起きて、しっかり朝食も取れた。それから新聞を各紙読み比べながら、再び思考に沈む。


 新聞によると、昨日の大事件では、重傷者は出ても、救助が早くて死者はいなかったという。ひとまずほっとした。

 獲物をまず生け捕りで確保する習性が、幸いしたらしい。糸で巻かれた被害者の救出に、騎士団員たちは相当難儀はしたようだけど。


 私たちが避難した後、急遽王都から招集をかけられた騎士団が大集結して、総掛かりで森林に残った蜘蛛を殲滅したそうだ。

 これで、今回の件は完全に収束できたということだね。


 そして私にとってあの出来事は結果的に、予行演習というか準備運動というか、そういう位置付けになるものなんだと思う。


 だって、ファンタジー世界に転生して苦節トータル約70年、生まれて初めて魔法が使えたんだもん!!


 私にも直接戦う手立てがあると判明したのは、非常にテンションが上がる事態だ。まさに展望が開けた心境。


 昨日私の中に、預言の塊の一部が溶け込んで形を為した。人類に蓄積された古今東西の魔術の知識と技術が、ごっそりモノになっている。

 正直、ヨッシャーと、大声でガッツポーズしたいとこだ。というか、昨日ベッドで熱に呻きながらやった。


 ただ現状、私には魔力がない。


 なんなんだよ、この、伝説のレーサーと超絶スーパーカーが準備万端で待機してるのに、ガソリンだけ一滴もない感じは。まったく腹が立つったらないな。


 ああああっ、魔力さえあれば、どんな大魔法だって使いこなせるのに!

 なんで私には魔力がないんだよおっ!?


 その理由も、昨日の一件で情報として脳に残されてはいる。


 本来、預言者は人並み外れた魔力を持っている。昨日の赤い守護石に込められていたのは、ガラテア自身の魔力だ。

 きっと600年前、ファーン大森林での不吉な未来を予見したガラテアが、何とか余力を絞って、私のために用意しておいてくれたものだろう。


 長い間に侵略者との戦い方は試行錯誤されていっていると、カッサンドラは言っていた。


 他のゲートが塞がって、敵の攻撃が唯一残ったゲートに一点集中してきた2代目デメトリアの時代の戦い方は、とにかく持ちこたえるための火力が重要だった。


 だから守護石に、デメトリアが生まれてからの魔力を常時蓄え続けることで、来るべき戦いに備えた。大預言者が普段魔力が使えないのは、全部貯金に回してるせいだ。貯めるだけ貯めたら、必要な時に一点集中で派手に使うために。

 つまり守護石は、魔力の充電池でもある。


 そもそも大預言者の存在意義は予知・予言なわけで、日常で魔術なんか使えなくても他の人間で十分補える。

 求められる最大の役割は、侵略者のこの世界への侵攻を防ぐこと。それ以外の場面では、戦闘力なんて、ないならないでも構わない感じだ。


 それでもなおデメトリアは、防御で精一杯で、完全に塞ぐことはできなかった。生まれた時から溜め続けた魔力でも、まだ足りなかった。


 そこで今度は、300年後の戦いに向けて、すべての預言者の魔力すらも、余さず吸収することになった。預言者が魔力を持たないことが当たり前になった流れは、ここ300年のことだ。

 その管理は、全てカッサンドラが請け負っている。


 私の胸元にある守護石には、300年の間に生存した、ほぼ全ての預言者の魔力が込められている。

 トリスタンだけ例外なのは、すでに複数いる預言者の一人に埋没させるより、物理的な最強戦力として戦わせた方が、明らかに有用だからだろう。


 何より特筆すべきなのは、私の守護石には、ザカライアの約半世紀分に亘る膨大な魔力も全て蓄積されてて、結構すごい状態になっているってこと。


 今度こそ完全決着のために、かなり万全の準備を整えている最中と言える。

 当事者の私が、全部カッサンドラ任せなのは悪いとは思うけど、必要になった時だけの情報の後出しは、精神衛生上は結構ありがたい。初めから全部背負わされてたら、またメンタルを持たす自信がないもん。


 ――それにしても、ザカライアの人生って、ただのバッテリーだったみたいな気がしてきた。いや、そんなバカなっ……。

 でも非常に心強い。現時点でグラディス1代分の、3倍以上のブースターがかけられるわけだもんな。


 とにかく私自身、超強力な魔力が絶対あるはずなのに、全部魔力貯金に回されてて、最終決戦の時までは多分使うこともできない。


 でも、せっかくチート過ぎる技術も知識もあるんだから、何とか有効利用はしたいところだ。こんな宝の持ち腐れは、あまりにもったいなさすぎる。

 燃料さえあれば、私は転移魔法すら使えるのに。


 ちなみに転移魔法が失われたのは、この魔術が向こうの異界寄りの技術だったせい。

 次々とゲートが塞がり、良くも悪くも、向こうの世界との関わりが多くの地域で薄れて、黒い瘴気の利用法をも失った。そのせいで徐々に体得できる者が減り、結果として逸失してしまった魔術の一つ。

 きっとユーカなら使いこなせるはずだから、あとで教えてやろう。


 魔術だけ見ても、結構向こうの技術との融合が見えて、長い歴史の中で互いに計り知れない影響を与え合ってきてたんだと気付く。

 もちろん、彼らを受け入れることはないんだけど。安全で平穏な生活と引き換えにしてまでの技術革新なんていらない。


 そういうわけで、時間ができた今日は、夢のグラディス魔女っ娘化計画に、こっそり挑戦してみようと思う。


 アシスタントは、マックスだ。基本的に強い魔力を持ったパートナーがいないと、私一人では実験すらできない。


 非常に機密性を求められる検証になるから、あんたがダメならキアランに頼むと言ったら、喜んで修行のスケジュールをキャンセルしてくれた。

 別に無理してまで付き合ってくれなくてもよかったのに。

 

 さあ、数十年来の私の野望。憧れの魔法使い! ついに手を出す時が来ましたよ!!


 超、楽しみ~!! 

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