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救助

 現在巨大蜘蛛の団体さんに囲まれて大ピンチ。


 な場面なんだけど、さっきまでの先行き不透明な感じが掻き消えてる。

 ゲートが完全に閉じて、この場所の異界との繋がりが完全に断たれたせいだろうな。黒い霧に覆われてた視界が、一気にクリアになった感じだ。


 蜘蛛たちからも、最初の不気味な存在感を感じない。向こうの世界からの影響が消えたせいかな。急速にこの世界の魔物として定着した様子。


「もう戦う必要はないよ。とりあえずひたすら逃げて」


 やたら重く感じる腕を何とか挙げて、安全と感じる方へ指し示した。


「あ~、もう、意味が分からねえ! 結局お前何やったんだよ!?」


 マックスが愚痴りながらも、先に飛び出して、脱出の道を切り拓いた。私を抱えたキアランもそれに続く。


 確かにマックスから見たら、蜘蛛の密集地に自ら突入して、光った木に飛び込んだと思ったらこの場所に放り出されてて、いきなりもう終わったと言われても、意味が分からないよな。まあ、まだ終わったわけじゃないんだけど。帰るまでが遠足だからね。


 私の緩んだ空気が二人にもはっきり伝わったようで、適度な緊張感は持ちつつも、逃げに徹する様子には落ち着きが見えた。


「あと少し! そこちょっと多いけど、突っ切ったら助かる!」


 脳裏にはすでに助かる道筋が、はっきり見えてる。私の言葉をまったく疑わない二人も、完全に指示に従って、見えるだけで5匹はいる、あからさまに危険そうな密集地に飛び込んだ。


 蜘蛛の意識が一斉に私たちに向いた瞬間、潜んでいた10数人の騎士たちが、死角をついて現れ、鮮やかな手際での瞬殺劇を見せてくれた。


 打ち合わせもないのに、派手に動く私たちを囮にして、瞬時に片を付けたわけだ。

 私は分かっててそのつもりでの動きだったんだけど、チャンスを迷わずものにする瞬時の判断は見事なものだ。私みたいに先が見えてるわけでもないのに。


 これで私たちの安全は、ほぼ確定。今度こそひと安心だ。


 そしてこの小隊の指揮官が、周囲の安全確認をしてから現れる。


「大丈夫ですか!? お怪我はありませんか?」


 ルーファスが、険しい表情で駆け寄ってきた。他の二人も目に入らない様子で、ぐったりと抱きかかえられてる私の元へ。

 こらこら、いくら怪我人に見えるからって、露骨すぎる!


「ちょっと疲れて動けないだけで、問題ありません」


 今日は教官ではなくて騎士団員のルーファスに、笑顔で答える。手に負えない根本の部分は対処できたから、もう大丈夫だよ、という思いを込めて。


 ルーファスは隠しきれない困った表情を浮かべる。

 もう私は、心配させないという約束はしない方がよさそうだな。絶対守れないもん。こうやって全方位に、心配かけまくってるわけだし。


 ルーファスは言いたいことも随分ありそうだったけど、それでも何とか抑えて、キアランに向き直る。


「我々が護衛をします。すぐにここから退避してください」

「分かった。頼む」


 キアランも王子として対応し、それからマックスに目を向けた。


「マクシミリアン。後は頼む」

「おう」

「――へ?」


 当然のように、私をマックスに受け渡した。キアランの腕から、マックスの腕へと。


 あれ!? なんで? ――なんか、ショックだ。


 そしてある可能性に思い当たり、ハッとして二人に尋ねる。


「私、重い!?」


 子供の頃からいまだに、叔父様やトリスタンに楽々と抱っこされてたもんだから、それが当たり前で、あんまりそういう意識がなかった。


 細身のつもりだったけど、背は高いし、一部想定以上の肉が付きすぎてるせい!?

 今まで普通に頼ってたけど、いくら騎士とはいえ、実はそこそこの負担になってたんだろうか? 成長の加重なんて誤差の範囲くらいのつもりでいたよ? 実はソニアにも無理をさせてた!? タクシー運賃は弾むべきでしょーか!? 大至急エクササイズメニューの見直しをしなければ!


 乙女の切実な問いに、二人は顔を見合わせ、どこか脱力した表情を返した。


「大丈夫だから、これ以上痩せるとか言うなよ?」


 私を抱えたマックスが、至近距離から呆れた視線を突き刺す。


「じゃあ、なんで急に交代!?」

「非常事態が終わったんだから、あとは身内に任せるものだろう? 本当に、勘違いして無理な減量はするなよ? お前はすぐ限度を忘れて、極端に走るからな」


 キアランも困った顔で言い聞かせてくる。ああ、なんか私が駄々っ子な感じになってる!? こう見えて一番の年長者ですよ!?


「それに、正直俺も体がキツイ」


 私を降ろして身軽になった手足を、ほぐしながらキアランが続けて言う。


 あ、そうか……キアランだってあの空間に行ったんだから、体への負荷は私と同じようにあったんだ。


「ごめんね。ありがとう、キアラン」

「――いや。感謝するべきは、俺の方だ。ありがとう、グラディス」


 周囲の騎士たちには、助け合って危機を乗り越えた仲間同士の、微笑ましい会話に聞こえるかもしれない。 

 でもその言葉の裏には、別の意味が込められている。


 今回の件の詳細は、表沙汰にしない。誰もお前の多大な貢献に感謝することはない。だから、俺だけは――。そんな気持ちが、はっきりと伝わってくる。


 正面からお礼を言われて、なんだか照れる。

 ちょっと浮かれた気分で、何か答えを返そうと思ったら、準備が整った周りが動き始めた。


 騎士団に厳重な警護を受けながら、森の外に向けての脱出が始まる。遠い場所で戦闘の音が聞こえるけど、片が付くのも時間の問題だろう。


「おい、家帰ったら、ちゃんと説明しろよ?」


 周りに合わせて駆けながら、マックスが据わった目で迫ってくる。


「うん。もちろん、マックスにも感謝してるよ。ありがとう」


 体に力が入れば、感謝のハグをぎゅうっとしてるとこだ。と思ってたら、マックスの方から、私を抱える腕に熱がこもった気がする。

 うん? ――正直これはアウトだぞ?


 まあ、今日は特別だ。少しくらいは大目に見よう。頑張ってくれたもんね。


 ――と見逃したのも束の間、私が甘いのをいいことに、()()()()の範疇を大幅に踏み越えてきやがった。


 おい、その手をどうするつもりだ? 本当にこういうちゃっかりしたとこは、弟気質だな。


「こら。あんまり調子に乗らない! これ以上は出るとこに出る事案になるぞ!」

「姉上、判定が厳しいと思います」

「こういう時だけ弟面するな」


 軽口を叩き合いながら、いつもの日常に戻れる実感に、心から安堵した。

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